第55話 冒険者見込みランクの更新

「ハイディ先輩、何言ってるんですか? 確かに変な男はいましたけど、三つ目だなんて……もしかして、朝のこと、まだ怒ったりしてますか?」


 何を言われても、俺はシラを切り通した。

 大体、ハイディ先輩に真実を伝えたら面倒事になるのは目に見えているからな。


「そういえばウィンフィールドさん! あなたには他にも言いたいことがあったんですわ! どうやって水の洞窟をクリアしたんですの! モンスターが出なかったって、そんなことあるわけがないでしょ!」

「モンスターが出なかった? そんなこといいましたっけ」

「はっきりと言いましたわ! 私を蹴る直前! そーいえば、思い出しましたわ! 私、貴方に蹴られたんでしたわ! うっ、思い出したらお腹がじんじん痛く……」


 水の洞窟で俺のパーティが勝った理由。

 確かに言ったような記憶もある。


「おい、マリア。今のって……」

「うん」


 俺たちとは距離を置いて、後ろを歩いていたマリアとズレータが歩く速さをあげた。俺が水の洞窟で一着になった原因をあいつらも知りたいようだ。


「……あのな。お前ら。いい加減にうるさいぞ。主にハイディ、お前だ」

「はあ!? 私!?」

「お前だ、お前。あの場で何があったのかは知らないが、俺がもういいって言ってるんだからいいじゃねえか」


 おっ、ヨアハ。いいぞ。


 『聖マリ』の世界で、序盤のフィールドであるこのホーエルン魔法学園では屈指の強キャラクター、ヨアハ。

 でも、俺はゲームの中でヨアハを使うことはほぼ無かった。

 守護神ヨアハは強いけど、学園の外に連れていけないキャラクターだからだ。使い勝手の難しいキャラクターなんだよ。


「なっ! 貴方も気付いているんでしょうに! ウィンフィールドさんが、嘘をついているって!」

「んー……そうだなあ」


 後ろでヨアハの半笑い声が聞こえる。

 皆の前を一人で歩いている俺を見ている。そんな気がした。


「水の洞窟で卑怯な真似をして一着になったのは、そこの眠そうな目つきの人じゃない! あんな人に私のパーティが勝利を譲られて一番になっても、ちっとも嬉しくありませんわ! 納得出来ませんわ!」


 眠そうな目って俺のことか。別に否定はしないけどさ。


「はぁ……水の洞窟でのことは、そうだな……やっぱり、そうだよな。お前らは納得しないよな」


 重いヨアハの溜息。

 冒険者ギルドの職員ってのもの大変だな。依頼のたびに学生の相手をしないといけないんだから。素直にギルド職員に従う学生ばかりってこともないだろうし。


「——ウィンフィールド、お前は先に行け。俺はこいつらにちょっと話がある。明日になれば、嫌でも分かる話だが……ハイディのパーティとマリアのパーティは当事者からな、先に話してもいいだろう」


 俺抜きで話とか何それ。

 気になるけれど、これ以上ハイディ先輩から追及受けるのも面倒だし。


「じゃ、そういうことで」

「ちょっと待ちなさい! ウィンフィールドさん! 話はまだ終わってませんわ!」





 ミサキと別れて、ノースラディ家の別荘に向かったのが昼過ぎのこと。

 俺が青春通りに戻ってこれたのは、太陽が沈みかけている時刻。


「お腹、空いたなあ……昼ご飯も途中で切り上げたしなあ……」


 16番の冒険者ギルド。

 暗い路地裏で、ひっそりと運営している。見てくれは築100年は超えていそうな古びた石造りの二階建て。他の冒険者ギルドに比べたら小さすぎる。

 こんな外観じゃ、誰も生徒は寄り付かないだろう。


「……あれ?」

 

 入り口に、閉店中の看板が掛けられていた。 

 まだ冒険者ギルドとしては運営時間中のはずだ。人気が全くない16番冒険者ギルドだったとして、夕方に営業を切り上げるなんてよっぽどのこと。


「……ただいまあ」


 冒険者ギルドに帰ってきて、ただいまってのも変かな。

 でも俺は、今ここの二階に住んでるから……ま、いいか。


 恐る恐る、扉を開くと、想像もしていなかった光景が目に入る。


「——ウィン! お帰り!」


 ミサキが脚立に乗って、何かをしていた。

 ……店内の飾りつけ? ていうか、脚立に乗ったら誰かが下で抑えないと。

 ミサキの年齢はホーエルン魔法学園の一年生よりも年下だ、でも危ないなんて思うのがお門違い。ミサキは元魔王。俺が心配するのも可笑しいか。


「頑張ってみたんだけどどうかな? エアロに作り方を教えてもらったんだ!」


 色とりどりの紙で、星や短冊を作ってギルドの中を飾り立てていたようだ。


「お帰りなさい、ウィンフィールド君。ねえ、ミサキちゃん本当に頑張ったのよ?」


 腕を組んで、ミサキの様子を見守っているのはこの冒険者ギルドの職員であるエアロだ。 


「えーと……ミサキ、何してるの」


 これは一体何のお祝いだろう?

 誰かの誕生日ってわけでもないしな……。

 すると、ミサキは、脚立の上部に座ったまま、声を張り上げた。


「ウィンと僕の冒険者ランクが更新されたんだ! 僕が12で、ウィンが10! エアロに聞いたら、これってとんでもないことらしいよ!」




――――——―――――――————————

ヨアハ「お前らには先に言っとくがな、ウィンフィールドの冒険者見込みランクが明日、更新される。本来は学園での功績を持って冒険者見込みランクは決定されるが、あいつの経歴がちょっと異常すぎてな。上の連中は今朝まで頭を捻らせていたが……今夜をもって、あいつの冒険者見込みランクは10に更新される」

ハイディ「……え」

マリア「……」

ズレータ「……じょ、冗談だろ?」

ヨアハ「俺の見立てだと、あいつの冒険者見込みランクは10でも足りねえ。だからってわけじゃないがお前ら、あいつに喧嘩を売っても痛い目を見るだけだぞ――」


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