第3話 このまま底辺生活をしていれば、落第確定

「ウィン……だ、大賢者は特別なんだ! 常人ノーマルのウィンが……今、大賢者に挑戦なんて不可能だよ! 試練を幾つも達成して、少しずつ肉体を強化して……可能性をあげないと死んじゃうかもしれないんだよ!」

 

 この聖マリの世界には、特殊なルールが存在する。 

 それが職業ジョブという概念である。


 俺たちに備わっている力や魔力、知能といった個人能力。

 職業ジョブを選択し、進化することで個人能力を大幅に向上させ、職業に由来する特別な力を、聖マリの世界では得ることが出来るのだ。

 聖マリのプレーヤー視点ではステータスで個人能力を確認出来るけど、ウィンフィールド・ピクミンというキャラに転生した今では、どう足掻いても自分のステータスを確認することは不可能だった。


 聖マリの世界では、俺たちは上位の職業ジョブに就くことで、能力を挙げて、成長を目指すのだ。


 誰もが、常人ノーマルという基本職業ジョブからスタートし、無限にも思える職業ジョブを自らの考えで選択していく。

 例えば、剣士という職業ジョブ。剣士からでも、派生する職業ジョブは騎士・重騎士・軽騎士・聖騎士・二刀剣士等、実に幅広い進化が可能であることが聖マリ世界の特徴だ。

 だけど、戦闘職に就くには厳しい修行が必要であり、人間の大半は村人、街人なんかの職業ジョブに納まることが一般的。


 しかし、俺がいるこのホーエルン魔法学園。

 この場所は世界でも有望な若者が集まる魔法学園であり、世界でも珍しい上位の職業ジョブへの進化修行に特化した学園なのである。


「ね、ねえ落ちついてウィン。もっと安全に大賢者になる道はある……」


「俺はこれまで、大賢者になるために、底辺の生活を送ってきた。でも、ミサキ。俺はスケルトンと呼ばれるために、このホーエルン魔法学園に留学してきたわけじゃない」


「それは……そうかもしれないけど……で、でも、大賢者だよ! これからも頑張る価値はあるはずじゃないか!」


 ミサキの言う通り、大賢者は最強の一つとされる職業だ。 

 難解な条件を幾つも達成し、正しく順序を追って進化しないといけない。

 大賢者へは、通常、賢者からの進化が一般的だと、そう信じられている。


 でも、確証は無い。

 それは大賢者の職業ジョブを得た人間が余りにも少ないからだ。大賢者を目指した人間は、歴史上も数えたらキリがない。けれど、俺が知る限りは賢者から大賢者を目指した奴らは、全員が賢者止まりだ。


 大魔王一派のミサキからすれば、大賢者となった俺を敵側へ寝返らせたいから、ただの常人ノーマルである俺に、危険な進化をさせたくないだろう。

 失敗すればミサキはこれまでの努力、全てを失う。

 折角この人間世界の大拠点とも言えるホーエルン魔法学園に侵入出来たのに、奴隷所有者の俺を失ったら、ミサキもこの学園を自動的に追い出されてしまう。

 ミサキも必死だ。 


 でも、俺は早急に大賢者にならねばならない理由があった。


「明日から新学期が始まる。つまり、俺は二年生になるわけだ」


「う、うん……そうだね……」


「ミサキは知らなかったのかもしれないけど、学園の規則では、二年生からギルドでの冒険者登録が必須になる」


 季節は、春。

 俺がホーエルン魔法学園に入学して、ちょうど一年が経過した。

 今日は俺たち新二年生にとっては新学期最初の日。


「あああ! つまりだなミサキ! 今の俺ってぼっちだから、誰ともパーティが組めないんだよ! このまま底辺生活を送っていたら――!


 今頃、新一年生達は大講堂での長いオリエンテーションを終えて、男子寮や女子寮に戻ってくる頃合いだろう。


 明日から、数千人の新入生達が学園生活を始める。同じ授業を受けるかもしれないし、野外演習なんかで同じグループになるかもしれない。


「——俺は自動的にホーエルン魔法学園を、落第してしまうんだよッ!」


 今日を境に、聖マリのゲーム世界は一変するんだ。

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