第46話 依頼達成

 最難の道はまさに海中トンネル。

 360度、どこを見渡しても透明な結界の外は優雅に魚を泳いでいる。

 最俺とミサキはそんな絶景の中でゆっくりと二人きりの時間を楽しんで戻ってきた。そんな俺たちを迎えたのは、引きつった顔のヨアハ。熟練冒険者のおっさんだ。


「ふざけるんじゃねえ! どこの誰が、最難の道を進んで、たかが20分程度で帰ってこれるって言うんだ!」


「そんなこと言われても……ちゃんとゴールにあった水の宝玉は持ってますが」

 

 ヨアハの気持ちも分かるけどさ、最難の道を選んだらモンスターが出てこなかったんだから仕方ないだろ。


 そう。本来は出てくるべきモンスターが出てこなかったんだ!


 72柱存在する魔王の中でも、ミサキは人間ということもあって魔王軍の中では存在が知られている魔王だ。モンスターも戦っちゃいけない奴が分かるんだろうな。


 誰も出てこないと思ったら、挙げ句の果てにボスっぽいモンスターが献上品持ってきたし。

 献上品はそれぞれの道のゴール地点に冒険者ギルドが設置されている水の宝玉だった。

 というわけで、俺たちは道の途中で引き返してきたんだ。



「いや待て待て! あり得ないだろ! 俺が最難の道を行ったってもう少し時間がかかる。お前たちの倍は掛かるぞ! それがこの時間は何だ! 早過ぎだろ!」


「そんなこと言われても……他の二組はまだですか?」


「……まだに決まってるだろ! それよりお前ら、本当にあの道を使って帰ってきたのか?」


「疑ってるんですか?」


「いやそりゃあ確かに水の宝玉は持って帰って来ているようだが……」


 何も馬鹿な事をいうんだ。

 俺たちがあの道を進んだこと、ヨアハはばっちりと目にしていた筈。


「道が可笑しくなっていないか確かめてくるからそこで待っていろ!」


「……まあいいですけど」




 ヨアハが座っている椅子が気になった。

 背もたれの角度を自由に調節出来るやつで、上手く調節すれば足を存分に伸ばせそうだ。アレに座って、この水の洞窟出発点、一人だけ楽しんでいたなんて結構ずるい奴だなヨアハ。



 こうして再び出発点に帰って来た俺たち。

 ヨアハは最難の道が可笑しくなったんじゃないかと一人で俺たちが行った道に入っていった。


「ウィン、見てー! 捕まえられそう!」


 ミサキは結界の外に手だけ出して、何とか外で泳ぐ魚を捕まえられないものかと悪戦苦闘している。

 俺? 俺はヨアハが座っていた道でくつろいでるよ。



「——散々な目にあったぞ!」


 あ。ヨアハが帰って来た。

 その姿は蛸の墨でやられたのか真っ黒だった。見るも無残な姿。だけど余りにも早すぎるから、道の途中で引き返してきたんだろう。


「おかえり、ヨアハさん」


「何でウィンフィールド、俺がお前におかえりとか言われないといけないんだ……相変わらず眠そうな目をしやがって……」


「道の方はどうでした? 別に何も可笑しくなかったでしょう」


「ああ! 久々にあんな強いモンスターと戦った! お陰でこの有様だ! 前が見えねえよ!! それより俺の椅子を返せ! いや返さなくていい! お前が座ってろ! 俺が座ったら、真っ黒になるからな!」


「……おーい、ミサキ。ミサキの魔法で、ヨアハさんのこと洗ってくれない?」


 とことことミサキがやってくる。

 黒くなったヨアハを見て呆れていた。自分だったら、例えあれしきのモンスターに墨を吐かれても、ここまではならないとか思ってるんだろう。


「別にいいけど……」


「や、やめろ! そいつに下水の王国で攻撃されたこと! 俺はまだ忘れちゃいねえぞ! 戻ったら、自分で洗うからいい! おい、そっちの娘、俺に杖を向けるな!お前は神官の癖に攻撃力が高過ぎる!」


 ミサキが人間と敵対する72柱の魔王の一人だったのは過去のこと。今は人間として生きようとしているんだから、ミサキもまさかヨアハに攻撃するなんてことはないだろう。


 ヨアハは冒険者ギルド職員でも結構な地位にいる。ミサキも16番の冒険者ギルドで働いていたから、そこは分かっている筈だ。


「おい! やめろ! お前の魔法は、遠慮ってもんが無さそうだ! ウィンフィールド、お前からもそいつに言ってくれ! 服は自分で洗うから!」


「染みになっちゃうから! ね、ウィンもそう思うよね!」


 素直に甘えておけばいいのに……ミサキが面白がってヨアハに杖を向け、ヨアハが走って逃げている。学園では中々見られない滅茶苦茶面白い光景が、繰り広げられている。





「——もうすぐよ! もうすぐで出発点だから、皆頑張りなさい! 今ここであの子達に追い付かれたら、これまでの努力が全部水の泡なんだから!」


 あ。ハイディ先輩の声だ。

 どうやらハイディ先輩がマリア達とのデッドヒートを制したらしい。




――――——―――――――————————

ズレータ「くそう、負けた! 水の宝玉をあいつらに奴らに取られた!」

マリア「まだだよ! まだ、追い越して水の宝玉を奪えば私たちが一番乗りだ」


【読者の皆様へお願い】

作品を読んで『面白かった!』『更新はよ』と思われた方は、作品フォローや下にある★三つで応援して頂けると、更新速度が加速します!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る