第4話 ステータスの力を獲得しました

「ら、落第!? そんなことってあるの! 人間の世界って厳しいね!」


 ……そうか。

 ミサキは大魔王の娘として育てられた、人間世界には馴染みがない。人間社会の知識も常識も、ミサキには足りていない。


 てか、今。ミサキの素がでたよな。

 人間の世界が厳しいってなんだよ。お前も人間だろ。大魔王に育てられたって特殊な過去があるけど。


 まあ、こんな感じでミサキは何も知らないのだ。

 だから、俺は改めて丁寧に説明した。


 このホーエルン魔法学園の学生は二年生になると、主体的に成長することが求められる。

 一年生の時は自分がなりたい職業に必要な条件を満たすための授業を好きに選択出来る。言わば一年生の間は、準備期間なのだ。

 

 二年生になると、実戦に移る。

 学園は広大だ。冒険者ギルドの支部が学園内にあるし、管理された迷宮もある。迷宮の中でモンスターを倒すことで、金を集め、生きるための力を身に着ける。

 優秀な学生は二年生でも、学園の外で仕事を取ってくることもある。聖女マリアのように、最優秀の学生は一年生から先輩パーティに誘われて迷宮に潜っているが。 


 二年生になってパーティも組めず、学園に貢献出来ない落ちこぼれは自動的に落第となり、学園から追い出される。この学園は各国から寄付を募り運営されている。一年生の頃は、大国の王族や小国の平民だって、同じ授業を受けられるが、二年生になると学園への貢献度によって明確に区別されるようになるのだ。


「ええええ! ウィン、そんなの、ダメだよ! このままぼっち生活を続けていたら退学になっちゃうじゃん! 何で今まで教えてくれなかったの!」


 あああ、それはミサキ。

 お前が俺を洗脳して、碌な思考も出来ないよう操っていたからじゃねえか!

 

 小動物のように目を瞬かせるミサキに向かって、大声でそう伝えたかったが、我慢我慢。


「だから、まずいんだよ! 明日は、二年生向けに迷宮攻略についての大規模説明会が開かれて、その後は学園内の冒険者ギルドで冒険者登録をしないといけない。そこからは二年生全体で巨大な交流会が開かれる。今のままだったら、スケルトンの俺はパーティ探しなんて絶望的だ!」


 ウィンフィールド・ピクミンは主人公であるマリアから敵視されていることや奴隷を所有していることもあって最底辺。

 死ぬかもしれない迷宮で、俺に命を預けられる。そう考えて一緒にパーティを組んでくれる人は、この学園には一人も存在しない!

 聖マリの世界では、ウィンは誰ともパーティを組めず、一人ぼっち。


 俺の学園評価を客観的に考えると当たり前だけど、それじゃあ困るんだよ!

 

 俺がこの先どうしようか、考え込んでいる時だった。

 ミサキの、声がした。


「——ウィンッ! 危ない! モンスターが!」


 俺のボロ小屋へ、モンスターが押し入ってくる。

 成人男性の胸ぐらいの身長に、ボロ布を腰から巻いて、棍棒を持っている。

 身体の色は緑色で、口からは牙を生やし、頭には二本の小さな角が生えていた。

 何の特徴もない、小鬼ゴブリンの姿。


 俺の隠れ職業、『疫病神ゴースト』の効果が発生したんだろう。

 自分の家にモンスターが侵入してくるなんて滅多に起きることではないが、絶対に無いとは言い切れない。 

 俺は扉を背にしているから、反応はミサキの方が早かった。

 でも、俺の心は驚くほど、落ち着いていた。

 小鬼は、学園内の迷宮から逃げ出したんだろう。俺の家に逃げ込んでくるってのは最悪だけど、それが『疫病神ゴースト』の力だ。


 致命的な、攻撃 インペトゥス・モルティフェラ


 振り向きざまに、右足で一撃。小鬼を扉の外へ叩き返す。

 何か考えるよりも、身体が勝手に動く。

 よかった、まだ俺の身体はなまっていない。

 でも、一部始終を見ていたミサキの顔が驚愕に染まる。


「ど、どうして……ウィンが、肉体強化の魔法を使えるの……! おかしい、ウィンは、ただの常人ノーマル。魔法が使えるはずが、ないよ!」

 

 ミサキは、彼女が持つ隠れ職業『千里眼』の力で、俺の隠れ職業『疫病神ゴースト』を知っている。

 魔法。中級以上の職業ジョブにならないと使えない不思議な力。

 俺の職業は『常人ノーマル』、魔法は使えない。そんなの子供だって知っている常識だ。


 だけど、ミサキに洗脳される前は、俺は知っていた。

 ウィンフィールド・ピクミンに転生した俺は『疫病神ゴースト」の力を理解するように努めた。どうして、俺にこんな隠れ職業があるのか、知ろうとした。


「ミサキ。色々言ったけどさ、結論は一つだ」


 それがゲームの中のウィンフィールド・ピクミンと、転生した俺の大きな違いだ。


「俺は、大賢者になって、自分の人生をやり直したいんだ!」


 俺の硬い決意を見て、ミサキは――。


 

 そして、その夜。

 大魔王の娘にして、俺の最愛の奴隷。

 職業『大神官プリースト』ミサキ・ドラゴンの力によって、俺は大賢者へと進化を果たした。


 俺は自分が大賢者に進化出来るって確信があったけど、ミサキは俺が死ぬことなく大賢者に進化出来たことに驚きすぎて、白目を向いて気絶してしまった。

 気絶したミサキに毛布を掛けて、ベッドに寝かせる。

 そのあどけない寝顔を見ながら、明日から始まる聖マリの生活に思いをはせる。

 そして、いつの間にか眠ってしまった俺の耳に誰かの声がぼんやりと聞こえた。


【ウィンフィールド・ピクミン。跳躍進化の実施成功、常人レベル31から大賢者レベル0へ移行。職業、大賢者の特殊補正『ステータス』を付与します。おめでとうございます! 世界に1名だけの大賢者が誕生しました。世界に存在する賢者99名の進化先を凍結。そして、これは私の独断で決めます。特殊補正『隠蔽ステルス』を付与させて下さい——がんばって】

 

 ああ。これが、噂の、進化時に聞こえる、女神様の声って奴か―――。

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