第15話 妖刀の強さ

外に出ると、暖かい光が私たちを迎え入れてくれた、宿の影から出ると足の先から陽の光が体を包み込んで体の中まで温めてくれる、

「私について来てください」

私は久しぶりにこの街の土臭い匂いでふと昔の記憶を思い出した、今と比べると少しだけ町の建物の位置が変わっているが、以前と変わっていない所も沢山あった、そんな中で私達は今日、ある“刀鍛冶師”に会いに行く。

「沢山の人がいますね!」紫狐さんは見たことのない生き物を見ているみたいにワクワクした表情であたりを見回していた、そしてその目線の先には龍のように翼と尻尾が生えていて目つきが鋭い人や、下半身が魚のようになっていて中に浮いている人、本当に紫狐殿には始めて見る生き物かもしれない

「そうですね、私たちの仲間もいるみたいです」

我呪殿がそう言う以前から蝕月殿は少し緊張していて、それをなぐさめるように紫狐さんが話しかけている、この国には妖刀もいる、だがそのほとんどが一人で周りから理解されていない。

「面白い国ですね」

神酒さんはそう言いながら辺りを注意深く観察している、彼女は我呪殿と戦ってからまだ一日も経ってない、なのに以前よりさらに元気を増していて少しほっとしている、まるで向日葵のようだなそう思いながら神酒殿を見ているとこちらの視線を感じて微笑んでくれた、私も微笑み返して再び前を向く、すると突然、私の身体を撫でるような生ぬるい向かい風がふいて、ふと懐かしい匂いと共に苦い昔の思い出を運んできた

「私は強くなれただろうか?」

無意識に拳を強く握りしめていた事に気付いた私は、心の中の暴風を小さな布切れで押しとどめるみたいに優しく自分の鞘を撫でる、今の私には大事な仲間がいる、一緒に歩幅を合わせて歩きたいと思える友人がいる、今度は失わないように全力で戦ってみせる、この向かい風に負けないように。

「黙ってろ!!」

半尺先の路地から図太い男性の声が聞こえる、しかしその前を取りすぎる人は目線を少し向けて再び道を歩き出す人ばかりで、誰も助けようとはしていなかった、まるで何もなかったかのように、私たちはその怒りと罪悪感で確認するまもなくその路地に駆け込んだ。


「、、ったくこいつ使えないですね」

私たちが駆け込む頃には既にほとんど終わっていて、そこにはビクともしない白い服を着た小さな子供を蹴り飛ばしている三人組の男がいるだけだった、

「何をしているんですか?」

その時の神酒殿からは何も出ていなかった、暖かくもなく冷たくもない何かを彼女は発していたまるでこの世のものではないなにか、そして彼女が抜いた刀はいつもの色をしてはいなかった

「どこからかきた旅人か、ここら辺にいる奴は何も見ようとしないからな」

三人組は刀を抜き切っ先を私たちに向ける、その顔には奇妙なくらい恐怖がなくて私は少し驚いてしまったが刀を抜いた、そしてそれは神酒殿も同じで着実に近づいている、男たちは神酒殿を脅すまでもなく横たわっている子の首を切り落とそうと切っ先を振り下ろした、がその瞬間

「ありがとよ」

一瞬誰か分からなかったが状況がその答えを教えてくれた、なんと男の刀を倒れていた子供が素手で握っていたのだ、男もこの状況には驚いて慌てて刀を引き抜きその子の手は綺麗に両断されて血が溢れ出していた、男は恐怖よりも呆れた声色で気持ち悪いなと言い、その子を突き刺そうと再び切っ先を突き立てた、しかしその背後にはもう既に神酒殿がいて、彼女は小さく何かを口ずさみ男の心臓を突き刺した、その刃先からは当たり前のように大量の血が滴り落ちている、


「旋風」

そう心で唱えて相手を吹き飛ばし、神酒殿を助けようと駆け寄り彼女の肩に触れるがその肌からは何故か命を感じることができない、私の中の焦りはさらに増してゆく、私は何度も神酒殿を呼ぶ

「神酒殿!神酒殿!」

彼女はもうすでに息のない肉の塊を何度も突き刺しながら一人で何かを“つぶやいて”いた、私は無理にでもそれを止めようとするが彼女の力はいつもの彼女よりはるかに強くそして乱暴だった、紫狐殿も相手を倒し近づいてきた

「蝕月殿、神酒殿は今どんな気持ちなのだ!」

腕を私と紫狐殿で抑えても体の関節をうまく使い何度も抜け出て突き刺している、私たちの気持ちを理解したかのように天気が荒れ始め、落雷や暴風が町の平穏をまるで紙を手で引きちぎるように荒らしていった。

「神酒は自分の気持ちを制御できていない!」

かなり近くにいる蝕月殿が声を荒げても囁き声にしか聞こえないくらい風が強く吹き始めていた、私はすまないと言って神酒殿の項を叩いた、だが私よりも早く掴んでいる手から抜け出し私の攻撃を防いだ

「少し待て」

そこには手が半分に切れた子供が立っていた、痛みを感じていないのかと疑問に思うくらいに平然と落ちた手の残骸を拾って立っていた、そしてその子から発せられる気配はさっきの子供とは別人の気配だった

「俺の名前は“裁智夜寄(たちばなやよい)“さっきは助けてくれてありがとな」

そう言うとその子は私の持っている手に近づき握手のようにその手を握る、私は先ほどからさらに強くなる神酒殿の力に押し負けそうになっていた

「はいもう終わりだ」

そう言うと神酒殿からでる何かわからない気配は消えその場で刀になってしまった、私は急いで生存確認をするがちゃんと生きている、私も紫狐殿も急に疲れが出てきて、その場に座り込んでしまった

「助かった、忝い」

裁智殿に言うと彼は“こいつに何か食わせてやってくれ”と明るく言いその場に座り込んで気を失ってしまった、蝕月殿と我呪殿はこの路地に人が入らないように警戒してくれていたので被害は最小限にとどまった

「これはまずいですね、、、」

我呪殿は急に自分の刀を出して戦闘態勢に入っていた、私は起き上がり大通りをよく見る、すると我呪殿よりもはるかに大きい角の生えた生き物がいた、手に大太刀を握り、身体中からは殺気が溢れ出している“鬼“だ

「早く見つけないと殺される急げっ!」

鬼は何故か常に“恐怖“に怯えていて、見えない何かに操られているみたいだった、私は少しでも情報を集めようとあたりを見回す、考えがまとまらず神酒殿と子供を抱え私は立ち上がる、紫狐殿に目配せして私たちは路地位の奥へ走り出した。

「時間を稼ぐのを手伝ってくれ、我呪」

「わかりました」

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