第56話 お祝い
冒険者ランクの更新。そうきたかあ……。
全く予想していなかったわけじゃないけど、冒険者ギルドの対応早すぎない?
「ウィン、この料理エアロがお金出してくれたんだよ」
「好きなだけ食べてちょうだいね。私もうちの冒険者ギルドを利用してくれる生徒のランクが高いのは大歓迎だから。奮発したわ」
食欲を誘う料理の数々。ギルドに入ってすぐ、本来は依頼を求めてきた学生の待機場所である受付前に並べらている。丸机の上に溢れんばかり。
一皿一皿の量は多くないけど、味を楽しめるよう種類が多め。でも、この量。俺たちだけで食べきれるか?
俺とミサキは今までホーエルンで食事を楽しむって機会は少なかった。
ミサキは学園の諜報活動で忙しいし、俺は洗脳状態で意思も希薄。
「じゃあ、遠慮なく……」
まずサラダに手を伸ばす。新鮮な緑色の野菜に、半熟卵が乗っていた。フォークで突き刺すと、卵の黄身があふれ出てミサキがわあって声を上げる。
すかさずミサキの分も取り分ける。俺たちは無言で咀嚼、口の中でじんわりとした甘みが広がる。あ、ミサキの顔がほころんだ。
「お昼にさ、エアロに口座が凍結されたって聞いた時はびっくりしちゃったけど……冒険者ランクが上がる時ってよくあること、なの? あ……これ、あっつい……でも美味しい……」
どんな味が気になったんだろう。
ミサキが次に選んだんのはアヒージョ。オリーブオイルにひたされたマッシュルームにフォークを突き刺して口に運ぶ。
「そうよ、ミサキちゃん。冒険者ランクの変動があるときは、よくあることなのよ。ランクによって同じ依頼でも得られる報酬は違うわ。本来の実力よりも簡単すぎる依頼を受けられ続けたら、困る人たちが出てくるのよ」
「困る人?」
ミサキはマッシュルームをはふはふと冷まして、口に運ぶ。
俺はからっと揚げられた唐揚げを食べながら、二人の話を聞く。
……油が身体に染み渡るなあ。うまい。生きてて良かった。
「依頼にも色々な種類があるわ。下水の王国みたいに討伐数を競うものだったり、水の洞窟みたいに、一位を奪いあうものだったり」
「あー……そういうことか」
今朝の水の洞窟を思い出したんだろう。
ハイディ先輩やマリアのパーティは正直、俺たちの相手にならないからな。俺たちが水の洞窟を受け続けたら、同じ学生連中は困ってしまう。
「やっぱり冒険者を目指すなら、挑戦しないとね。ウィンフィールド君の口座は明日の朝、冒険者見込みランクの確定と共に解除されると思うわ」
俺は一口で食べられる料理を吟味。よし、肉詰めピーマンにしよう。
「ウィンフィールド君、本当にミサキちゃん、お店の飾りつけ頑張ったのよ?」
「お店って……ここは冒険者ギルドでしょうに」
冒険者ギルド内で食事をするってのは、今さらだけど変な感じだ。
不意に学生が依頼を求めて入ってきそうだけど、そうなったら困るよな。ギルド受付に、でかでかと冒険者ランク更新おめでとうって書かれた垂れ幕が飾ってあるんだから。でも今のところ誰かが入ってくる気配は一切しない。
16番の冒険者ギルド、本当に人気ないんだなあ。
「でも、無料でこんなに食べさせてくれて……いいんですか」
「いいのいいの。全部、うちの経費だから」
「経費だったんですか……」
「ミサキちゃんもうちだけで働いてくれることになったからね。神官が働いてくれるってそれだけで大助かりよ。業務の幅も増えるわ」
お酒に手を伸ばしていたエアロが微笑んだ。
ミサキは俺たちの生活費を稼ぐために様々なお店でお手伝いをしていた。
中でも稼げるのは断トツで冒険者ギルドの仕事、神官としての仕事だろう。
職業の上位進化に欠かせない神官。一般市民なら進化をするだけで大金が必要だけど、ホーエルンの生徒なら職業進化を帝国バイエルンの支援で無料で受けられる。
一般市民なら進化条件を満たしても、お金の都合で進化を断念することも少なくない。ホーエルン魔法学園程、学生の職業進化が活発な街もないだろうな。
「けど、すごいわぁ、ミサキちゃん! そこの魔王討伐者の彼だけじゃなくて、ミサキちゃんのランクも上がるなんて!」
「……そうかなあ?」
「そうよ! だから一杯食べてね。ミサキちゃんのお祝いでもあるのよ」
「えへへ」
恥ずかしそうにするミサキ。でも、嬉しそうだ。
ホーエルン魔法学園の生徒になって、ランクも更新。
ミサキが学園に認められた証でもある。
俺はそんな二人の話を聞きながら、おつまみに手を伸ばし続けていた。
「そっちの彼はランク10! 16から10への飛び級なんて聞いたことがないわ。いっつも眠そうな顔してるのに、中々やるのね。どうやったの?」
「さぁ……冒険者見込みランクなんて、評議会が勝手に決めるものでしょう」
「あら、釣れない反応ね。応援してるんだけど」
簡単な話だ。
ホーエルン魔法学園冒険者ギルドの連中は、マリアがばらした俺の秘密。
魔王討伐の話が、嘘偽りのない事実って確証を得たんだろう。まあ、権力者が本国に問い合わせたらばれるしな。うちの家族、基本びびりだし。
「ウィンフィールド君。私が聞いた話じゃ、3番のギルドマスターと、ヨアハが強く推したって話だわ。あの二人を抱き込むなんて、凄いじゃない」
ヨアハ、あのおっさんか……。
さっき、なんか俺を見てずっと笑ってたのはこのせいか。
――――——―――――――———————
ズレータ「……マリア。お前、ウィンフィールドがランク10って驚かないのか?」
マリア「私は……あの人が本気になればそれぐらいって知ってるから」
ズレータ「お前ら前々から思ってたけど、どんな関係なんだよ。一年生の時も、お前からあいつにやけに絡んでいたし」
【読者の皆様へお願い】
作品を読んで『面白かった!』『更新はよ』と思われた方は、作品フォローや下にある★三つで応援して頂けると、すごく励みになります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます