【12番・ヨアハ視点】ウィンフィールドはどこに消えた
「——はは! こりゃ、すげえな! 一体何があったんだよ!」
現地を直接に見て、12番の冒険者ギルドに所属するヨアハは久しぶりに身体が
林の中に、可笑しな二人組が住んでいたと噂を聞いたことはあった。
一年生と奴隷の二人組。
彼らは何を思ってか、人里離れた林の中に住居を構えていたのだ。ホーエルン魔法学園でも、名前を聞かないような林の中。
人が来ることも少なく、夜に来ればお化けが出るなんて噂もあった。普通、学生なら寮に住む。それが最も経済的だ。
「ゲスイネズミの時も感じたが、あいつは本物だぞ! 久しぶりに楽しい奴が出てきやがった!」
これまで12番ギルドのヨアハはウィンフィールドを気にしたことは無かった。
ホーエルン魔法学園で新しく2年生となった彼の特徴を挙げれば、奴隷を持っているだけぐらいのものだったからだらだ。
一部では虐めの対象になっているなんて話も聞こえてきたが、ここはホーエルンだ。次世代の冒険者を輩出する魔法学園、ヨアハが学生の頃はもっと酷かった。
「ウィンフィールド……あいつ、うちのギルドの専属になってくれねえかな」
ヨアハにとって、ウィンフィールドは大した学生とも思えなかったから興味も湧かなかった。
もっとも、全ては昨日までの話だが。
ウィンフィールドが住んでいたらしき住居は、破壊されつくされていた。
彼らが住んでいたという住居を中心として、半径50メートル程度にあっただろう周りの木々はなぎ倒され、地面は深く抉れている。
まるでこの場所を目的に、とてつもないエネルギーを持つ台風が襲ったかのように。
「——3番の冒険者ギルド、我々の役割は駆除だ! この惨状を見ろ! 我々はリッチに引き続き、魔王の襲来を見過ごしたって話だぞ! お前らは何をやっていたんだ! 魔力の残滓を集め、証拠を探せ! それにウィンフィールドの行方はまだ掴めないのか! お前たちは無能なのか!」
本日、魔王討伐者と判明した――ウィンフィールド・ピクミンが住まう住居の周りは、深夜だというのに、大勢のギルド職員で溢れていた。
特筆すべきは1番や2番といった上位ギルド職員の姿も見えることだ。
この学園にやってきてから、久しく見ることの無かった本当の戦いの跡だ。
ヨアハは戦いの痕跡に感動していると、激を飛ばしていた少女が目の前につかつかとやってくる。
身長さがあるので、自然と必然見上げるような体制になる。
「——おい、お前。何入ってきてるんだよ。見ねえ顔だな、12番? 誰からは知らねえが、これはうちら、3番の管轄だぞ。1番や2番には文句は言わねえが、下位ギルドが出てくるんじゃねえよ」
彼女こそが、3番の冒険者ギルド、ギルドマスターであった。
将軍級のモンスターを何体も血祭にあげ、魔王軍では懸賞金が出されている大物。
珍しい職業、『
「俺は12番のヨアハ。
「っち! 勝手にしろ! だが、この場所から何も持っていくな! お前は見るだけだ! 分かったら、とっとと出ていけ!」
上位冒険者ギルドに所属している人間は気位が高いが、ギルドマスターともなれば相当のようだ。特に3番ギルドの職員は、一人もリッチや魔王の襲来にも気づかなったとあって、ギルドマスターの機嫌は最悪のご様子。
「ああ。そうだ。3番のギルドマスターに聞きたいことがあった」
「なんだ! 忙しいのだから、さっさとしろ!」
「ウィンフィールドの奴隷に何故、生徒としての権限を与えた?」
ヨアハが所属する12番の冒険者ギルドの役割は、学生らのサポートだ。
3番ギルドのように、外敵から侵入してくるモンスターの駆除ではない。それでもヨアハがこの場にやってきたのは単純に、ウィンフィールドという学生に興味を持っただけのこと。
あらかたの現場調査を終えて、ヨアハは既に魔王はこの場にいないと判断し、切り上げることにする。
収穫は、あの気難しいそうな3番ギルドのギルドマスターがウィンフィールドという学生を気に入った理由を直接、本人から聞けたことだ。
しかしまあ——羨ましいぜ。魔王と戦えるなんて。
ヨアハも一応、戦士である。
「……ん?」
ヨアハは去り際に、林の中へ入ろうとしていた2年生のとあるパーティの姿を見つける。そこそこ有望とされている新2年生のパーティだ。
だけど、ウィンフィールドの登場ですっかり霞んでしまったように思える。
ウィンフィールドという新2年生はこれまで何かを隠していて、2年生になり迷宮へ潜る許可が下りた瞬間に、頭角を現した。
ウィンフィールドという学生は1年生の間は劣等生だという話だったが、それが昨日の今日で同学年の間で最も有望株になった。なってしまった。
当然、面白くもない、と思う学生も多いだろう。
「……マリア! 魔王の襲来って噂だ! あの3番ギルドのギルドマスターも林の中にいるって話だし、ウィンフィールドが生きてる筈、無いだろう!」
「この目で、確かめるまでは認めないッ! 離してくれ、ズレータ!」
「俺は副リーダとして、お前を危険な場所に行かせるわけにはいかねえんだよ!」
「嘘をつくな! お前、魔王がいるかもしれないってビビっているだけなのは分かっているんだ! 私は一人でも確かめる! だから離せ!」
聞き耳を立てると——彼らは魔王に襲撃されたウィンフィールドの生死を確認するためにこの場所までやってきたらしい。
仲がいいのか悪いのか……。
そしてヨアハは口笛を吹きながら、12番冒険者ギルドに戻るのであった。
同学年である彼ら然り、林の中で喚いている小さなギルドマスター然り。
魔王討伐者がこの程度で死ぬわけないだろうと——ヨアハには確信があった。
きっと朝になれば、あの奴隷を連れて何食わぬ顔で青春通りを歩いているだろうとの確信が。
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