第24話 英雄の一発
ミサキの顔が徐々に赤くなっていく。
「……で、デェト?」
「そう。デート。俺があいつらに勝ったら、の話だけど」
「……で、デエトって、好きな人同士がすることって聞いたけど」
「二日前に気づいた。俺、ミサキのことが好きだって」
「……ちょっと待って。つ、ついていけないから……ウィンが、僕のこと好き?」
びっくりしたのか、ミサキは俺たちがつないでいた手を離す。
けれどミサキは反射的にハルバートを吹っ飛ばして、ドレイネズミ・ボス一体をぶっ飛ばす。飛ばされたゲスイネズミ・ボスは「ぐぇぇぅぇぇやられたデヂュウウウウウぇ」って変な声を出して、吹っ飛んでいった。
「ウィン、待って……お願いだから…え、僕の魔法がウィンに可笑しな効果を与えた?いや、でも僕の魔法は完璧なはずだ……近くにいる人を好きになるなんて効果は効いたことがない……」
ミサキは恋とは無縁の女の子だ。
ゲームの中でも自分の人生を犠牲にして魔王軍に尽くすのが、ミサキ・ドラゴンっていう女の子だ。
そんな彼女がデェト、デェトって呟いて真っ赤になっている。
ていうかミサキは余りに動揺しすぎてて、俺に掛けていた洗脳の魔法っぽいこと口ずさんでいるし。それでいいのか魔王ミサキ。
でもまぁミサキ・ドラゴンは優秀だ。優秀すぎて、魔王軍の中で魔王にまで成り上がっしな。
だけど、恋愛方面はめっきりだめ。
ミサキがゲームの中で聖マリの学園生活に憧れていたのはそういうところもある。
「う、うん。僕の魔法は完璧な筈だ……ウィン! 今のは聞かなかったことにするから、そ、そういう冗談はやめてね!」
いつも元気なミサキが、混乱していた。
「今は、逃げないと! ウィンは大賢者になったけど、まだ進化の恩恵が出ていないんだよ? 後ろにいるあの大きいのが出てきたら、終わりなんだから……ウィンが強くなるまでは僕が守らないと!」
自然な動きでゲスイネズミ・ボスを叩き潰して、もう一度俺の手を掴んだ。
だけど俺はミサキの手を振り払った。
「大丈夫」
ミサキは俺が言った言葉を信じられなかったようだ。
「大丈夫って……どの口がそんなこと言えるのさ!? ウィンじゃあいつらは倒せないよ! 自分がどれだけ危険なこと言ってるか分かってるの!?」
そりゃあ、そうだよな。
ミサキが知る今までの俺じゃ、ゲスイネズミ・ボスは倒せない。
俺のステータスは、これだからだ。
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名前:ウィンフィールド・ピクミン
性別:男
種族:人間(
レベル:1
ジョブ:『
隠れ職業;『
HP:89/91
MP:670/670
攻撃力:55
防御力: 140
俊敏力: 120
魔力:360
知力: 51000
幸運: -10000
発動補正;戦士の特殊補正「
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
何だこのステータス。
ザコすぎて乾いた涙が出てきそうになるけど、仕方がないことだ。
二日前まで俺は常人のレベル31だったんだから。
ウィンフィールド・ピクミンは常人としては異様にレベルが高かったけど、それだけだ。この世界でさらなる強さを望むなら、より上位職業に進化しないといけない。
「ウィン……怖くないの?」
ミサキは、迫ってくるゲスイネズミ・ボスと俺を見比べて言った。
大賢者になったとしても能力上昇以外に特別な恩恵は何も無かったとミサキに伝えているから、ミサキが心配するの無理もない。
それにまあ。
俺が『聖マリ』のプレイヤーだったら、こんな能力値の低さウィンフィールドなんて人間、絶対にマリアの冒険者パーティには入れないもんなぁ。
特に幸運値がダメなのが致命的。
幸運値の低い奴がパーティにいたら迷宮の中でレアアイテムを手に入れることだって難しくなるし、依頼達成の成功率が格段に低くなるのだ。
でも、俺は自分自身の強みを知っている。
俺が迎え撃とうとしているゲスイネズミ・ボスのステータスはこれだけど、不安は感じていなかった。
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名前:堂島・ポチ
性別:男
種族:ゲスイネズミ・ボス
レベル:3
経歴:無
趣味;深夜徘徊
HP:673/731
MP:0/0
攻撃力:1210
防御力:980
俊敏力: 3410
魔力:0
知力: 60
幸運: 11
悩み :弱そうな人間が、戦おうとしているでヂュウ。笑えるでヂュウ。堂島・ポチ様はやられ役じゃないんでヂュウ。ビッグボスのパワハラにもイライラするし、あの人間の男でストレス解消するでヂュウ。ポチ様の必殺前歯をお見舞いしてやるでヂュウ。
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お。悩みが変化している。
なんかニヤニヤしてると思ったら、そういうことか。
「——ヂュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ」
「ウィン、危ない! ネズミのおっきいのが、きてるよ!」
戦士の職業補正は発動中。
今の俺はあれぐらいのモンスターで恐れることはない。
ゲスイネズミ・ボスの突進をひらりを躱して、爪の攻撃だって前歯だって当たらない。
侍の職業補正『動体視力』も発動中。
敵の攻撃は見切っている。
「
そしてすれ違い様に、俺は迫っていたゲスイネズミ・ボスを蹴り飛ばした。
「…………え?」
ミサキが虫の鳴くような小さな声を出す。
これが、駆除人の特殊補正『
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