【モンスター視点】向かう先には、リッチがいる

「い、いやああああ!! どうして! どうして、ホーエルンに野良モンスターがいるのよ!」


 モンスター個体名、リッチがホーエルン魔法学園に潜入したのは、数か月前のことだ。

 人間社会の重要拠点、将来の英雄候補を生み出す拠点として、ホーエルン魔法学園の存在は知っていた。

 幾度も魔王らによる侵攻を受けていながら、そのたび撃退を繰り返す。

 ホーエルン魔法学園は人間世界の中でも、屈指の軍事力を誇る学園都市である。


「う……あ……や、やめて……」


 現在、ホーエルン魔法学園にはリッチが従う魔王のさらに格上、大魔王配下の手練れが潜入していることをリッチは知っていた。

 ——学園都市崩壊に向けて、大魔王の配下が情報収集に勤しんでいる。


 そのために手出し無用と各魔王には通達が下りていたが、リッチはあえて上司である魔王からの通告を遮り、ホーエルンに侵入を果たしていた。

 全ては新鮮で質の高い、最高級の生命を吸収するため。


「ふふふ——生命吸収エナジードレイン


 潜入に成功したリッチは、潜むに徹していた。

 人間が住んでいない住居を探し出し、結界を構築し、人が興味を持たないよう細心の注意を払っていた。


 そしてリッチはその日を狙っていた。

 ホーエルン魔法学園に入学する新入生らが行動を開始するその日を。


 何千人にも及ぶ新入生、警戒心は薄く、来るべき学園生活に向けて胸を躍らせている。リッチは周到に計画を練り、職業『魔法使い』の女子生徒一人の身柄確保に成功していた。


「……ふふふ」


 生命吸収エナジードレインを開始し、リッチは極楽の気持ちを味わっていた。

 やはり魔法使い系統の生命は最上だ。幾ら魔王の頼みとはいえ、これは止められない。リッチは少女の身体を抱きしめ、しかし、そのタイミングだった。

 ぎいぃぃぃぃぃ――と、リッチが隠れ潜む家の扉が開く音が聞こえた。


____________________

第11話 英雄への序章プロローグに続きます。

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