第43話 水の洞窟

 移動拠点ポータル、それは選ばれた機関のみ使用を許された道具だ。

 国境を飛び越えることも可能なそれを使えるのは王族か、莫大な費金を持つ平民か、冒険者ギルドぐらいのもの。


 移動拠点ポータルの扱いはとてもナイーブだから、こうやってホーエルンの学生が移動拠点を使うときは必ずギルド職員が随行する。

 移動拠点ポータルによって飛んだ学生が全員帰ってきたか、管理する義務を負うんだ。

 そして俺たちがヨアハの案内によって、やってきたのは水の洞窟ブルーロックと呼ばれる迷宮だ。


「到着だ。目を開けていいぞ」


 目を開くと、まさに絶景というべき光景が広がっている。


「わあ!」


 俺たちは水中の中に立っていた。

 水中の中に半円状ドームの巨大空間。透明な空気の塊があって、俺たちはその中に移動していた。足元もぐにゃっとして歩きずらそうだ。

 透明な空気塊の外には、魚が泳いでいて、突然やってきた俺たちを空気越し、というか結界越しにじろじろ見ていた。


「ここは亜空間使いミステルの作り上げた水の洞窟ブルーロックだ。お前ら全員、来るのは初めてだったか? いやハイディ、お前たちは二回目か。今回は去年の借りを返すリベンジマッチだったな」


 ヨアハの言葉に、ハイディ先輩が声を荒げた。


「余計なことは言わないで下さるかしら! あの時は水の洞窟ブルーロックに対して、準備が足りなさ過ぎていただけですから! それに立場もあの時とは真逆! 新人二組に見せつけてあげますわ! ちょっと、そこの貴女! 何、外の光景を楽しんでいるんですの! ここは迷宮ですわよ!」


 そこの貴女とはミサキのことだ。

 既に結界の外の光景に夢中で、ここが迷宮だってことをすっかり忘れている。ヨアハが呆れた顔でミサキを見ていた。


「ハイディの言う通り、水の洞窟ブルーロックは絶景が売りだが、一応は迷宮だからな? ほう、マリア。お前たちは初めてだってのに落ち着いているな。初っ端からパーティランクが15に認められたチームは違うってことか? ハイディ、昔のお前らよりも優秀だな」


「だから余計なことは言わないでくださるかしら! 私たちは確かに最初は16からスタートだったけど、見込みランク16からスタートが当たり前なんですから!」 


 マリア達は真剣な顔で足元の状態や、ドームから繋がっている幾つかの道をじっと見つめている。状況探索に余念がないようだ。

 折角の絶景なのに真面目だなあ。だけど、パーティリーダのマリアや、副リーダのズレータからは時折、俺に向かって何か言いたげな視線が飛んでいた。

 何で俺たちがこの迷宮にいるのか、気になっているんだろう。結構、難易度高めな迷宮だからな。冒険者ランク底辺が依頼受領を許されることは余りないもんな。


「さて、向こうに見える3つの道、あれを進めば、結界の外。つまりは海中だが、外から結界の中にモンスターが入り込んでくるようになる。3つの道、それぞれの最奥にはゴールを示すアイテムがあり、それを取ってくるのが今回の依頼クエストだ。3つの道はそれぞれ難易度が異なり、って、おい。ウィンフィールド、お前のパーティメンバーは説明を全く聞いてねえぞ? パーティリーダとしてあれはどうなんだ」


「全く問題ないんで、説明を続けてもらって大丈夫です」


 ミサキは笑っちゃうぐらい外に夢中だった。

 水の洞窟ブルーロック、水面から差し込む光。煌びやかな水中の世界をいろどり、その中を数百種類の魚が泳いでいる。時間を忘れる絶景だ。


「あ! おい、ウィンフィールド! お前も俺の説明を聞かない気か! 後で後悔しても知らねえぞ! ここにいるハイディはな! 二年生の時にお前らみたいに絶景に気を取られて、ひどい目に合ったんだぞ!」


「ぎゃー! だから昔の話は止めてって言ってるでしょう!」


 ヨアハの説明は置いといて、俺もミサキの傍にいく。

 この依頼に関しては熟知してるから、無問題だ。ミサキは水中と俺たちがいるドームを分ける境界線、結界の外に手を入れたり、引っ込めたりして遊んでいるようだった。


「ウィン、僕、水の中に入ったのは始めてだよ……これ、凄いね。凄い技術だよ」


「亜空間使いミステルって言えば、俺たちの世界では知らない者はいない大魔法使いだ。でも、少しは気に行って貰えたかな」


「うん、気に入った。とっても綺麗……一日中いても飽きないかも」


 気に入って貰えて何よりだ。

 

「それでウィン。この依頼の達成条件って――」


「難易度の違う道を選んで、一番最初にこの場所に帰って来たチームが勝ち。単純だろ?」


 それから数分、俺たちは魚の種類あてっこゲームをして楽しんでいた。

 背中にはヨアハやハイディ、マリア、そして彼らのパーティメンバから何してるんだあいつらって視線がびんびんに刺さっていたけれど、気にしない。


「——ハイディ、マリア、ウィンフィールド! 集まれ! パーティリーダであるお前たちにこれから水の洞窟ブルーロックの地図を渡す!」



―――――――――――————————

ズレータ「おい、マリア。何でウィンフィールドとあの奴隷がいるんだ。この依頼って、ランク16は受けられねえ筈だろ……」

マリア「……今は、迷宮に集中しよう」


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