第14話 英雄の孤独な帰り

 すっかりと太陽が落ちて暗くなった帰り道をとぼとぼと一人で歩いている。


 思い出すのも嫌な位、今日はひどい目にあったよ。


 俺は冒険者パーティーが作りたいだけだった。

 なのに、何がどうなってモンスターと戦う羽目になったのか。

 慣れっこだけど、運が悪いにも程がある。


 だけど、俺の頬は緩みっぱなし。嬉しい収穫が色々あったからだ。


 一つ目が、さっき16番の派手な冒険者ギルド職員。

 俺に危険な依頼を渡してきたエアロに会えることが出来たことだ。

 彼女自身もあんなことが起きるなんて想像もしていなかったようで、俺はこの学園で強大な権力を握る冒険者ギルド職員に大きな貸しができたことになる。


 改めてエアロには、俺の冒険者パーティ設立について約束しておいた。

 明日、16番の冒険者ギルドに行ったら、パーティ設立出来るよう、今晩は寝ずに頑張るからと言っていた。


 よしよし。

 ようやく俺のホーエルン魔法学園、人生の第一歩が進められるのである。


「——なあ! 今日は楽しかったな! やっぱり二年生になってからが学園生活の本当の始まりって感じがするよな!冒険者ギルドに行ったり迷宮に入る準備をしたりあ!」


「明日はさっそく迷宮に潜ろうぜ! でも、今日はもうくたくただよ。早く寮に帰って寝たいぜ」


 太陽が落ちて、しっかりと暗くなっている。

 学園を照らす街頭の明かりの下で、仲良く歩いているのはこの学園の生徒たち。


 一部の金持ち連中は自分の家を持っているけど、学生の大半は寮生活をしている。

 寮生活、学園の角でぼっち生活を送っている俺には馴染みの無い単語。


 なぜなら俺は寮生活じゃないからだ。

 学長のお情けで、倉庫として使われていたボロ家で生活をしている。

 木造のログハウスみたいなもんで、部屋はリビングと寝室の二つだけ。お風呂は共同浴場に通っている。


「おかえり! ウィン! なんだかすごいことに巻き込まれたみたいだけど大丈夫だった!?」


 家に戻ると、屈託のない笑みが俺に向けられる。

 その姿を見るとほっとできるのはこの一年間彼女と二人で暮らしてきたからだろう。夏は暑くて冬は寒い、ボロ屋に吹く隙間風に悩まされながらも協力して暮らしてきた。


 彼女の名前はミサキ。俺の奴隷だ。

 お洒落の欠片もない、灰色フード付きの服。

 オレンジ色の髪をおさげにして、まだ幼さがはっきりと残る大きな瞳、小さく筋の通った鼻と口元。


「今晩ご飯の支度をしているからちょっと待っててね! ウィン!」


 傷だらけの机の上には作りたてのご飯が並べられている。

 まるで俺の帰ってくる時間を予測していたのかってぐらい、出来たてだ。


 学園の奴らはよく言っている。

 能無しのウィンフィールドが生きていられるのは奴隷である彼女、ミサキが毎日働いているお陰だって。でも……それはあながち間違いでもないんだよなあ。

 ミサキは料理も上手だし掃除も得意だ、人付き合いも運動もばっちしと完璧な奴隷で、俺にとんでもなく尽くしてくれる。


 奴隷商人から自分を救ってもらった恩があるからと本人は言っているが、内心はどう思っているのか。


 さて、と。俺はミサキの後ろ姿を見ながら、ステータスオープン。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 名前:美咲・黒龍ミサキ・ドラゴン

 性別:女

 種族:人間(魔王)(大神官)

 レベル:2

 職業;『常人』『魔法使い』『神官』『暗殺者アサシン』『大神官』

 経歴:『黒龍・親衛隊隊長』『将軍候補』『将軍』『魔王候補』『魔王サタン

 HP:747000/747000

 MP:4600000/4600000

 攻撃力:41080

 防御力:69000

 俊敏力: 650000

 魔力:11070000

 知力: 58000

 幸運: 900

 悩み :ウィンが大賢者に進化した。こんなに早くウィンの素質が開花するとは思っていなかったけど、進化出来たなら早く魔王軍にお持ち帰りしたいなあ……でも、まだ学園の情報が集まり切れていないし……。ていうか、ウィンが昨日から様子が可笑しいんだけど、どうしたんだろう? 私の洗脳魔法は効いている筈だけど、調査が必要だね。もっとウィンの様子を観察してみることにしよう。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 大賢者になることで手に入れたこの力、特殊補正『ステータス』。

 ステータスがミサキの能力値を、あのリッチとは比較にならない経歴の凄さを教えてくれる。


「ウィン! 今日は、ウィンの大好物! 『毒蛸』の足を使った素揚げだよ! 沢山作ったからお腹一杯になるまで食べてね!」


「う……うれしいなー、山盛りだなー……」


 棒読みになっちゃうのは、ミサキのステータスを見て震えたからだ。


 ミサキは、大賢者に進化した俺を魔王軍にお持ち帰りしたいらしい。

 ステータスが示す悩みの箇所には、それだけじゃなくて、他にも俺の洗脳が解けかかっているんじゃないかとか、恐ろしい文面が並んでいる。

 ていうか、モンスターとしての経歴も『魔王サタン』ときた。

 人間としての職業も、『神官』と『大神官』の間に『暗殺者アサシン』が含まれていたりと、物騒なことこの上ない。


 さて、これから――俺の最愛の奴隷ミサキとどうやって付き合っていこうか。

 まずは、今日のご褒美として俺が3番の冒険者ギルドと交渉した結果。


 明日からミサキは奴隷じゃなくて、このホーエルン魔法学園の一年生になる。



 ウィンフィールドの奴隷、魔王サタンミサキが、学園生徒になる。

 ゲームの中でもあり得なかった選択肢。

 それをミサキに伝えたら――彼女はどんな顔をするだろうか。



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