第31話 俺の家はどうしてくれるの?

 季節は、春。

 俺がホーエルン魔法学園に入学して、ちょうど一年が経過した。俺はミサキの洗脳からふとした偶然で脱却し、かつての転生者である自分を手に入れた。


 そして、一度死んだ。


「おいっちに。おいっちに、さんし」


 さて、『聖マリ』の世界ってのは初期パーティでどれだけ強くなれるかが重要だ。

 学園の管理された迷宮はレベルアップに効率がいいから、学園にいる2年生や3年生の間にどれだけレベルが挙げられるかがカギになる。


 そして、忘れるべからず。もう一つ大事なのが拠点である。

 つまり家だ。家なんだよ。


「はあーー……」


 俺はついさっき一度死んだ。

 そして世にも珍しい職業『不死者』が持つ職業補正の力で、蘇った。

 そしたら、何だよこの状況。

 俺の目には、嘗て家だった物が散らばっている。

 壁だったものや、家具だったもの、天井だったもの、柱だったもの。それらがただの材木になって、いや、材木よりもひどいなこれ。残骸だ。

 見上げれば、真っ暗な星空の空が見えて、つまりはホームレスだった。

 

 現実逃避にストレッチだ、ストレッチ。

 これも、マリアとズレータのせいだ。

 明日から俺はどこで生活すればいいんだろう?


「なあ、ミサキ。俺たち、明日からどこに住む?」


 俺が魔王討伐者であることをばらしたマリアに家を建て直してもらうか?

 うーん、でもあいつも金持ちってわけじゃないからなあ。

 それともあの16番の冒険者ギルドのエアロを頼るか?? いや、あいつが俺のために何かをしてくれるイメージが涌かない。俺の家を建ててくれる程の恩をまだ売ってないし。

 はあ、俺って知り合いが少なすぎるな。

 いざって時に頼れる人がいない。


「ウィン……なに、呑気なこと言ってるの! ていうか、何で生きてるの! 君はさっき死んだはずじゃ! ていうか、死んだよね絶対! 心臓止まってたし!」


「いや、そんなことより俺たちの家の方がぶっ壊れた事実のほうが重要じゃない?」


「重要じゃないよ! 住むところなんてどこでもいいよ!」


「価値観が合わないなあ……マイホームが無くなったんだぞ、ミサキは知らないかもしれないけど、ホームレスって辛いんだぞ。あの冷たい視線経験したことある?」


 ミサキに洗脳されながらも、この学園にやってきて最初にしたのは家の確保だったからな。

 ――よし、決めた。

 冒険者パーティは作ったから、次の目標は家の確保にしよう。


「分かったから! それで、ウィン! なんで生きてるの!?」


「通りすがりの蘇生師シャーマンに助けて貰ったんだよ」


「そんな偶然、あるわけないって!」


 

「——アハハ! そこの人間! どうやって俺がぶち開けた腹を塞いだ!? どんな手品を使ったかは知らんが、面白いデシュ!」


 さてと。一息ついたし、俺を見ながら腹を抱えているあのピエロに向かって。

 ステータスオープン。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 名前:ラックん

 性別:無

 種族:暗黒精霊ジョーカー

 レベル:5

 経歴:『精霊』『将軍』『魔王サタン』『大精霊』

 趣味:ピエロの被り物

 HP:300/340

 MP:5100000/6800000

 攻撃力:3080

 防御力:57000

 俊敏力:1 880000

 魔力:23400000

 知力: 8000

 幸運: 12000

 悩み :無デシュ。精霊に、悩みなどあるわけがないデシュ。精霊は、好き勝手に生きるもんデシュ。折角ホーエルン魔法学園にやってきたんデシュから、どうせならひと暴れしますかデシュ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 この世界は一応、恋愛ゲームである。

 だからって、ちょいちょいかわいい要素入れてくるなよ。ピエロなら、ピエロであるべきだ。なんだよ、その名前は。

 ピエロの正体は、被り物を被った精霊だ。あの服の下には何もない。

 あのピエロを倒したら、服の下から精霊が飛び出してきて、第二戦が始まるんだ。

 あいつの正体は精霊だからな。それを知らずに、第一形態のピエロに全力を使ったら全滅は間違いなし。面倒なことこの上ない敵だ。


「おおお? 面白い! 魔法がなぜ当たらないデシュ!?」


 ピエロの被り物が大好きな大精霊のラックんは何か攻撃をしているらしい。

 あいつが次々と放ってくる黒い魔力。

 職業、猟兵の特殊補正『危機の領域感知デンジャーゾーン』の効果で見えるようになった赤色の力。危機を現す赤線が、現れては消えていく。


「な、何が起きてるの? あの魔法を防ぐので僕も精いっぱいだったんだけど……」


 あいつから逃げるように、俺のもとにやってきたミサキ。

 あ、ちょっと。俺のお気に入りだったタンスを踏みつけるなって。まだ、使えるかもしれないだろ。


「ウィン……もしかして何かしてる?」


 ミサキもあいつが俺に向かって攻撃しているのは分かっているんだろう。だけど、現実として何も起きていないことにびびってる。


「さ、さあ」


「……怪しい」


 全ては職業、結界師の特殊補正『結界バリア』の力だ。

 ピエロの攻撃といえど、多少は耐えられる。もうすぐ崩壊するだろうけど。俺の『結界』が耐えている間に、ミサキには言いたいことがあった。


「それよりミサキ。このまま魔王軍のあいつらに良いように使われるか、俺と一緒にこのホーエルン魔法学園で生徒として楽しく生きるかだったら、どっちがいい?」


 直球でぶつけてみる。


「……家が無くなったから、ゼロからの出発だけどさ」


 恨みがましく言う。割とガチでへこむんでいた。


 そして、同時に鼓膜を破るような大音量が辺りに響き渡る。ホーエルン魔法学園の広大な領土、あちこちに存在する冒険者ギルドが打ち鳴らす警報だった。

 どうやら、冒険者ギルドもピエロの被り物が大好きな魔王ラックんの襲来に気づいたらしい。ホーエルン魔法学園に滞在して、後進の育成に努めている冒険者らは、とっても優秀だ。後数分もすれば、数百人の冒険者がこの場所にやってくるだろう。

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