第8話
今年はお正月に帰らなかったのでよけいに会いたかったのです。
バアバの家に3日間いる間も、リサちゃんはお兄ちゃんと一緒にポピを散歩につれて行きました。
ジイジはみかんを作っているので、ものすごく広いみかん畑があります。ポピを遊ばせるには充分すぎるほどでした。
最初の日、ポピは見なれない場所だったせいか、なにかを確かめるみたいに地面に鼻先をくっつけるようにして慎重に歩いていました。
ところが次の日になると、まるできのうのことが嘘のように、自分の庭のような気になってずんずん進みます。思いもよらないポピのちからに、リサちゃんは家を出てからずっと腕を伸ばしたままです。どっちが散歩させてるのかわからないくらいでした。
夏のみかん畑はアブラゼミのコンサートの真っ最中です。そんななかを歩いていたとき、突然ポピがなにかを見つけました。ポピの後ろを歩いているリサちゃんとお兄ちゃんにはそれがなんなのかまったくわかりませんでした。
近づいてみると、ポピが興味をしめしたのは、ばたばたと地面に羽根を打ちつけているアブラゼミだったのです。
ポピはまるで遊び道具のように口にくわえて振り回します。
「ポピ、だめ!」
異変に気づいたお兄ちゃんがポピにかけより、ポピの口からむりやり羽根をバタつかせるアブラゼミを取り上げました。
ポピはなにがあったのかという顔で首をひねりながらお兄ちゃん顔をじっと見つめています。そしてなにもなかったようにふたたび歩きはじめるのでした。
夕ご飯を食べたあと、ジイジが犬を飼っていたときのことを話してくれました。
昔みかん畑は柵も囲いもなかったために、みかん泥棒がひんぱんに現れたそうです。そこでジイジが番犬がわりに『クロ』という名前の犬を飼ったのです。でも仔犬から育てたわけではないので、なかなかなつかなくて、なつくまでにずいぶんと時間がかかったと聞かされました。
そんなクロでしたが、怪しい人影を見ると激しく吠え立ててジイジに知らせたといいます。おかげでみかん畑に泥棒が来なくなったということです。
何年かしてクロが死んでしまい、クロをかわいがっていたジイジはその悲しさでもう2度と生き物を飼わないと決め、そのかわりに畑の回りにフェンスをこしらえたのです。
リサちゃんは、ジイジの話を聞いて生き物の死ということにはじめて気がつきました。
命があるものすべてにいつかそういうときが来ることはわかっていましたが、ポピのことがかわいくてかわいくてしかたなかったリサちゃんは、ポピが死んだときのことを考えると、涙が出そうなくらい悲しくなりました。
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