第48話 大賢者の選択

 ホーエルン魔法学園領に他国からやってきた生徒の活動範囲って言えば、広大な敷地の中央に存在する学園都市中枢ばっかりだ。俺だって1年生の時は街の外に出ることなんて数える位しかなかった。


 広大な敷地。特に学園機能が集まっている中枢を一歩離れれば、広大でのどかな敷地が広がり、街の外では盛んに行われる農作物や水産資源はどんどん中枢に集まってくる。


 そんなホーエルン魔法学園の街はお昼時になると校舎や魔術学校、中で何が行われているかも分からない建物から次々と生徒が飛び出して様子は一変。一般市民も多いけどお昼になれば、街に繰り出す割合は学生があっという間に逆転する。


「ご注文はいかがいたしましょう」


「本日のオススメってのを2人前で」


 そして俺たちも優雅なお昼時。

 豪華なランチで、勝利を乾杯っていきたかったけどーー。


「なぁ、ミサキ。機嫌直してくれよ。理由は説明しただろ?」


「納得出来ないよ! あれはウィンと僕が勝ち取ったのに!」


「こえ、声! もっと静かに! 周りに聞こえちゃうから!」


 カウンターに座る俺たちの後ろには、丸テーブルに座る大勢のお客さんがいることもあって

慌ててミサキの口を塞いだ。


「ふご! ふごご!」


「しー」


「ふご……」


 俺たちは午前中の依頼を終えて、優雅なランチタイムに突入していた。

 本当に優雅かって言われたら、店のランクもそこそこだし、お金持ち生徒の日常に比べたら大したことないだろうけど俺にはこれで充分。

それに水の洞窟であの絶景を満喫出来たんだからさ、これ以上何を望むんだって話だよ。

 


 さて、俺たちが入ったのはランチ営業中の大衆店。

 カウンターに二人仲良く隣同士に座っている。背後には木製の丸テーブルが何十個も並べられて、そっちに座ってるお客さんも多い。でもカウンターに座ったらガラス越しの厨房で調理する様子が見えるからこの席にした。

 値段もリーズナブルで、午前のデートに引き続いて百点満点だろ。だめ?


「……お、これ美味しいなあ」


 料理が届いてからもなかなかミサキはぶすっとした顔のまま食事に手をつけてくれない。

 わざとらーしく、美味しいアピールしてみるか。


「あ、これ。水の洞窟で泳いでいたのと同じじゃない? ほら、ミサキが食べたいって言ってた魚」


「……え? あ、ほんとだ」


 やっとミサキの興味が料理に移ってくれたよ

 なんで魚料理にしたのかというと、水の洞窟を経て、お魚が食べたくなったらしいミサキの注文だ。少しでも機嫌が治って欲しいので、隠れた名店を選んでみた。


 といっても、ミサキに洗脳され無口スケルトンになっていた俺が隠れた名店なんて知るわけあない。『聖マリ』のゲーム知識である。


「ウィン……僕はね……もぐ……ん」


 ミサキがフォークで魚の切り身を突いて、口に放り込む。


「美味しい……え、何これ、美味しい!」

 

 ふう、やっと機嫌が治ってくれたかな

 なんでミサキの機嫌が悪かったのかというと、俺が水の洞窟で一着になった権利を辞退したからだ。

 そう、辞退しちゃったんだよ。


 だから、ミサキ先輩は激おこなのである。

 

 まあ、ミサキだけじゃなくてあの場にいた

全員が驚いていたけどさ。そしたら、すぐにハイディ先輩がごちゃごちゃ騒ぎ出して、ヨアハが移動拠点ポータルを強引に発動させた。これ以上俺たちを一緒にしておくことが得策じゃないと判断したのか、後はギルドから褒賞を貰えって言って、俺たち三組は強引に別れさせられたのだ。


 勝利の権利を辞退したことにミサキは納得がいっていないようだが、よくあることだったりするんだ。

 特にホーエルンは各国の有力者が集まっているから、在学中に恩を売るのは結構大事だったりする。


「ねえ、ウィン……これ、どうやって食べるの?」


「それは……」


 俺も分からない。魚の目玉、丸のみか?


「ふふ、ウィンも分からないんだ。世間知らずな僕と同じだ」


「いいか、ミサキ。俺はこう見えても王子なんだ。一通りの食事作法は知ってるんだ。ええと……」


「ウィンが王子なんて僕には想像つかないなあ。だって、王子ってとっても偉い人なんでしょ? ウィンを攻撃しようとしたあいつもそうだけど……」


 ハイディ先輩はああ見えて王女様だ。ちなみに俺も王子だったりするが、俺は比べ物にならないほどの小国である。


 国の王族をホーエルンに留学させるってのは大きく分類して二つの意味がある。一つ目は期待を込めて、愛しい我が子を国に貢献出来るよう成長させるためだ。ホーエルン出身って言えば、箔がつくしな。


 そしてもう一つは厄介払いである。勿論、俺はこっちである。


「ウィンは故郷でどんな生活をしていたんだろ。ねえ、ウィンは兄弟とかさ、い……」


「ミサキ、どうした?」


「……見られてる」


 ミサキがフォークを置く。

 見れば机の上に置かれていた料理は綺麗さっぱり無くなっていた。

 まだ半分以上残ってる俺と比べて早いな!


「そりゃあさ。俺たち以外にもお客さんはいらからさ」


「そういう意味じゃないよ。ウィンも気付いてるでしょ? ……もう! 気付いてない振りはしないで!」


 まあ、お昼時なんだしさ?

 俺たち意外にも当然、客はいるわけ。といっても、学生が中心だけど。高級な店にいけば、学生の数はうんと減るだろうけど、俺たちはお金がない。だからリーズナブルなこのお店にしたんだ。

 寝床にさせてもらって16番ギルドにも近いし。


 でも、少し耳を澄ませば聞こえてきた。

 ミサキが気にしているだろう声。


「あいつ。魔王討伐なんて噂があったけど、ハイディ先輩やマリアのパーティに負けたってことだろ?」

「出発地点から動かなかったって聞いたぜ?」

「ウィンフィールドだろ。どんな過去があるのか知らないけど、あいつが意気地無しだっては俺たちよく知ってるじゃん。舞い上がってる一年生もすぐにあいつの正体に気付くさーーどれだけ情けない奴かってさ」




「……」


 どうやら、俺に浴びせられる声にミサキ先輩は我慢ならないようである。




――――——―――――――————————

マリア「魚料理が食べたくなった。あの店に入ろう」

仲間たち「は?魚料理嫌いじゃなかった?」


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