第11話 台風の夜
9月10日はリサちゃんの誕生日です。
パパは仕事で夕飯に間に合いませんが、そのかわりにマキちゃんを食事に誘いました。
マキちゃんがリサちゃんの家でご飯を食べるのはこれがはじめてです。
夕方になってマキちゃんがプレゼントを持ってやって来ました。マキちゃんは玄関のドアを開けるなり、リサちゃんにプレゼントを渡しました。かわいい犬の絵がたくさんついたピンクのペンケースでした。
うれしくてたまらないリサちゃんは、もらったばかりのプレゼントを急いでママに見せに行くと、ママも手提げ袋に入ったプレゼントを手渡してくれました。リサちゃんはうれしそうに袋の中身を急いで開けて見ます。なかから出て来たものを見て、リサちゃんはこぼれんばかりの笑顔を見せました。
プレゼントは、ポピの首輪とリードだったのです。それはリサちゃんにとってなによりの贈り物でした。さっそくケージから出してポピの首につけてみると、赤い首輪はとてもポピに似合いました。
ポピはリビングに入ったマキちゃんを見つけると、首輪をつけたまま頭を下げて思い切り尻尾を振りながらあいさつに行きます。マキちゃんはしゃがんでポピの耳の後ろを優しくなでたり、体を指先でくすぐるようにしてかわいがります。ポピは横になり、お腹を見せてよろこびを表現しました。
これまで数えきれないくらい道で何度も会っているのですが、マキちゃんがこれほどポピをかわいがるのは、正直なところはじめてなのです。なぜかというと、道で会ったときに必ずマキちゃんはポピをなでてくれるのです。それを知っているポピもマキちゃんのことが大好きでした。ところが、マキちゃんがポピのそばに近よると、ロンがじゃまをするのです。きっとマキちゃんをとられると思ったロンのヤキモチにちがいありません。
「ポピはね、もう少ししたら庭で飼うことになってるんだけど、なんかちょっとさみしい気がするの、リサ」
リサちゃんは、もう2度とあえないくらい悲しそうな顔になって話します。
「だって遠くに行くわけじゃなくて、すぐそこにいるんでしょ?」
と、2つ上のマキちゃんはお姉ちゃんになったような言い方をします。
「そうなんだけどね」
「まあ、なんでもそうだけど、気になるのは最初だけ。すぐになれるし、ほんといったら家のなかで飼うよりは外の空気にふれたほうが犬にとってはいいと思うよ」
マキちゃんは自分の都合だけではなく、ちゃんと犬のことを考えてあげているようでした。
「そうだね、そうだよね。ポピもきっとそのほうがいいに違いないよね」
リサちゃんはちょっと安心した顔になっていいます。
「ところで、きょうリサちゃんのお兄ちゃんはまだ学校?」
家に来てからずっと姿を見せててなかったので、マキちゃんは気になって聞いてみました。
「そんなことないはず。だってさっきまでポピと遊んでたよ。きっと部屋でマンガの本でも読んでるんだわ。呼んで来ようか?」
リサちゃんはソファーから立ち上がりました。
「ううん、べつにいい」
マキちゃんは、じゃれるポピを相手しながらいいました。
夕食の用意が整って、お兄ちゃんも部屋から出て来ました。ダイニングテーブルの椅子にママとお兄ちゃんが並んで座り、リサちゃんとマキちゃんが隣りどうしに座って、誕生日の食事がはじまりました。
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