第22話 ゲスイネズミの大親分
「ウィン、どうしてあの人の後ろにいたネズミに気づいたの?」
ミサキが感心した様子で聞いてくる。
ヨアハはあいつの後ろに迫っていたゲスイネズミの親玉に気付いていなかったんだ。
俺たちの戦い方を見ることに一生懸命で、あいつは周りの索敵を疎かにしていた。
別に俺たち同じぐらいの身長を持つゲスイネズミの親分に肩を齧られたぐらいで、職業「守護者」であるヨアハは大したダメージを受けないだろう。
けれど、気付いていながら何もしないってのもよくないかなってさ。
それにあいつに恩を売っておくと後で便利だし。
だから魔法使い系統の職業を修めているミサキに頼んでヨアハごと、ゲスイネズミ・ボスを退治してもらったのだ。
ヨアハも最初は見届け人である自分がどうして攻撃を受けるのかと驚いていただけどれど、すぐに背後に迫っていた他のゲスイネズミの親分と戦い始めた。
俺たちはヨアハが戦っていた間に移動を開始。
ヨアハの奴、見届け人を置いていくなんて何考えてやがるとか叫んでいたなあ。
「ウィン……もしかして僕よりも先にネズミの出現に気付いてない? あ、またでた」
ハルバートを振り回すミサキが、俺に疑惑の目を向けていた。
「もしかして……大賢者としての力が発揮されてたりするのかな? ねえ……僕に大賢者の力、秘密にしてない……? 戦闘奴隷として教育を受けた僕よりも早くネズミを見つけるなんて……何か特別な力が働いてるとしか思えないなあ……ちらっ」
ミサキは戦闘奴隷だ。
有用な職業に適性を持ち、小さいころから戦闘訓練を受けて、ご主人様のために戦う奴隷。そんな奴隷を、特に力に秀でた戦闘奴隷というのだ。
「ねえ、ウィン……教えてくれたら嬉しいなあ」
「うーん、でも俺も分からないんだよなあ。本当に大賢者の特殊な力って何なんだろう……いやー、全然分からない、困った困った。あ、ミサキ。足元にネズミがまた1匹」
「おりゃ!」
ミサキがハルバートで叩き潰す。
あの茶色くてすばしっこいネズミ、通称ゲスイネズミが迷宮「下水の王国」の特徴だ。奴らはこの迷宮で無限に思われるぐらい湧いてくる。
そして、出てくるゲスイネズミにも幾つか種類があって、レアな奴程退治した時の功績につながる。俺たちが倒している茶色のやつは一番数が多いゲスイネズミのノーマルだ。
ステータスを見ても、大したことがない。
けど、見ておくか。
ゲスイネズミちゃんのステータス、オープン!
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名前:ポンキチ
性別:男
種族:ゲスイネズミ・ノーマル
レベル:1
経歴:下水の見回り
趣味;アカペラ
HP:6/7
MP:0/0
攻撃力:3
防御力:4
俊敏力: 12
魔力:0
知力: 3
幸運: 1
悩み :春になると、人間が沢山やってきて仲間が倒されるでチュウ。噛み付いて、反撃するでチュウ。下水の王国はおいらが守るんだチュウ。
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うん、まあ、ゲスイネズミなんてこんなものだ。
常人でも足で踏みつぶせば、消えていく。
迷宮「下水の王国」の中で一番取るに足らないモンスターの一つ。
「そうだなあ……ウィンは視野が広くなったのかな? それとも視力が良くなったのかな? でも、大賢者の力にしては貧弱過ぎるし……ねぇ、ウィン。あの子にパーティ希望された後、レベルが上がったって言ってたよね? レベルが上がって、何か変化を感じる?」
「まぁ、身体が強くなった気がするなあ」
あ、そういえば、ステータスに新しい表示が出てたな。
趣味……か。
モンスターの趣味なんか知ってもあんまり重要そうには思えないけど、人間の趣味が分かったらコミュニケーション向上には繋がるか? しかし、さっきミサキに叩き潰されたゲスイネズミ、アカペラが趣味だったのか。
「肉体の強化はどの職業でも起こりえるから……ほかには?」
「よく分からないなあ。もしかしたら俺って大賢者の才能無いのかも……」
