第三十話 最果ての地 その二


「弓矢よ! ゴーレム、防いで!」


 ルナが叫んだ。


 ゴーレムはオリバたちの前に密集する。


 大きな矢が何本も飛んでくるが、ゴーレムの体に弾かれる。


 この陣形のままオリバたちは前に進む。


 敵の姿がハッキリ見えた!


 敵は五人。

 真ん中に小さい魔法使い、その両脇に漆黒の鎧をまとった巨大なスケルトンが二体ずつ立っている。


 オリバたちが近づくとスケルトンたちは弓矢を捨て、鞘から剣を引き抜く。


「ネクロマンサーとその操り人形ね! 巨人族の屍を利用してる。合計五体、私がやるっ!!」


 ルナは地面に飛びおりた。


「森魔法! ツリー・ハンド!!」


 ルナが魔法を唱えると、地面から無数の木が生えてくる。


 木々はネクロマンサーとスケルトンに巻き付き、彼らの動きを妨げる。

 その隙にゴーレムがスケルトンの胸にパンチを打ち込む。


 スケルトンは低いうめき声をあげて黒い霧となって消えていく。


「残すはネクロマンサーね!! やれ、ゴーレム!!」


 ルナが命令すると、四体のゴーレムが一斉にネクロマンサーに飛び掛かる。


 ゴーレムの拳がネクロマンサーに触れる直前、ネクロマンサーが消えた。


 ネクロマンサーはルナの目の前に現れる。


「小娘! このワシを誰だと思っておる! 死を操りし者・ネクロマンサーだぞ! 貴様なぞが倒せるわけなかろう。これがワシの本当の力じゃ! S級魔法! デスキル!!」


 ネクロマンサーの前に黒い魔法陣が浮かびあがる。

 魔法陣から漆黒のエネルギーがルナに向かって放たれる。


 ルナは杖を前に向ける。

 杖の前に緑色の魔法陣が浮かび上がる。


「召喚魔法! 悪食あくじきワーム!!」


 魔法陣から巨大なワームが飛び出す。

 ドラゴンの顔と蛇の体をもち、全身が固い鱗で覆われている。


 悪食ワームは大きく口を開く。

 ネクロマンサーの魔法をその口で受け止めた。


 ネクロマンサーは魔法を唱え続ける。


 悪食ワームは魔法を飲み込みながら、どんどん前に進む。


 ネクロマンサーの前まで来た。

 悪食ワームは魔法陣に噛みつき、ネクロマンサーの魔法を破った。


「バ、バカな……。ワシの魔法を食らいおった……。だが、ワシはアンデッドじゃ! 殺すことなどできんぞ!!」


「どうかしら!? あんたは死を操りし者。こういう魔法に弱いんじゃないの? S級魔法! 生命の息吹いぶき!!」


 ルナは杖を地面に着ける。


 ネクロマンサーの足元が光り、そこから色とりどりの花が咲き始める。

 花はネクロマンサーの足にも広がってくる。


「な、なに! 動けない……。くそ……ワシの力が吸い取られていく……」


 ネクロマンサーは苦しそうに体を震わせる。

 体の半分が花で覆い尽くされている。


「生きものの死をもてあそんできたことを後悔しなさい! これがあなたの最期よ!!」


 ルナは魔法を強める。


「こんな小娘にワシがぁぁぁああ!!」


 ネクロマンサーの全身が花で覆われる。


 ネクロマンサーは黒い霧となって消えていった。


「へへーん! どんなもんよ、オリバ! 私にかかればS級モンスターのネクロマンサーだってお茶の子さいさいよっ!!」


 ルナは勝ち誇った顔でオリバのほうを向く。


「ルナって実は凄いんだな……。ただの口が悪いエルフだと思ってた……」


 オリバは正直だ。


「はぁ~!? 当たり前でしょ! 私は歴代最高の魔力を持つエルフよ! エルフの王族の血だって引いてるのよ。でもまぁ、ずっと昔に王国は滅んじゃったけどね」


「王族の血を引いてるとは思えない口の悪さだけどな」


