第16話

 パニックになってどうしたらいいのかわからないリサちゃんは、すぐにポピを抱きかかえると、おばちゃんと一緒に急いで家に戻りかけます。その間ポピは轢かれた左の後ろ足が痛いのか、じっとしていることができず、ずっと暴れっぱなしでした。

 やっとのことで玄関にたどり着くと、ポピを抱いたままのヒジでインターホンのボタンを押します。するとしばらくしてママの声が聞こえて来ました。親切なおばちゃんは、家の前までリサちゃんを送り届けると、いま来た道を帰って行ってしまいました。

「ママ、ママ、ポピがたいへんなの」

 家の前で大きな声で叫んでいます。

 ママは、玄関のドアを開けて、なにごとがあったのかというような顔でのぞくと、リサちゃんの抱えているポピの姿を見て、信じられないといった顔になりました。

「どうしたの?」

「ポピが急に走り出して、そいで向こうから来た車に跳ねられちゃったの」

 リサちゃんの顔は涙でぐしゃぐしゃになっています。

「この様子だと、早く病院につれてかないといけないわ」

 ママは冷静になろうとつとめますが、気持が動揺して声が上ずっています。


 病院の待合にはすでに2、3人のひとがペットの診察を待っていましたが、先に電話を入れておいたので、すぐに診てもらえることになりました。

 ポピは暴れる元気もなくなり、診察台の上でぐったりとしています。その周りをお医者さんと看護婦さんが取り囲んで神妙な顔で話をしています。

 やがてポピはお医者さんに抱えられてレントゲン室に入って行きました。その間リサちゃんとママは検査が終わるまで廊下で待つことになります。

 まるで自分のことのようにリサちゃんは待合室のソファーに座ることなく、ずっと立ったまま赤いふちどりのハンカチで顔を押さえて泣きつづけています。ポピの悲しそうな顔を思い出すと涙が止まらないのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る