第47話 ハイディ・バーミンガクは譲れない

 俺たち三人は声がした方向に目を向ける。

 ハイディ先輩とマリアが進んだ最易の道から、小さな人影が段々と大きくなる。


「急いで! マリアのパーティに追い付かれるわよ! あの子達、やっぱり一人一人が有望って言われるだけあって、最後まで侮れませんわッ!」


 ヨアハと同じように服装のあちこちが墨で真っ黒。道の先じゃ、何が行われていたんだろう。タコとかイカのモンスターがブームだったのかな。


 奇麗なドレスだったのに勿体ない。


「やったわ! 私たちの勝ち! 水の洞窟を勝ち取ったわ! 3年生になって、幸先の良いスタートよ! あの聖女見習いがリーダーのパーティに勝てるなんて……皆、自信を持ちましょう!!」


 出発地点に戻って来たハイディ先輩方一向は、その場に座り込んでぜーはーと息を吐いている。


 かなりしんどそうで、迷宮の中では随分とエライ目にあったみたいだ。


 何だか申し訳なくなっている。申し訳なさすぎて、椅子から立ち上がった。隣には、ヨアハを追い回していたミサキが戻ってきて……。


「ねえ、ウィン。あの人たち、何か勘違いしてない?」


「ミサキ、ばれないように俺たちは隠れておこうか」


「意味ないと思うけど……てゆうか隠れるところなんてないし」 


 意味はあるんだ。

 それは少しでもハイディ先輩らとのいざこざが起こるまで多少は時間稼ぎが出来るってこと。あの先輩が俺たちが一着だった事実を知れば、襲い掛かってくる可能性もある。あの人、そういう先輩なんだよな……。


 そして喜んでいるハイディ先輩らの登場に続いて、もう一組の姿も見える。


「はああ……負けた……完敗です……」


 マリア御一行だ。

 二年生の中では最強の一角と噂されるマリア達が敗北。 三年生の冒険者パーティーでも大半は相手にならないだろうと言われていただけに、衝撃的な光景だった。ハイディ先輩らは同じように疲れ果てた様子のマリアらに近寄って、その健闘を称え始める。


「マリアさん? 貴方達も、頑張ったと思うわ。ええ、そうよ? 私たち相手にここまで健闘するなんて正直驚いたわ。本当よ? 二年生なのに、魔物相手に全然怯まないし、こう言ったらなんだけど、去年の私たちよりはよっぽど――」


「——うるせえ、慰めなんていらねえんだよ! 俺たちは負けた! それだけだ!」


 そう言って、ズレータはハイディの手を振り払った。

 おお……凄いな、喧嘩っ早いっていうか……ズレータはマリアのことが好きだもんな。きっと、マリアに良い所を見せたかったんだろう。

 


「……あら。そこにいるのは誰かと思えば」


 あ。ハイディ先輩と目があった。やばいな、何か嬉しそうだ。っていうか、こっちに近づいてきたし。あ、おいこら。ミサキ、口を開こうとするんじゃない。「ねえ、ウィン。あの人たち、どうして喜んでるの? 一番は僕たちなのに……」分かってるから。分かってるから、少し黙っててくれ。


 俺は何かを考えているヨアハを見つめる。あいつ、真っ黒な顔でどう言ったらいいか悩んでいるようだ。いや、その原因を作り出したのは俺なんだけどさ。


「ウィンフィールドさんじゃない! 貴方達の姿が見えないと思ったら、まだ出発点にいたのね! 恐ろしくてこの場にとどまっているなんて、可愛い所あるじゃない!」


「そ、そうですね……」


 胸を張ってそう言うハイディ先輩に、俺は心が痛くなるのであった。


「道の帰りでもあなたたちの姿を見かけないからどうしたのかと思ったけど、出発地点にいたんじゃ姿を見かけるはずもないわよね!ふふふ!」


  ハイディ先輩、ここまで帰ってくるまでにマリアらのパーティと相当なデッドヒートをしたんだろう。勝利したのが嬉しすぎて笑みがとまらないご様子だ。


 マリアのパーティは非常に強力。

 ハイディ先輩にとっては、一学年下だけど、聖女見習いマリア・ニュートラルが率いるパーティって言えば、学園でも注目の的だった。

 それがこうして先輩に負けてしまったんだから、街に戻ったら、マリアら御一行敗北って噂が学園中に流れるだろう。


 ハイディ先輩に近づくギルド職員のヨアハ。

頼むから刺激だけはしないでくれよ。

 

「あー。何て言えばいいか分からんが、ハイディ。お前たちは二着だ――」


「……は?」


「ウィンフィールドはずっとこの場にいたんじゃなくて、あいつらはお前たちとは別の道を選んで戻って来た。それだけの話だ」


 ハイディが、いや、一応先輩だから、やっぱりハイディ先輩って呼ぼうか。

 ヨアハの言葉に目を白黒させている。


「——じょ、冗談じゃありませんわ! 私たちが二着? どこをどう見たらそんな結論に! 私たちはマリアのパーティに勝利しましたし――」


「ウィンフィールドのパーティが一番だ。結論は変わらない」


 唖然とするハイディら。

 様子の可笑しさを感じて、マリア達も立ち上がりこっちにやってくる。ミサキが「……だから言ったのに。ウィン、変な期待を持たせたら駄目なんだよ」って。

 分かってるよ。


「改めて言おうか。ウィンフィールドとその娘は、最難の道を突破した」


「ふ、ふざけないで!! そんな男が一番なんて、あの最難の道を突破したなんて認められませんわッ!」


 燃え盛るような、熱気だ。

 っておい。ハイディ先輩の気配が変わる。


「貴方が、あの道を突破した!? 馬鹿言わないで!!!!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 名前:ハイディ・バーミンガク

 性別:女

 種族:人間(固定砲術士ガトリングガン

 レベル:4

 ジョブ:『常人』『戦士』『魔法使い』『固定砲術士ガトリングガン

 趣味:ぬいぐるみ収集

 冒険者見込みランク;12

 HP:1200/2800

 MP:260/6510

 攻撃力:14000

 防御力: 4000

 俊敏力: 3200

 魔力:24000

 知力: 1000

 幸運: 400

 悩み :。開示認定レベル3。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 職業『固定砲術士ガトリングガン

 ハイディ先輩の右腕を中心に透明な小型大砲が生まれて、固定砲ガトリングと呼ばれる魔法の武器が俺に向けられる。

 でも。


「——危ないなあ! ウィンに、そんなの向けないで!」


 だけど、ハイディ先輩を攻撃の気配を纏わせた瞬間だった。ミサキが持つ小杖が、光を放つ。ハイディ先輩は右手を抑え込んで、その場に座り込んだ。

 俺の目にも止まらぬ早業だったけど……。


「……ほーお! ウィンフィールド、お前の奴隷は凄いな! 随分と愛されてるじゃないか!」


 痛い、痛いって。

 ヨアハが俺の背中をばしばしと叩いている。

 ぺったりと座り込んだハイディ先輩は目をぱちぱちと瞬かせて、まだ何が起きたか理解出来ていないようだった。


 ……もしかして、ミサキが守ってくれた?




――――——―――――――————————

マリア「ズレータ。今、あの子が何をしたか、見えたか?」

ズレータ「ウィンフィールドの奴隷だろ……何も見えなかった……」


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