第12話
目の前のお皿にメインのローストチキンがのっていて、中央にはポテトサラダのボールと、エビフライの盛られたお皿が置かれてあります。どれもリサちゃんの大好物ばかりでした。だってきょうはリサちゃんの誕生日なんですから。
オレンジジュースの入ったグラスで「誕生日おめでとう」と言い合って乾杯をすませると、ママ以外の3人は、ものもいわずにママのこしらえた料理を口にはこびます。
お兄ちゃんなんかは、左手に骨のついたチキンを、口の回りをアブラでべとべとにしながらかぶりついています。食べている間だけはマキちゃんの存在を忘れているみたいでした。
そして食後はお待ちかねのキャンドル消しです。部屋の照明が消され、ママがキッチンから持って来たのは、回りをイチゴで飾られ、まんなかにはHappy Birthdayとチョコレートで書かれたケーキで、8本のローソクにはすでにあかりがついていました。
リサちゃんが胸にいっぱいにためこんだ息を一気に吹き出すと、8個のあかりがきれいに消されました。
イチゴケーキを切り分けたあと、みんなでいろんな話をして楽しい時間を過ごしました。だけど、なぜかお兄ちゃんだけはあまり話をしませんでした。
リサちゃんの誕生日を境にして、ポピはパパがこしらえたテラスのすぐ横に置かれた犬小屋に住むことになりました。新しい生活のはじまりです。
ところが、1週間もしないうちに、台風9号が上陸するというニュースがテレビでひんぱんに流れはじめました。
段々と台風が接近し、雨や風が強くなりはじめるとリサちゃんは心配でいてもたってもいられません。ポピは真っ暗ななかでおびえているにちがいありません。耳をすますと、恐怖におののいたポピが、犬小屋からクゥーンクゥーンと悲しそうな声で鳴いているのが聞こえてきます。
「パパ、ポピがかわいそうだから、台風が過ぎるまでお家に入れたらだめ?」
大きな息をするように聞こえる風の音は、リサちゃんでも怖かったのですから、当然ポピだって同じ気持だったに違いないと思ったのです。
「そうだな、段々雨が激しくなるみたいだから、リサのいうとおりポピを家に入れたほうがよさそうだ」
パパはテラスへのガラス戸を開けると、激しく降る雨のなかをずぶ濡れになりながら犬小屋に向かいました。
家につれて来られたポピは、思ったとおり恐怖と冷たさでいまにも床にお尻がつきそうなくらい腰を落としてブルブルと体を震わせています。
急いでドライヤーで体を乾かし、暖かいミルクを飲ませると、ようやくいつものポピに戻りました。
ポピはその晩だけリサちゃんのベッドで一緒に眠りました。
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