第49話 魔王からの挑戦状
依頼を通じて、冒険者パーティ同士がぶつかることは珍しいものじゃない。
ホーエルン魔法学園から外に出て行われる本当の冒険でも、冒険者が互いの戦果を争って、仲間である筈の人間、他の冒険者パーティと争うことはよくある話だ。
水の洞窟で最易の道を選んだ、ハイディ先輩とマリアの二組。
あの二組は勝利を勝ち取るために、モンスターだけじゃなく、お互いに激しく攻撃し合ったらしい。でも、それは当たり前のことだ。
「あーあ。でも、俺はやっぱり残念だよ。あのマリア様なら、三年生のパーティなんて楽勝で倒してくれると思ったんだよなあ」
「相手は、あのハイディ・バーミンガクのパーティだろ。勝利のためなら、汚い手段も躊躇わない嫌な奴らって有名じゃん。マリア様も嵌められたんだろ」
さて。新年度にさっそく、水の洞窟でハイディのパーティとマリアのパーティがぶつかったことはすぐに広まった。
結果はハイディ先輩の勝利。だけど、ハイディ先輩ってば悪行がひどくて嫌われてるから、マリアらが同情的な感じで話が学園中に広がっている。
あの二組だけじゃなくて、水の洞窟には俺とミサキ。
あのウィンフィールドのパーティもいたみたいだけど、アイツらに関しては、勝負にもならなかったらしいぞとか、特に情けなさが協調された感じで広まっていた。
魔王討伐者とか色々噂が広まってるけど、やっぱり嘘じゃんって感じでさ。
ま。いいけどさ。
「ねえ、ウィン。好き勝手言われてるけど、あれはいいの?」
「どうでもいいよ」
「……」
もしかして、俺が情けないとか、言ってるやつか?
料理の残りを食べながら、横目で見る。ミサキは不思議と悔しそうだ。
「僕は嫌だよ……ウィンは勝ったのに……言われ放題なんて……」
「そう? 俺は全く気にならないけど。それに勝ったって言っても不戦勝みたいなもんだからさ? まあ、水の洞窟を勝ち取れたのはミサキの力だ。俺は何もしていないし」
「……納得は、出来ないよ」
ミサキは少し前までは魔王軍に所属していた。
あの世界の考え方は、俺が生きる人間の世界とは全く違う。
だから教えたいことがあった。ミサキが生きようと望んだのは、俺たちの世界。力が全ての魔王軍とは大きく違う。
「依頼に負けたことを悟ったハイディ先輩のあの必死な感じ……ミサキも見ただろ? 俺たち以上にハイディ先輩はあの依頼に賭けていたんだよ」
「……」
「それに俺たちの元々の目的はデートだったからさ。少なくとも、俺はとっても楽しかったよ。ミサキは?」
「……楽しかったけど」
それきりミサキが黙り込んでしまった。
もぐもぐと口を動かし、まだ不満があるんだろうけど「ウィンって損な性格だよね。僕を受け入れたこともそうだけど……」。
間違いない。でも俺はそれで満足してるんだ。
「そうだ、ウィン。アグエロのこと、教えてよ。生きてるんでしょ?」
「別にいいけど、ミサキ。ちょっとストップ。面倒な奴らがきた」
いつの間にか店内が慌ただしくなっていた。
原因は、新しい来客に関係しているらしい。
ちらりと背後に目を向ける。ちょうど、誰かが店の中に入ってくるところだった。店の中にいた学生が、店内に入って来た数人に大声で話しかけいる。
随分な人気者がやってきたようだ、ってあいつらか。
「——よ! ギリギリで負けたんだってな! マリア様!」
「ズレータ!
ハイディ先輩には負けたけど、二年生の筆頭格にして人気者。
どんな時でも凛としたマリア・ニュートラルに、マリアがリーダを務める冒険者パーティ副リーダの侍、ズレータ。
そんな二人を支える数人の男女。
あいつらが、ここに来るのは珍しいな。
あいつらにはお気に入りの店があって、そこをご贔屓にしているからさ。
「おいおいズレエタ! あそこにいるのはウィンフィールドじゃねえか!? マリアが急に魚料理が食べたいと言いただしたから、可笑しいと思ったら、そういうことかあ! さすがマリア様だなあ!」
「ネロ君! マリア様の行いに間違いはありませんから! 私たちはただ、マリア様についていけばいいんです!」
マリアら御一行が真っすぐに俺たちを目指して歩いている。
面倒なことになりそうだ。
奴らも水の洞窟で起きたことに納得してはいないだろう。
でも、学園で広まっている噂を否定していないのは、俺がハイディ先輩に勝利の権利を譲ったって事実が、奴らの大きな不利益になるからだろう。
印象操作も、時には大事だ。それが出身国の期待を背負うエリート様なら猶更。
「……あれ?」
あいつらと絡み出したら長くなりそうだから、料理だけは最後まで食べようと思って視線を落とす。そこで気づいた。いつの間にか、料理の隣に、小さな紙が置かれていた。真っ白な用紙に、短く文字が書かれている。
「ウィン、あいつらが来るよ……あの嫌な女のパーティだ……」
紙の中に書かれていた文字の羅列。
最近、字を覚えたような、汚い文面が示す内容を理解すると、血の気が引いた。咄嗟に紙を手の中で握りつぶす。椅子から降りて立ち上がった。
「ミサキ。俺はこれから用事が出来た――」
「え? 急にどうしたの!?」
「もしお腹が減っていたら、俺の料理を最後まで食べてくれて構わないから。あと、お昼からはエアロのところで褒章を受け取ったら自由にしてくれていいよ。依頼には負けたけど、少しはお金が貰える筈だからさ」
「え――ウィン。どうしたの! 料理は、貰うけどさ!」
タイミング的にはマリアらのパーティメンバが、俺たちの席にやってくるのと同じだったようだ。出口に向かう俺に向かって、マリアが手を伸ばす。
染み一つもないその手を、払いのける。
「ちょっと待って! 今朝の依頼について、私も貴方と話したいことがあったの! ウィンフィールド――待ちなさい! 待ちなさいって!」
待たない。待つわけがない。
俺とミサキに気づかれずに、料理の隣にメモ紙を置いた誰か——随分な実力者のようだけど、問題はそこじゃなかった。
紙には、とある場所に、今すぐ来いと書かれていた。
来なければ、とある女子生徒の命は無いと書かれていた。
とある女子生徒の名前、それはハイディ・バーミンガク。
「それとミサキ、マリアの相手は任せるから!」
そして、ご丁寧にも差出人の名前も書かれていて、それが何よりも問題だった。
差出人は
――――——―――――――————————
ミサキ「……ウィンなら行っちゃったけど、何の用?」
マリアのパーティメンバ①「マリア様! ウィンフィールドに逃げられたなあ!」
マリアのパーティメンバ②「ネロ君! 別に逃げられたわけじゃないから! 全部マリア様のお考え通りだから! ね! マリア様、そうですよね!」
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