第21話 預言者は、蚊帳の外
俺はズレータからの決闘の誘いに乗った。
そしたら、急に場が湧いた。
あいつ正気かよってさ。
俺の発言を疑う同学年連中の声がそこら中から聞こえてくる。
「ちょ! あいつまじか! 決闘の相手はズレータさんだぞ! 侍なんだぞ!」
ズレータ・インダストルは同学年の間じゃ有名人の一人だ。
一年生の時は数々の試験で好成績を上げて、今はあの『聖女見習い』マリア・ニュートラルがリーダーを務める冒険者パーティの副リーダー。
「死んだな。ウィンフィールドは、死んだ」
「ズレータ! ウィンフィールドが新入生を助けたなんて、嘘だって暴いてやれ!」
けれど俺だってプライドがある。
後ろから攻撃されて、反撃もしないなんてあり得ないだろ。
それに俺は内心では余裕綽綽であった。
だってこれイベントだからな。魔剣やリッチの時とは違い、ゲームの中でもよく見たイベントの一つだ。
主人公であるマリアを取り合って、ゲームの中ではアホな男たちがよく戦っていたものだよ。特に二年生になったばっかりの頃なんて……迷宮が解禁されたもんだから冒険者ギルドの
「ウィン……だ、大丈夫なの?」
ミサキが震えた声で、聞いてくる。
「よく見ればあいつ、すっごい強そうだけど……」
す、すごいな。
俺は改めてミサキの演技力の高さに震えた。
ミサキは演じていた。
強者であるズレータに喧嘩を売ってしまった哀れな奴隷。自分の発言を後悔し、ブルブルと震え、心配そうに俺を頼るミサキの姿。
その姿を見ながら、俺はさすがだなあと舌を巻いた。
さすがプロだよ。魔王でありながら俺の奴隷として身分を偽っているミサキ。ミサキが本気になれば、ズレータなんてでこぴんで吹っ飛ぶだろ。
ミサキからすればゴミムシみたいな戦闘力なのに……。
だけど、ミサキは覚悟を決めたのか、ぐいっと一歩進み出る。
「……お、おい! ウィンは、
周りから、奴隷に守られているぞと野次が飛んだ。
ま、まあ……そう見えるよな。
でも、俺が黙っていたのはミサキのか弱い演技にびびっていただけなんだけどな。
「奴隷! お前……俺とウィンフィールドの神聖な決闘に横槍をいれると?」
「当たり前だろ! 僕のパーティーメンバーなんだから!」
「ウィンフィールド。てめえはいいのか。お前の奴隷が神官ってことは知っているが、これは決闘だ。てめえは奴隷に助けられるような臆病者なのか?」
ズレータの鋭い目が俺に向けられる。
この世界では奴隷は合法だ。高い金を出して能力の高い奴隷を買い自分の代わりに戦わせる奴もいるし、愛玩目的にずっとそばに置いて大切にする奴もいる。
もちろん奴隷をひどい目に合わせ奴だってたくさんいる。
そんな奴隷に共通しているのは、首筋に刻まれた隷属の烙印と首輪。
それがある限り、奴隷はご主人様の決定には逆らえない。
ミサキは俺の奴隷だ。
最終的には俺の言葉に従うんだけど……。
「当然だ。ミサキも一緒に参加する」
「はあああああ! お前、さっきまでの威勢はどうした!」
堂々と言ってのけると、情けねえって、また周りからヤジが飛んだ。
恥ずかしさで体がプルプルと震えている。
わかっているわかっているさ!
俺はついさっきズレータから決闘の申し出を受けて、かっこよく受け入れた。
だけどすぐに神官である奴隷と一緒に戦うと宣言した。
情けない奴に見えるだろうさ! それぐらい分かってるっての!
だけど、理由があるんだよ!
今朝の出来事。マリアとの一件のさなか、ミサキは再び俺を洗脳しようとした。
俺に掛けている洗脳の魔法、効果が発揮されているのか心配になったんだろう。今のミサキは俺の傍を離れれば何をするか分からない。
……出来るだけ傍に置いておきたかった。
「まあ……いいぜ。神官の奴隷が一緒でも同じだ。それで、決闘の方法だが……ウィンフィールドお前は冒険者ギルドから害虫駆除の
ほらきた。きたよ。
汚い、さすがズレータ汚い!
長髪を書き上げて恰好つけているけど、俺は知っているからな!
今回の依頼は、ズレータの侍補正「動体視力」があれば、俄然有利になるやつだ!
侍は、ひらひらと舞う木の葉さえも切って見せるという。
並外れた「動体視力」がそれを可能する。けれど、その力を侮ってはいけない。
「動体視力」逃げるにも、攻撃に活かすにも、防御に使うにも役立つ万能能力。
「ウィンフィールド! 負けても、奴隷に泣きつくんじゃねえぞ!」
「ウィン、僕に任せて! これでも虫退治は得意だからさ!」
俺はこっそりと侍補正「動体視力」の発動をさせた。
……すまん、ズレータ。その力、俺も持ってるんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます