第38話 最強職の一角

 『聖マリ』の世界じゃ、大賢者ってのは勇者や大魔王と同じく、最強職の職業とされている。

 大賢者を名乗る人間が転換期とも言われる時代の節目に突然現れて、鮮烈な印象を世界に与えているからだ。


 戦いで白黒をつけたがるこの世界の実力者たち。

 そんな彼らの中にあって、言葉一つで戦局をひっくり返す大賢者の存在は、極めて不思議で、痛烈で、愉快で、そして謎めいて見えるらしい。

 俺も、この職業の力についてはまだ何も知らないに等しいだろう。

 だって、『大賢者』はゲームの中ではどんなキャラクターでも取得不可とされていた。


 少なくとも、大賢者は戦う職業じゃない。

 分かってはいるけれど、このステータスは弱いと言わざるを得なかった。


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 名前:ウィンフィールド・ピクミン

 性別:男

 種族:人間(大賢者ワイズマン

 レベル:2

 ジョブ:『常人ノーマル』『大賢者ワイズマン

 隠れ職業;『厄病神ゴースト』※特殊補正のみ。ステータス値に『厄病神ゴースト』反映はされません。

 HP:151/171

 MP:1030/1030

 攻撃力:160

 防御力: 230

 俊敏力: 215

 魔力:780

 知力: 71500

 幸運: -10000


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【ご主人様! しっかりと自分の能力を目に焼き付けて下さいね! 大賢者は基礎能力が出来上がっている賢者から進化するのが一般的ですが、ご主人様は最底辺職の常人ノーマルから跳躍進化してるんです! 過程をすっ飛ばしているんですから、能力値はめちゃ雑魚です! 確かにご主人様には沢山の職業補正の力があるようですが、とっても死にやすいんですから、喧嘩を売る相手はよくよく考えること! そもそも大賢者は直接、戦う職業じゃないんですから!】

 

 知力を除いた、今の俺の能力は新2年生の平均値ぐらいのもの。

 そして、俺の異常な知力の高さは、ステータスで色々な人の能力や隠れた力が分かる分も加味されているんだろう。

 それでも、弱い。弱すぎる。

 

 まあ、俺にはステータスさん……だけじゃなくて、サラって名乗ったステータスさんが言う通り、職業補正の力がある。

 それでも素の能力値だって、マリアのパーティメンバーであるズレータ・インダストルぐらいは欲しいところだ

 ちなみにズレータの能力は↓な感じ。きちんと進化を繰り返して強くなった奴らとは俺の能力は雲泥の差がある。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 名前:ズレータ・インダストル

 性別:男

 種族:人間(侍)

 レベル:2

 ジョブ:『常人』『戦士』『剣士』『侍』

 隠れ職業;『剣聖』※特殊補正のみ。ステータス値に『剣聖』反映はされません。

 HP:2400/2400

 MP:280/280

 攻撃力:19000

 防御力: 6500

 俊敏力: 4800

 魔力:50

 知力: 860

 幸運: 77

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【少なくとも今までの大賢者様方は、サラが知る限り、自分から戦いを挑むような戦闘気質の方はいませんでした! サラも危険になったらサポートしますが、自ら強敵に挑むような真似だけは止めて下さいね! それじゃあ、ご主人様! さようなら! 後、さっき能力上昇を祈ったように、よっぽど強く願わないと、私にはご主人様の意思は届きませんから! 私は……とても遠い場所にいるので――!】


 そして、ステータスさんこと、サラの声が奇麗さっぱり消えていく。

 

 レベルアップの時か、危険な時しか出てこないらしい大賢者のサポート役。

 彼女の言葉を聞いて、有難いことに俺は大賢者のことがちょっとだけ理解出来た気がした。


「……」


 大賢者はやっぱり賢者の先にある職業のようだ。

 賢者は、魔法使い系統の頂点に位置している職業だ。賢者になっている時点で、非常に高い能力を持っている。そこにステータスの力が加わって、しかもサラのサポートがあれば、歴代の大賢者のような偉業も可能だろう。


 大賢者の職業補正——ステータスの力。  

 能力を看破するだけでも、不死者の職業補正『一度きりの再生ワンプレイバック』よりも、遥かに価値がある。



「——ウィン! 布団の準備が出来たよ! 行こう!」



 ミサキに背中を押され、自室へと歩いていく。

 自室といっても、何もない。壁面の一部に鏡が埋め込まれていて、水道があって、トイレは共用。お風呂場は近くを借りているらしい。

 これで家賃月20万ゴールド強って高すぎる。

 でも、立地がいいから何も言えない。それに他に頼れる人もいないしな。


「ほら、ウィン! いつもみたいに洗い物は僕がやっておくから!」


 布団に横になる。というか、されるがまま。

 素の能力もミサキの方が遥かに高いので、ミサキがその気になったら俺は何もできない。


「なあ、ミサキ。さっきの言葉だけど――」


 さて、大賢者のレベルアップ条件は重要人物の未来を変えること。 

 重要人物とは誰だろう……まずマリアは間違いなく重要人物だよな? 『聖マリ』の主人公様だし。あいつが重要人物じゃなかったら、泣きたいよ。


 とりあえず考えることは沢山あるが、それよりも先にミサキに言いたいことがあった。


「そのことだけど! ウィン、ちょっといい!? いいですか!」


「う、うわ!」


 シーツを頭の上からかけられる。そのうえに体重が乗せられる。こりゃあ、ミサキが乗ったな。彼女の体温を感じた。

 耳元に、シーツ越しに、ミサキの言葉が届けられる。ちょっとだけぞくぞく。



「——ウィン、嘘はつかない。僕は、魔王軍に所属していた魔王だ。父親は、大魔王ドラゴン。僕の本名は、ミサキ・ドラゴン。ホーエルンには情報収集するために、ウィンを洗脳して、ウィンの奴隷として潜入した」


 おお、自分から全部明かしてくれた。


「僕はただこれまで、言われるがままに生きていた。でも、僕の洗脳を解いてからのウィンの行動を思い出したら、羨ましいって思った」


「……」

 

「ウィンには聞きたいことが山ほどあるけど、それはこれからウィンと信頼関係を作って、少しずつ教えてくれたら嬉しい……ああ、ダメだ。とんでもない決断しちゃって、僕も上手い言葉が出てこないけど、さっきエアロに言った言葉は真実だよ。後悔するかもしれないけど自分で決めたんだ。僕は、こっち側で生きてみたい」


「……」


「ウィンは嫌かもしれないけど、僕はこれからもウィンの傍で……あれ……もしかして、寝た? ……寝てる。うそでしょ…………このタイミングで……」


 




 翌日、俺はエアロの悲鳴で起こされた。


「はあ!? どうして二人一緒に寝てるの!? 貴方たちどういう関係なの!?」


 この一年間、狭いボロ家で暮らしてきた。

 同じベッドで、同じシーツの下。ミサキは洗脳していたウィンフィールドだから、何もしてこないと安心して眠っていたんだろうが。


「あ。おはよう、ウィン……」


 まさか今日も、ミサキが俺の隣に潜り込んでいたとは思わなかった。

 俺の横で目を擦るミサキを見つめながら、昨日までの出来事を思い出す。


 ……うん。そうだな。

 まずは、そうだよな。あいつだよな。あいつしかないよな。俺の過去をばらしやがったあのマリアに……何考えてんだってどつきにいくか。




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