第17話 『聖女見習い』と『大神官』

 職業『聖女見習い』、マリア・ニュートラル。

 口調こそうるさいが、佇まいはすらりとし、良家の令嬢を思わせる繊細な美しさを持っている。


 白のブラウスが清純な乙女感をきわだたせ、その美貌は名家の娘が集まるホーエルンでも群を抜いている。

 だけど今は目の下にはくまが出来ていて、色々と台無しだ。


「こんな朝っぱらからいるってことは……もしかして、ずっと起きてた?」


 単純に気になったから聞いてみた。


「起きていたわけないじゃない! 私を誰だと思っているの? そんな暇じゃないのよ!」


 そんな顔を真っ赤にして否定することないじゃない。

 でも、ほんとかなぁ。

 ステータス、オープン。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 名前:マリア・ニュートラル

 性別:女

 種族:人間(聖女見習い)

 レベル:3

 ジョブ:『常人』『魔法使い』『神官』『聖女見習い』

 隠れ職業;『聖女』※特殊補正のみ。ステータス値に『聖女』反映はされません。

 HP:91/137

 MP:10800/10800

 攻撃力:56

 防御力: 170

 俊敏力: 310

 魔力:71000

 知力: 1200

 幸運: 55

 悩み :かなり睡眠不足。だって、今日は寝ていないから。ウィンフィールドが可愛らしい奴隷を所有していることが悩みで、それを考え出すと夜眠れません。ウィンフィールドがあんなボロ家に住んでいるも許せないし、あの人には私だけがいればいいと思ってます。


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 相変わらず睡眠不足継続中のようだし、睡眠不足が、かなり睡眠不足に変化している。

 あ、HP減ってるじゃん。

 睡眠不足もHPを減らす要因になるのか、知らなかったな。


 しかしまあ、あれだよあれ。

 ミサキに比べたら遥かに低い能力値だ。

 ホーエルン魔法学園の二年生の中では超優秀な部類だけど、やっぱり魔王ミサキと比べたらいけないか。


 まっ、いいや。俺とミサキは16番の冒険者ギルドに行くんだ。何の用事かは知らないけれど構っている暇はない。

 冒険者パーティを作るんだ。

 

「無視するな! 待ちなさいって! 置いていくんじゃないわよ……私が何時から待っていたと思っているのよ……」


「……やっぱり寝てないんじゃん。それより俺たちは急いでるんだけど」


「こんな朝からどこに行くの? それに、奴隷の子は学園の制服きてるし、怪しいわね」


「……」


 朝っぱらからうるさいなぁ。

 怪しいってそんなの知るかよ。

 どうして俺が友達でもないマリアに律儀に教えないといけないのか。


「……き、昨日のことは聞いたわウィンフィールド。すごいお手柄じゃない。貴方が新入生を救い出したなんて、学生は誰も信じてないけどね。だって、常人の貴方が凶悪なモンスターから救い出すなんて信じられないから」


「……」


 別に信じてくれなくてもいいけどさ。


「で、でも、私はウィンフィールドが新入生を救い出したって信じてあげてもいいわ……」


「……」


 だから信じなくてもいいって。


「信じてあげる代わりに教えなさいよ。ウィンフィールドは常人ノーマルじゃなかったの? それともそこの子に頼んで進化させてもらったの?」


 やっぱりそこにくるか。

 俺が常人じゃなくて、何の職業かだって? 


 でもその質問は昨日受けたばっかりだよ。

 3番の冒険者ギルドマスターからも、冒険者ギルドには常人と登録されているのに、どうやってリッチを撃退したのかと聞かれたさ。


 学園生徒は、冒険者ギルドに自分の職業を登録する必要がある。


 正しく登録していれば実力に見合った依頼を二年生から受け取ることができるし、真面目な生徒ならきちんと自分の職業を冒険者ギルドに登録するもんだ。


 だけど、この学園には様々な事情の学生が存在する。中には、自分の実力を知られたくない生徒だっている。


「……俺の職業は落ちこぼれの常人だよ。それでいいだろ」


「そんなの今更誰が信じると思っているの! じゃあ、私に職業見せてみなさいよ!」


「……」


「ほら! 嫌そうな顔しているじゃない」


 当たり前だろ。

 なんでそんな面倒なこと、しないといけないんだ。


 でも俺が協力さえすれば、神官の職業を修めたマリアには出来るんだ。

 ま、神官が人の職業を覗き見するには本人の同意が必要だけど。

 大神官ぐらいになればさ。意思関係なく職業が確認出来るらしいけど、マリアは大神官じゃない。


 そう考えれば、大賢者の特殊補正が如何にとんでも補正かわかるな。


 ちなみに昨日、冒険者ギルドで尋問を受けていた際も、自分の職業の開示は断った。

 俺は大賢者に進化すると同時に『ステータス』の力と『隠蔽ステルス』の補正を手に入れている。これがあれば、職業の隠蔽は可能だけど……あんな高慢な奴らに従うのは嫌だった。


 俺の態度を見て冒険者ギルドの奴らは引き下がったが、マリアにはその気はないらしい。


「……うるっさいなあッ! ウィンが何の職業に進化していようと、オバさんには関係ないと思うけど!」


 耳を疑った。

 唐突にミサキが、学園のアイドルをオバさんと呼んだからだ。


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