第51話 魔王フェニタン

 『聖マリ』の楽しみ方は広大なフィールドやリアリティある現実感の他に幾つもある。例えば、それは下克上だ。


 モンスターや迷宮には、それぞれ対応する冒険者の適正ランクが存在する。

 ステータスが低くても、工夫を凝らせば適正を超えるモンスターや迷宮の撃破だって可能になる。やり込み勢の中には、最下級職業ジョブの常人や、下級職として扱われる戦士のまま、適正討伐ランク5とか6に指定されるモンスターを討伐するこる猛者だっていた。


【私、刺激するなっていいましたよね! あれは、一見、女生徒を言葉巧みに誘拐した変態に見えますが、中身はれっきとした魔王サタンですよ! まっとうに戦えば、ご主人様に勝ち目なんて万に一つも無いんですから!】


 変態なんてひどいなあ。

 魔王フェニタンは、人間にやさしいモンスターなのに。


【魔王認定を受けるモンスター相手の、適正討伐冒険者ランクは4からなんですよ! ご主人様もホーエルン魔法学園にいるってことは、冒険者志望ですよね!? それぐらい常識ですよね!? ご主人様ははまだ個人の冒険者ランクは16! パーティでも16! 逃げる以外の選択は言語道断ですよ!?】


 ステータスさんが言う通り、魔王を討伐するには、個人であれば冒険者ランクは4以上、パーティだったら適正ランクは6ぐらいは必要だ。

 それよりも大きな冒険者ランクで魔王を討伐するなんてあり得ない。


 あの守護神ヨアハは、個人の冒険者ランクは5だ。

 本気になれば魔王とタイマンぐらいは張れる力があるけど、魔王討伐の実績がないからランクは5のまま。人間領では姿を見ることも難しく、ヨアハが戦いを熱望するような危険極まりない魔王が目の前にいる。


【ていうかですよ! ご主人様を洗脳していた! 嘘ばっかりの! ちっこい小娘! どうしてあの小娘を連れてきていないんですか!】



 ちっこい小娘って……もしかしてミサキのことか?

 ミサキなら俺の代わりに16番冒険者ギルドで褒章を受け取っている頃かな。

やっぱり、依頼をこなして褒章をもらうって体験は大事だと思ったから、ミサキにお願いしたんだ。初めてのお使いみたいな? 


【あのステータスばっかり高い小娘こそ魔王みたいな相手の盾役としては適任なんですよ! もしかしてご主人様! 俺を慕ってくれるかわいい女の子には危険な真似はさせないぜって、キザ野郎を気取ってるんですか!? 早死にしますよ!?】


 ひどい言い方だなあ……。

 てか、もしかしてステータスさん。ミサキのことが嫌い?


【ご主人様もわかっていますよね! あの小娘はめちゃくちゃ強いんですよ! ステータスだけ見れば冒険者ランク4相当ですから! 片手で岩とか持ち上げられる系女子ですよ!】


 そりゃミサキが強すぎるってことは、言われるまでもなく知っているさ。

 でも、ちょっと煩いから、ステータスさんはシャットアウト。


「……」


 俺に挑戦状を送って来た魔王フェニタンは、三つ目を開眼させてこちらをじっと観察中。さっき投げた石は、当然鬼火に絡めとられていた。

 あれで魔王フェニタンの興味を引くことは出来たはずだ。

 怒りを買う可能性も少しあったけど、動きは無い。

 本気で俺たちを殺す気なら魔法で敷地一体を燃やし尽くしている筈だし、それをしないってことは……やっぱり目的は観察かな。


「ウィンフィールドさん……貴方、バカなの!? 私、言いましたよね! あれはどんでもないモンスターだって!」

【ご主人様! そこの子の言う通りですよ! ほらステータス! ステータスで魔王の力を確認してください! 大賢者に進化出来た最大の特典は私の存在と、ステータスの力なんですから! 魔王のステータスを見れば、自分がどれほど愚かな真似をしたかって分かりますから!】


 女性陣二人から馬鹿なの? と責められる。

 ステータスさんは性別は不明だけど、声の感じから分かる。絶対に、女性だ。


 ふう……じゃあそろそろ見てみよう。ステータス、オープン。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 名前:フェニタン

 性別:無

 種族:不死鳥フェニックス

 レベル:9

 経歴:『雷鳥』『斥候マグナ隊隊長』『極楽鳥』『魔王』

 趣味:人間領の観光

 HP:15870000/15870000

 MP:768000/7700000

 攻撃力:990000

 防御力:640000

 俊敏力:580000

 魔力:17100000

 知力: 2400

 幸運: 8000

 悩み :大魔王様は鳥使いが荒すぎるキョエー。元魔王のミサキなんてどうでもいいキョエー。面倒キョエー。人間が人間の世界に帰るのは当然キョエー。早くおうちに帰りたいキョエー。キョエー、キョエー。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 HPが千万超えているって何だよ、化け物か。

 さすが魔王フェニタン、不死鳥フェニックスは伊達じゃない。


 魔王ってのはどいつもこいつも、笑えるぐらいの能力値を誇っている。だからこそ、付け入る隙がありすぎるってもんだ。

 ステータスさんは、魔王フェニタンの能力を確認すれば、戦う気が失せるって言ったけど、逆だよ、逆。


 あれを見て、『戦士』の職業補正——折れない心ブレイブハートが発動した。




――――——―――――――————————

ミサキ「エアロ! ウィンから褒章が貰えるって聞いたんだけど、本当!?」

エアロ「あらミサキちゃん。それがねえ、貴方達の冒険者パーティの口座がお昼頃からずっと凍結されてるのよ。もしかして水の洞窟ブルーロックで何があった?」


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