第42豚 冒険者見込みランク

 ホーエルン魔法学園は冒険者ギルドを核として運営されている。

 店を営む商人たちも冒険者ギルドとは密に連携していて、この場所だってそうだ。

 彼らも店の地下を移動拠点ポータルの設置地点として冒険者ギルドに貸していることで結構な収入を得ている。


「うふふふ! 幸先が良いわね! 二年生になったばかりの新人が相手なんて!」


 ハイディ達の姿はどこからどう見ても冒険者って姿じゃない。

 その姿はこれから舞踏会にでも行こうかっていう様子で、あいつのパーティーメンバーもリーダーの意思を反映しているかのように全員が同じような格好。

 はあ、迷宮に向かうのにその格好はないだろ。でも、あいつら強いからなあ。


「魔王討伐者とか色々言われているウィンフィールド君は置いといて、あなたの事も知っているわよ? この学園でたった一人の奴隷ちゃん」

 

 そう言って、黄金の髪を揺らしながら、ハイディがミサキに指を突き付ける。

 びしって。


「そんな男の奴隷を好き好んでやるなんて、何を考えているの? 思考放棄しているのかしら。いいわね、楽で」


 あいつらは余裕綽々って感じで俺達を見下していた

 依頼のイロハも、迷宮の攻略方法も俺たち普通の二年生はまだまだ何も知らない。

 知識としては知っているが実戦はまだまだ。 

 少なくとも一年間はこの学園で鍛えてきて、トップを走っているハイディ一味が油断するのも分かる。




 さて、依頼が始まるまで、もう一組の冒険者パーティの到着を待つ必要があった。

 ハイディは俺たちのことを散々笑い、今は部屋の隅でパーティメンバと作戦会議中。


 俺たちは今からあの浮遊石、移動拠点ポータルを使って場所を飛ぶ。

 向かう先は水の洞窟ブルーロックと呼ばれる外の迷宮。

 簡単にこれからのことをミサキに説明している。だけど、ミサキの目にはメラメラと闘志が抱かれていて、俺の話なんて聞いていないなこれ。


「ねえウィン。さっきのあの態度。もしかして僕らが、その冒険者見込みランクってのが低いから舐められてるってこと?」


「まぁ、それもあると思うけど。いや、大部分はあいつがそういう性格なだけで」


「——僕らが冒険者ランクが高かったら、舐められない。合ってる?」


 このホーエルン魔法学園では二年生以上になったら、それぞれの学生に共通した一つの指標が生まれる。それが冒険者見込みランクだ。


「……あのなミサキ。冒険者ランクってのは簡単には上がらないんだ。一つ上げるのにもギルドマスター達による厳正な審査があって、ましてや学園で管理されている迷宮じゃ――」


「ウィン。僕は元魔王で、君は魔王討伐者。出来ないことなんてない」


「……まあ。ミサキの気持ちは分からないでもないけど、ここは魔王軍じゃなくて人間社会だ。ただの力だけじゃ、階級は上がらない。ミサキもすぐにわかるよ」 


「——ねえ、何だか寒気がするわね? しない? 私の勘違い?」


 そういって、ハイディがきょろきょろと辺りを見渡す。

 急激に室内の温度が下がった。ミサキが魔法を使ったんだ。


「ミサキ。ストップ。むかつくのは分かるけどさ。というか、俺も寒い」


「……分かった」


 ミサキは、魔王軍から離脱し、こっちの世界で生きていくことを決めた。

 魔王軍で階級を上げていく指標は力が全てだけど、人間社会は違う。

 力だけでも、ある程度は冒険者ランクは上がるけど、限界がある。

 その辺をミサキには教えないとな。

 

「——遅い! 最後の一組も現れないし、ギルド職員はまだかしら! 今日はお昼までには依頼を達成したかったのに!」


 どうやら向こうはもう勝った機でいるらしい。


 さて、俺はこっそりハイディのステータスを見ることにしる。

 ステータスさん、じゃなくて、サラ、頼むよ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 名前:ハイディ・バーミンガク

 性別:女

 種族:人間(固定砲術士ガトリングガン

 レベル:4

 ジョブ:『常人』『戦士』『魔法使い』『固定砲術士ガトリングガン

 趣味:ぬいぐるみ収集

 冒険者見込みランク;12

 HP:2800/2800

 MP:6510/6510

 攻撃力:14000

 防御力: 4000

 俊敏力: 3200

 魔力:24000

 知力: 1000

 幸運: 400

 悩み :。開示認定レベル3。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 あれ。趣味の下に、冒険者見込みランクが追加されてる。

 大賢者としてのレベルが上がったからか?

 サラに聞きたかったけれど、そういえばサラは危機かレベルアップの時しか出てこないんだった。

 しかし、ハイディの能力は面白い。

 戦士と魔法使いを経験しているから割と均等に伸びている。

 ハイディも自分の将来を考えて路線変更したタイプだからなあ。あんな性格だけど、さぞや苦労しただろう。

 俺がハイディのステータスについて思いを馳せていると。

 

「遅れてすまない——おお、揃っているな、今回の依頼を見届けるギルド職員のヨアハだ」


 そう言って現れたのは、12番の冒険者ギルドに所属するあいつだった。


「守護神ヨアハ!? どうして貴方が!? 貴方が依頼に付きそうなんて珍しいじゃない!」


「まあな、ハイディ。本来は俺の仕事じゃねえんだが……興味がある奴がいてな」


 そう言って、あいつは俺をチラ見。

 どうやら興味を持った奴ってのは俺か。面倒だな、ヨアハに目をつけられると。


「ふーん! 守護神に興味を持たれる程、私たちも成り上がったってことね! 冒険者見込みランクでも12を超えたら、扱いが変わるって聞くけど、そういうことからしら。それよりヨアハ、最後の一組はいつ来るの!? もう待ちくたびれたわ」


「今、上で手続きに手間取っている」


「あら。ということは、もしかして……」


「良かったな、ハイディ。お前らの好きな新人ルーキーだよ」


 そうして、最後の一組が地下に降りてくる。

 先頭にはマリア、そしてズレータ。奴らは俺たちを見ると、目を丸くした。


「揃ったな。では、外の迷宮に移動する。説明はあっちで行うから、全員俺の周りに集まれ」


 マリアの登場に言いたいことがあった。 

 でも早速ヨアハが移動拠点ポータルに手をついたから、急いであいつの周りに移動する。ミサキは何も言わずに、俺と同じように移動拠点ポータルに手のひらを合わせる。やっぱりミサキも移動拠点ポータルの使い方は知ってるか。

 最後の一組であるマリア達のパーティが移動拠点ポータルに触れたことを確認して、ヨアハが呟いた。


移動拠点ポータル、発動」


 視界が真っ白に染まる。

 ハイディがいるのは予想外だったけど、順当にマリアらがやってきたから良しとしよう。依頼デートに相応しい依頼クエストになればいいな。

 


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