ニノ一 証明

久しぶり腰に帯刀する。それだけでも少し辺りが暗くなるのを覚える、そしてこの感覚に妙に満足している自分がいる、蝕月さんは何用か相手に聞きただしていて、辺りには人だかりができはじめていた、しかしほとんどの人は僕たちを面白おかしく見ていて、近寄ってこようとする者は誰一人としていなかった。

「それはりゃあ、言えないな」

向けている切っ先がカタカタと震えて慌てているのが丸分かりだ、そこに突っ伏している三人組の方がよっぽど肝が座っているぞ、正体がつかめない恐怖に何故か悪寒が走る。不意にその通りに強い風が吹き土埃と一緒に店ののれんを巻き上げる、辺りが一瞬静かになったその瞬間相手の一人が間も無く斬りかかってた、が太刀筋はぐちゃぐちゃで避けるには造作もなく、僕は項を軽くはたき、その男は気を失った。

「刀を抜く勇気がないのなら抜かないほうが身のためだぞ」

言い切る前に蝕月さんは刀を鞘にしまい、目の前にいた男たちは腰を抜かしながら、気絶した男を担ぎ上げゆっくり人ごみの中に溶け込んでいった。僕は一匹の鷹が飛んでいる空を見て、強い憤りを溶かす。そして戦いが終わったことを知らせるように人があたりを埋め尽くす、

「我呪、行くぞ」

人を分け入って、近くの茶屋に入り刀を消し縁台に腰掛ける、今から神酒さんと合流するのはリスクが高すぎるので僕達は団子を食べて休む事にした。蝕月さんも僕も団子を食べるのは初めてで、最初不安そうな表情をしていた蝕月さんも団子を一口食べると少し緊張が和らいでいるのが見て取れた。

「美味しいかったですね」

ほとんど食べ終わってお茶をすすっている蝕月さんは静かに湯飲みを縁台に置いて、あたりを神酒さんのように入念に観察している、すると路地裏から一匹の猫が蝕月さんの足にすり寄ってきた、まだら模様で少し痩せてはいるがとても活発な猫で蝕月さんは店員にばれないようにその子猫に最後の団子をあげていた。

うまいかと蝕月さんは、問いかけるように猫の顎下を撫でる、そのたびに気持ちよさそうな顔をして柔らかく鳴いていているのを見ていると窓のこびりついた汚れを温めて拭き取るみたいにじんわり心が温まった。

「またな」

団子を食べ終わった猫は再び来た道を戻り、泣きながら足林の中に消えた、それを見届けてから僕達はお勘定を済ましその店を出た。


***感想よろしくお願いします!***


辺りを見回すと、そこは人気のない薄暗い路地だった。

「風さん大丈夫ですか?」

風さんは何も言わずに手で合図を送ってその場に座り込んでしまった、私もじわじわと来ていた脱力感に捕まってしまいその場に座り込んでしまう、残った雷の力を少しずつ使って自分の体力を回復しながら背負ってきた子供の手当てを始める。

 切られた片手はすでに壊死し始めて、私の服の裾を破り応急処置を施したが手首から下は今切断しないと更に大変なことになると思い、電力を片手に集中し刀を抜き手首を切ろうと振りかざした時だった、その子はもう一方の手で私の刀の柄を掴み寸前で止めたのだ。

「切らなくても大丈夫ですよ」

先ほどの男性のような口調とは違い女の子のような声色で話しながらゆっくり起き上がった、その子供はもう一方の手で傷を覆い、目を閉じると壊死し始めていたはずの手が元の色を取り戻し腫れが引き始め、傷口から新たな手が生えだしていた、それはまるで卵から孵る雛のようにとても自然的に見える。

「気持ち悪いですか?」

その子は下を向いて何か虚しそうに聞いてきた、まるで草原に雨雲から降る雨みたいに虚しそうに。「いえとっても神秘的だと思いますよ」

それを聞いたその子は天気が段々晴れてゆくみたいに次第に嬉しそうな表情に

変わっていった、私もその風になびく花のように嬉しくて笑っちゃう。

「傷を見せてもらえませんか?」

立ち上がったその子の体からは傷が消えていて、私は徐に体の打撲と擦り傷を見せるとその部分をその子は嬉しそうに両手で抑えてゆっくりと目をつぶった、すると覆われた傷はだんだんと柔らかい熱を帯びて痛みとすり替わるように癒えていく、

「紫狐雷轟って言います、ありがとうございます。」

「私は、皎 軟創(こう ゆり)」

彼女はそう言って立ち上がると風さんの近くまで走って、優しく傷を覆い真剣な表情で治療を始めた、私は彼女に風さんを任せて二人を探しに行くことにした、「この鈴を渡しておくので困ったら鳴らしてくださいね」と私は自分の柄から神酒さんから貰った鈴を解いて彼女に渡した、彼女はそれを白い服の裾に入れて頷いた。それを確認した私は壁を伝い屋根の上に登った。

 屋根の上に登ると空はありえないほど遠く感じた、でも手を伸ばせば空に触っているんだ。「えっと、ここから大通りまで約10尺か」空から水平線の方向に向きなおして、足に力を込める“縮地 一刻”そう心で唱えると紫色の電気が足裏から激しく音を立てて今にも暴れ出しそうな程だった、私は一瞬飛び上がりその瞬間縮地をして、五を数える頃にはもう大通りについていた。ついた瞬間に一瞬を私は伸ばした、体の感覚を研ぎ澄ませ雷の力を使い体の反応を人外の域に到達させた、「いましたね」かなり奥によく見る傘を被った人と高身長の二人組。ガヤガヤと盛り上がる中で彼らを見つけるのは空を飛んでいる鴉を探すのより簡単だった。

「蝕月さん、我呪さん上まで来てください!」

二人は声を私の聞くと振り返ったが、蝕月さんは気づけてないらしく我呪さんが蝕月さんの肩を叩いて屋根の上まで飛んで来てくれた。私はやっと立ち止まり道にいる人が見えないくらいの所で止まり、二人と合流した。

「紫狐さん神酒達の所へ連れていてくれ」

私は会話をするまでもなく二人を帯刀して、一刻でもとの場所に戻った。

「あいつのことは大事にしてやってくれ」

屋根を降りて風さんたちと合流した時には風さんはすでに“彼”と話していて、私たちに気づくと二人は立ち上がり私たちを出迎えてくれた。

「裁智 夜寄(たちばな やよい)だ、さっきは助かった」

私の手を握るその手は先ほどとなにも違わなかった、再びあたりには重たい空気が流れ始める。蝕月さんは神酒さんの刀を帯刀して身だしなみを少し整えて再び私たちの話に参加した。「俺を殴っていたのとお前らを狙っている奴らは、裏で繋がっている」彼はそう言うと上着を脱いで背中に書き残した、言葉をよみはじめる、

「頭に刺があるのが“鬼”」

それを聞くと風さんと我呪さんの顔が曇る、それに比べて蝕月さんは真剣に話を聞いて表情は一切変えていなかった。なんかみんな嘘付きみたい。

「んで、私を殴っていたのは妖刀の集まりだ、あいつらは基本嫌われている、それの腹いせを大々的にやろうって感じだな」

夜寄さんが着ている服はどうやら紙製らしく、筆で服に文字を書いて、紙のようにして使っているらしい、反発していた磁石がひっくり返ったように疑問を理解できた。

「ちなみに俺の力は“破壊”だ、でも軟創との約束で危険な時にしか使わないようにしてる」

そう言うと試しに側にある木の桶に触れた、その桶は一瞬にして消えてしまい、どうしてそこに目を向けているのかもわからなくなってしまった。

 

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