人間社会・著者の独創性、双方の将来性が感じられる起点作

興味深い内容で読み易く、非常に示唆的でもある良短編でした。私はこのような人間社会は非常に自然科学的であると思っています。例えば、ある同一のエネルギー状態を持つ無数の分子を系に野放しにすると、分子は周囲の分子と衝突して、互いにエネルギーをやり取りします。そして全分子が、全エネルギー状態を経験するほどの十分な長時間を経過したとします。このとき、無数の分子について、分子本人が持つエネルギーごとの人数を数えた場合、高エネルギーを持った少数の勝ち組と、低エネルギーを持った大多数の負け組の分布が形成されています。私はこれについて学んだとき、なんと人間社会的であろうかと感動しました。ここで、この格差状態について、分子は不可逆ですが、人間社会が可逆であるところが人間が人間たる所以です。しかし、この格差社会を可逆的に解消する方法は、かつての日本がそうであったように、戦争をすること、そして敗戦することが典型例であるように私は感じています。この方法は膨大な不幸を伴い、私が貧困者となった場合でも、戦火の渦中に飲まれてまで解消されたいとは思いません。こういった格差社会の解消事例について、歴史の勉強をしっかりとされた積雲さんの手によるSF作品を、いつの日か読んでみたいと思わされました。積雲さんの持続的な将来性・可能性を感じさせる一作でした。小説は著者の内面に触れてこそ価値ある中で、内面性を前面に出した小説に、このような読みやすい形で出会えて幸せです。次の作品にも期待しています。

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SF短編集