第19話

 夕飯の準備ができ、ダイニングテーブルにリサちゃんが呼ばれます。しぶしぶ自分の椅子に座ったのですが、やはりまともにパパの顔を見ることができませんでした。

 目の前には大好きな揚げたてのエビフライが置かれています。しかしなかなか手を出そうとしません。

「ごめんなさい」

 リサちゃんは手のひらで涙をふきながらあやまりました。

「いいよ、リサがわるいわけじゃない。そんなに自分を責めなくていいから。さあリサの好きなエビフライだよ。早く食べなさい」

 ママじゃなくてパパのほうが声をかけます。パパの優しい言葉に少しほっとしてコクリとうなずいたリサちゃんでしたが、一向に箸を動かそうとしません。悲しみで胸がいっぱいになって食べることができないのです。

 横のお兄ちゃんはもう2本食べ終わっています。

 そのとき、ふたたび悲しみが込み上げてきました、どうしようもないくらいに……。

「リサ、もう泣くなよ。それにしても知らん顔して行ってしまった車に腹が立つよね、ママ」

 お兄ちゃんは、リサちゃんが責任を感じているのを見かねて、轢き逃げをした車のほうに気を向けようとしたのです。

「ほんと、ひどいひとよね」

「なに? その車はポピを轢いておいてそのまま逃げてしまったのか」

 パパはまだ相手のことを聞かされてなかったのです。

「そうなの。リサがいうには、スピードを出して左折すると、そのまま走り去ってしまったらしいの。だから、どこの誰が運転してたのかまったくわからない状態」

「うーん」

 パパは茶碗と箸を手にしたまま、思案顔でうめくような声を出します。

「警察にいったらなんとかなるかしら?」

「どうかなあ。まあ、取り上げてくれないことはないと思うが……。でも被害者が人間ならすぐにでも動くだろうけど、犬となるとそこんとこはどうなんだろうな」

「だめかしら」

「いや、ダメもとでとりあえず被害届けだけでも出したほうがいいんじゃないか」

「じゃあ、明日警察に行って相談してみるわ」

 リサちゃんは、パパとママの話を聞いていていくらか気持が落ち着いたのか、ようやくエビフライをひと口食べました。

 お風呂から出てベッドに入ったのですが、ポピのことを考えるとなかなか眠ることができません。いまごろポピはどうしてるのだろう? 足が痛くて涙を流しているんじゃないだろうか? お家に帰りたくて泣いてるんじゃないだろうか? 悲しい想いが次から次へと浮かんで来るのです。

(あたしがあのときちゃんとリードを持っていればこんなことにはならなかった……)

 リサちゃんは夜おそくまで入院しているポピのことを考えるのでした。

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