悪霊葬者

白楼 遵

第1話 始まり

六年前、祖父じいちゃんが死んだ。


一見、大往生のような、安らかな死に顔だった。


でも、から霊が見えるようになった俺には、祖父じいちゃんの表情が見えた。


なんだか、未練が残っているような。


そんな表情だった。



「あぁ・・・今日、中間か・・・」

いつも通りの憂鬱な朝。俺 ―― 有原ありはら 竜也たつや ―― は、高校2年生。

親の反対を押し切り、なんとか希望の県外の高校に進学。今は一人暮らし中。

体育はできるけど、勉強はそこそこ。自分から売りはしなが、売られた喧嘩は買う主義。そんな、どこにでもいるような、普通の高校生。

いや、一つ、違う点があった。

霊が見えるのだ。

声はまだぼんやりとしか聞こえない。

今日もまた、学校までの十分の間に何人かの霊を見た。

近所の無くなったじいさん、2年間ずっと見ている、軍服を着た青年。そして、つい3日前の交通事故で亡くなった7才くらいの男の子。

供えられているお菓子を食べて満面の笑顔。

見ていて少し胸が痛くなるので、足早のその場を立ち去る。

今日も、変わらない一日が始まる。



「はい、じゃあ後ろから集めてこい!・・そこ!ペンを置け!」

怒鳴りつけるような、物理教師の声。現国のテストが終わり、今日はもう下校できる。

「挨拶は省略するから、荷物まとめておけ」

そう言い残して、教室を去る。

「どうだったよ!」

「もうあの文章は読み切れねえ!」

クラスが喧噪に包まれる。それでも俺は静かなまま。まあ友達いないしな。

「おい、静かにしろ!」

3組担任、芝野先生の一喝。ほんとこの人には抗えないな。

「じゃあ帰るけど、お前ら、ここ最近はになる学生が続出してるらしい。もし一緒に帰ってるやつが倒れたりしたら速やかに胸骨圧迫やAEDを使えよ!じゃあ委員長、号令!」

「起立、礼」




「はぁ、明日、古文か・・・」

一番の苦手教科。多分今回の最強試験ボス。ちゃんと勉強そうび暗記レベルあげもしているとはいえ、やはり不安だ。

「昼飯食ったら、家帰って勉強するか・・・」

面倒臭いなあ・・・。そんな事を考えながら、近くのラーメン屋へ直行。

「へい、いらっしゃい!!!!」

「・・・醤油、一つ」

「はいよ!」

頼んで、届くまでの間も少しだが勉強する。

「えーと、日本三大随筆が、清少納言の枕草子、兼好法師の徒然草、あと、方丈記は・・・、誰だっけ・・・」

あと一人。最初の文字は「か」だった気が・・・!

「はい!醤油、お待ち!」

気づけば、頼んでいたラーメンが届いた。

一度考えるのをやめ、ラーメンを食べる。

ストレート麺は心地よく喉を通り、チャーシューはしっとり。

何よりスープが、魚ダシと醤油が旨味のハーモニーを奏でる。

しばし夢中で食べ、5分程度で食べきる。

「お会計、780円になります!!!!」

「あ、やべえ1000円しか持ってない・・・」

小銭持ってないと困る事ってあるんだな・・・

「220円と、レシートになります!」

今、小銭になっても・・・




帰り道。何だか少し寒気がする。

「あれ・・・今日は5月なんだけど。風邪でも引いたか?」

当たりは冷たい風が吹き、人通りも少ない。

きっと昼休みも終わったんだろう。

そう自分に言い聞かせて、家へ急ぐ。

「よぉ」

一瞬、底冷えするような声が、聞こえた。

「っ!!・・誰だ!」

周りに人はいない。つまり、霊か!?

「ここだよ」

目の前に立つ、不気味な霊。どこかで見たことがある顔だ。

「ああ、お前は知らないのか。・・・強盗殺人犯、死刑の男、角田かくた 平治へいじって言えば、わかるかな・・?」

角田 平治。そういえば、8年前に、死刑執行されたはず・・・!

そして気づく。霊じゃん、こいつ。

「知ってるか?俺はお前のとこのジジィを、憑き殺したんだ」

「な・・・!」

「逃げてたら、旅行に来てたお前のジジィに通報されてな・・・!それから俺は誓ったんだ。あいつを、絶対に呪ってやる、ってな。そして、化けて出てこのナイフであいつの魂にブスッ!さ。あっけなく死んだよ。面白いくらいにな!!」

なんだか、とてもやりきれない。ムシャクシャしてるのに、どこにもやり場がない。

「それからだな、魂殺しにはまったのは!病人とかほど、希望を与えてから、そんなものは無いって知った時の顔のまま殺すのが、一番の快感でよぉ!!!!」

「もういい、喋るな」

こいつには、人の心という物が無いのか。

いや無いな。だって、人を殺してるんだから。

噴出した怒りが、俺から溢れ出る。

祖父じいちゃん、殺したんだって・・・?」

近くに、圧力がかかったように、重苦しい空気が立ちこめる。

「さらに、他の人も殺したって・・・?」

平治が射竦められる。

「じゃあ、やられても文句無いよな」

刹那の移動。気づけば竜也は平治の前にいて、次の瞬間、平治は空を舞う。

「お前は、俺が地獄におくる」



おくる、だぁ!?・・・へっ、お前なんて、このナイフで一発だろ」

「じゃあやってみろよ。刺せるものならな」

「言われなくても、な!」

竜也の胸にナイフが突き立てられる。

「随分あっけねえな!」

「そうか?」

よく見れば、ナイフは刺さっていない。

そして、ナイフは砕けた。

「な!?・・・バカな!?」

「バカはお前だ」

胸を殴り、吹っ飛んだところへ蹴りを入れる。

そして、頭をつかむ。

「お前、何人殺した?」

「ひっ・・・ご、五人・・・」

「そうか・・・なら、五人分の恨みを背負いながら、死ね」

つかんだ頭を思い切り握り、潰す。

平治の体は霧散して消滅する。

祖父じいちゃん、見たか・・・?俺、やったぜ・・・」

彼の何気ない敵討ち。これが、彼の人生を大きく変える。





  

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悪霊葬者 白楼 遵 @11963232

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