第50話 大賢者は大きく振りかぶって

【——大賢者ウィンフィールド! ご主人様は、馬鹿なんですか! 信じられない! 昨日の今日の話ですよ!? 私の声が届くって、死ぬ直前だって言いましたよね!? 本当に、サラは、サラは、信じられないんですけど!!!!!】


 確かに随分と早いね。

 笑っちゃうよな。ステータスさん。

 でも、俺には責任ないよな? だって、向こうから接触してきたんだから。


「——は、はあ!? な、なに、あれ!? 何ですの!? 目が三つありますわ!」


【ご主人様! 魔王ですよ! あれは人間に擬態した魔王です! 火の魔法に精通した魔王のようですが、これからあいつの力を解析します! まだこちらに攻撃してくる気配がありませんから、くれぐれも刺激しないでくださいね!】


 赤い火薬ガンパウダー――。

 招待状を送ってくれたのは、人間領をふらふらと彷徨っている変わり者の魔王だ。


「ハイディ先輩、目が三つあるって可笑しいですか?」

「可笑しいですかって! 可笑しいに決まってるじゃない! って、ウィンフィールドさん、どうして貴方がここに!」

「どうしてって……呼ばれたからですよ」


 赤い火薬ガンパウダー

 『聖マリ』の世界では、プレイヤーからフェニタンと愛されていた愛すべき魔王だ。フェニタンはミサキを殺しにやってきた昨夜の刺客、魔王ラックんよりは、よっぽどやりやすい相手。


【——ご主人様! あの魔王を守るように浮かんでいる火は、鬼火と推測します! サラは、サラは、撤退を推奨します!】

 

 撤退を推奨? 

 またまた御冗談を。

 この豪邸にやってくるまでに、ステータスさんことサラから、走るのを止めろって何十回も聞いたのに俺は止まっていないじゃないか。今さらって話だよ。


【鬼火に触れると火傷じゃ済みませんよ! ご主人様、逃げましょう! 】 


 俺がいるのは豪邸の敷地に存在する倉庫。


 招待状の宛先にはご丁寧に住所が書かれていた。 

 ハイディ先輩を誘拐した魔王が待っていた場所は、とってもお金持ちの連中が済む住宅街の一角。誰の家かも分からなかったけど、隠れて敷地に入り込んだ。

 

 こんな豪邸を選ぶ辺り、やっぱりフェニタンだよなあと感慨にふけながら、俺は倉庫のシャッターを開けた。そうしたら、ハイディ先輩と赤い火薬が待っていた。


「……何て魔法。一つ一つにとんでもない魔力が込められていますわ」

「そうなんですか?」

「ウィンフィールドさんが分からなくても無理はありませんわ……貴方のこと、依頼の後に調べましたけど、一年生の頃の成績最悪って聞きましたから……」

 

 まあ、確かに最悪だったけどさ……ミサキに洗脳されていたんだから。 

 つうかハイディ先輩。俺のこと調べたのかよ。


 しかし、魔法使い系統の職業を納めていると、やっぱり鬼火の怖さってのが直感的に分かるのかな。あれは触れた者を地獄の業火で焼き尽くす火ってやつだ。


 赤い火薬ガンパウダーこと、魔王フェニタンはじっとこちらを見ている。


 ミサキが人類側に寝返ったから、また魔王ラックんみたいな刺客が来るとは思っていたけれど……。まさか昨日の今日で、また送り込まれるなんて早すぎない?

 まあ、フェニタンだからいいんだけど。


「きっと名の有るモンスターに違いありませんわ……私のパーティ全員が全員揃っても勝てるかどうか……それぐらいの相手よ……」

「ぶ」

「ウィンフィールドさん、今。笑いました?」

「い……いえ……気にしないでください……」


 魔王相手にハイディ先輩なんて、ゴミみたいなもんだ。

 ハイディ先輩のパーティが全員いたって一瞬で勝負がつくだろう。


 この学園で魔王に対抗出来る力を持っているのは、十人にも満たない。俺の知っている奴だったら守護神ヨアハとか3番冒険者ギルドのギルドマスターぐらいかな。

 あのヨアハなら魔王が学園に出たと知ったら、喜んで戦いに参戦するだろうな。


 ——さて。

 身体の中に湧き上がる力。

 職業『投擲術士スローワー』、特性補正の発動を感じる——俺はずっと握っていた右手の力を緩めた。中に握りしめていた石ころの数を確かめる。


 うん、十分だ。


「ふん!」


 それを赤い火薬ガンパウダーこと、魔王フェニタンに向かって投げつけた。


【えええええええええええええええええ! サラの言うこと、聞いてなかったんですか!? 私、刺激するなって言いましたよね!? 何考えてるんですか!?】

「ちょっと、ウィンフィールドさん! 貴方、馬鹿なのッ――! 」




――――——―――――――————————

ズレータ「マリア。ウィンフィールドなら金持ち連中が住む町に向かったって。あいつの走ってる姿を見た奴がいるってさ」

マリア「……」ダダダダダ

ズレータ「おい! 走るなって! お前、やっぱり可笑しいぞッ!」


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