「うるさいわね!! これは個性よ! 私とこうやって話せるだけでも光栄に思いなさい!」


「いや、思わん」


「思いなさい!! 『ああ、神様! 今日もルナ様とお話できるなんて夢みたいです』って四六時中、神に感謝してなさい!!」


「あっそ。ところで、ここに敵がいたってことはこのあたりになにかあるってことだよな?」


 オリバは話題を変える。


「ぐぬぬ……。勝手に話題を変えるんじゃないわよっ! ……でもまぁ、その通りよ。このあたりに何かあるに違いないわ」


「荒野が続いてるだけだけどな……」


 ふたりはあたりを見渡すが何も見当たらない。


「きっと隠蔽いんぺい魔法で隠されてるんだわ。ここはこのルナ様の出番ね! さっきからまったく役に立ってない誰かさんとの違いを見せてやるわよ! まぁ、誰とは言わないけどねぇ?」


 ルナは勝ち誇った顔でニヤニヤしながらオリバをみる。


 ルナは地面に杖をつき目を閉じる。


「探知魔法! アンヴェイル!!」


 杖の周りの地面が緑色に光り始める。


 緑色の光は杖を中心に同心円状にどんどん広がっていく。


 あたり一面が緑色の光で覆い尽くされた。


「見つけたわ!」


 ルナは目を開け、魔法を解除した。


 ルナは歩き始める。


 オリバもルナのあとを追う。


「ここよ! 隠蔽いんぺい魔法で隠されてるけど、ここから強い魔力を感じるわ!」


 ルナは何もない地面を指さす。


「本当か? 俺には何にも見えないけど……」


「本当よ!! あんたはもっと私の力を信じなさいっ! 見てなさい! 解除魔法! マジックキャンセル!!」


 ルナの両手から緑色の光が放たれ、地面を照らす。


 …………。


 何も起きない。


 地面が緑色の光で照らされているだけだ。


「ほらっ! やっぱりなんにもないじゃ……」


 オリバがルナをからかったとき――


 氷が割れるような乾いた音が辺り一面に響き渡る。


 照らされている大地から音は聞こえる。


 音量がどんどん大きくなる。


「どりゃぁぁあ!! さっさと壊れろぉぉぉお!!」


 ルナはさらに魔法の出力を上げる。


 突如、何もない大地に大きなガラスのようなものが浮かび上がる。

 ところどころヒビが入っている。


 ヒビはどんどん広がっていく。


 大きな乾いた音とともにガラスのようなものは粉々に砕け、消え去った。


 何もなかったところに大きな穴が開いている。


 オリバは中を覗き込む。


 穴の中は真っ黒でトロトロした液体で満たされている。


「ネクロマンサーはここを守っていたのね。ここから強力で邪悪な魔力が溢れ出ている。魔王城に通じる道で間違いないわ」


 ルナは自分とオリバに魔法をかける。


「水の中でも呼吸ができる魔法よ。魔法攻撃も防げるわ。ここから先は危険ね……。妖精たちとはここでお別れよ。妖精さんたちありがとね!」


 ルナは巨大アリとゴーレムに妖精たちを故郷まで送り届けるよう命じた。


 妖精たちは最後の挨拶とばかりにオリバたちの周りを楽しそうにクルクルと飛び回り、故郷へ帰っていった。


 ルナはオリバに手を差し伸べる。


「わ、私の手を握りなさい! あんたは魔法が使えないから、この穴の中で迷ったら最期よ。必要だからやってるだけで、変なふうに勘違いしないでよねっ!」


 ルナは顔を赤らめそっぽを向く。


 オリバはルナの手を握る。


 小さくて薄くて柔らかい。


 そんな手のひらだった。


「それじゃ、『せーのっ!』でこの穴に飛び込むわよっ!」


 ルナが掛け声をかける。


 ふたりは手をつないだまま、穴の中に飛び込んだ。



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