「そんなことないよ! 大賢者っていう職業は事例が少なすぎて冒険者ギルドにも記録が全くないってエアロも言ってたし、ゆっくりと力の本質を探していこうよ! 僕も協力するから!」
ミサキが俺の腕をとって、花びら満開の笑顔を向けてくれる。
まあ、俺。大賢者の力、もう理解しちゃってるんだけどさ。
大賢者に進化した時に得たあのステータスの力とステルスの力。
けれど、興味津々なミサキには秘密にしておく。
特にステータスの力はやばい。
問答無用で相手の職業や能力、しかも考えていることがわかるなんてチート過ぎる。この力のお陰で、ミサキが俺にかけている洗脳が解けたんじゃないかって、俺の様子を疑っていることも分かったしな。
「それで、ウィン。僕たちってどこに向かってるの?」
今回の依頼、害虫駆除の依頼の本質は数じゃない。
質だ、倒すべきゲスイネズミの質なのだ。
この先に進むと、ミサキが倒しまくっているゲスイネズミ1000体の価値があるモンスターがいる。
ゲスイネズミを生み出す、ゲスイネズミの親分らが住む場所がある。
下水の王国には、特定のルートを通過しないと出てこない珍しいネズミがいるのだ。
既に俺はその時に備えて職業『駆除人』の特殊補正、そして職業『戦士』の特殊補正「
「……こいつだ」
やっと、捕まえる。
ゲスイネズミだけど、今までのとは少しだけ色が違う。こいつは赤みが掛かっている。
「うわあ……ウィン。ゲスイネズミって不衛生なんだよ? 触って大丈夫?」
ミサキがドン引きしていた。
でも、こいつを捕まえることでこいつの親であるゲスイネズミの親分らがやってくるんだよ。
冒険者ギルドでも賞金首になっているゲスイネズミの親分。
俺はヨアハを襲ったゲスイネズミ・ボスの集団を狙っているんだ。
あいつらを倒せば、普通のゲスイネズミ1匹1匹をちまちまと倒しているだろうズレータに完勝することができるだろう。
「あ。ウィンの持っているそれ、今までのゲスイネズミとちょっと違うね」
「見る?」
「うわ! や、やめて! 近づけないで! 汚いから!」
『聖マリ』ゲームの中でもそうだが、
ズレータにマリアの恋敵と認定されると面倒なことになる。
あいつと顔を合わすたびに今回のように決闘を申し込まれたり、嫌味を言われたりするのだ。
それを避けるには、ズレータが勝てないと力の差を認めてしまうぐらい圧倒的な差で初回の決闘に勝つしかないのだ。
そのために俺はゲスイネズミの親分を探している。
「ねえ、ウィン。嫌な予感がするんだけど」
道の先から、ひんやりとする風。
よしよし。きたぞきたぞ。この風は、ゲスイネズミの親分が吐く息だ。
しかし。
「……ん?」
ゲスイネズミの親分が道の先からやってくる。
身の丈はミサキの身長ぐらいありそうな巨大な姿。
だけど、可笑しいのはあいつの後ろにさらに一体ゲスイネズミらしきモンスターがいることだ。親分よりもひと回り大きな身体。
身体の色は赤色で俺も初めて見る姿……なんだ、あいつ。
俺はさっそく、ステータスオープン。
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名前:
性別:男
種族:ゲスイネズミ・ビックボス
レベル:7
経歴:「下水の王国」を取り仕切る大親分
趣味 ゲスイネズミ・ボスを虐めること
HP:17800/17800
MP:0/0
攻撃力:69000
防御力:4300
俊敏力: 120120
魔力:0
知力: 70
幸運: 140
悩み 殺す殺す殺す。儂の聖域に入ってきた奴がいる。殺す殺す、殺す殺す。この時期になると、いつもそうだ。儂の可愛いゲスイネズミ達を、面白半分に倒しよってからに。もう許さん。お前が持っているゲスイネズミは儂の娘だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
――は?
見たことがないモンスターの姿に、俺は一歩後ずさった。
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