第10話 独り言

心刃を使えるようになって初めて二人きりになった

「私ね、あなたに会えてよかった」

足元に咲く花に集まる一匹の蜂を見て言い出した、花畑は一面花だらけで踏場がなかったのでゆっくり掻き分けながら歩いた

「同感だ」

妖刀は普通のけ者にされて、死ぬまで一人だと阿修羅さんが言っていた、それとさっきの話で俺は勇気を貰った

「でもね、本当は不安」

神酒は素直だ

「お前が変わるから俺も変わる」

俺たちは一つだ、俺が変わる時に神酒も変わる

「うん、二人で変わり続けよう」

風が時々吹いて植物を靡かせる、先ほど花の蜜を集めていた蜂は、次から次へと花を変えて蜜を集めていた

「私もっと強くなりたい」

俺も強くなりたいもっと強く、自分で戦えるように守りたい人を守れるように

「さっきの蜘蛛だね」

先程の蜘蛛がお花畑で自分の子供と思われる蜘蛛と虫を捕まえていた

「殺さなくてよかった」

あの虫も生きるために精一杯だ、でもそれは俺たちもそう、自分のことを疎かにしてまで守ることではない、この世は常に変わり続けている何が正しくて正しくないか、変わる速さを予測し更新し続けなくてはならない

「俺はそうは思わない」

俺は仲間を守るならあの蜘蛛だって殺せる、それが“守ること”だから

「蝕月そろそろ戻ろう」

花畑はどんな者も見ることができる、そこにたどり着こうと進み続けるなら

「わかった」




    * * * * * 

蝕月殿と神酒殿が花畑に入ってから私達は再びお茶を飲んでいた、「あの子は必ず強くなりますよ」

風が吹く

「私達も」

紫狐さんがこちらを見て微笑んだ

「そうだな」

紫狐はお茶を飲み終わり私に湯飲みを返してくれた

「ごちそうさまです」

また風が吹く

「お粗末様です」

湯飲みを受け取り景色に再び目をやる、なんて美しい景色、空がいつもより広く見えて、今にも私たちを飲み込んでしまいそうだった、風は常に吹き続け熱を冷ましてゆく

「綺麗ですね景色」

紫狐さんも見惚れている、花畑に入る頃の目の輝きでは無く、落ち着いて鋭くなっていた

「ああそうだな」

私達はその後、神酒殿達が来るまで景色を見続けた


「行きましょう」

花畑を出て砂利の道に戻り進んだ、見たこともない虫や植物を見た、藻虫なのに羽が生えていたり地面を泳ぐアメンボがいたり、まだ旅の序盤なのに、知らないことが沢山ある

「すごいですね自然って」

私たちも自然の一つなのだろうか

「そうだな」

景色をまじまじと見ながら風さんが言っていた、虫とか植物とか人が進化させたものもあるだろう、だがほとんど自然に適応する為に成長した命ばかり、私たちも見習わなきゃ

「神酒構えろ」

心の中で蝕月が少し怯えながら言ってきた

「風さん、紫狐さん構えてください」

二人に目と念で合図した、すると奥から気配が阿修羅さんに似た人が歩いてきた、

「お前達か、花畑に入ったのは」

距離はかなり離れているがかなり腕が立つことははっきりわかった、身長は180くらいで、手にはかなり長い太刀を持っていた、見た目は黒い布を体に羽織、顔が見えないくらい傘を深くかぶっていた、

「すいません、あまりにも綺麗で入ってしまいました」

更に強く圧をかけてくる、一触即発な空気が漂っていたが私達は冷静に和解する方法と戦って勝てる可能性を考えていた

「素直に謝ったから許してはやろう、だが決まりでな」

私は三人に頼んで刀になってもらっていつでも戦える準備をした、空は曇り、雨が降ってくる、いかづちが轟き、風が空気を切り裂き音を立てている

「お前、強いな」

相手は刀を構えて低く腰を落とした、なぜこの距離であんなに深く構える、この距離であんなに深く構えるなんて見たことがない、私はとっさに前に詰めたそして私も自分なりの太刀の構え方をした、姿勢を低くして鞘を支え刀に強力な電気を流した、相手の圧は変わらず強く、天気はますます悪くなってきた、雨が地面に落ちた瞬間目の前から消えた、まるで火が灯っている暗い部屋の火を全て消したみたいだった、早すぎる、どこに行ったかわからない

「あなたは何故あんなところにいるの?」

答えは斬撃として帰ってきた、右斜めの草むらから地面をえぐり草木を薙ぎ倒し私に向かって飛んで来た、妖刀は攻撃した相手の“心“を壊せると蝕月が言っていたなるべく避けなくては、私は攻撃を飛び越え、念で場所を割り出し、そこに向かって紫狐さんに雷を出してもらった、そして私は地面に着地した

「雷か効いたぞ」

相手はそう言いながら私に突撃してきた、だが武器を出してはいなくて素手で殴りかかってきた

「私が妖刀なのはもう知っているだろう」

そう言って私は拳を両手で防いだ、手の骨は無事だろうが打撲がひどい、刀をまともに握れるかわからない

「風、紫狐、一緒に戦ってください」

二人に人に戻ってもらって私は蝕月を身につけて構えた、だが刀を振れるのは数えるくらいだ

「蝕月、私あの人を知りたい」

蝕月からは遅れて返事が来た、怖がっているような、好奇心で震えているような、でも私は、私達は変わると決めた、

「妖刀は刀を握ればすぐにわかる、その刀の歴史も感情も全て流れこむ」

本音を言うと怖い、けどそれを乗り越えた先に大きな経験値があることは決まっている、わかっているなら手に入れる他ない

「俺があいつを縛るその瞬間に刀に触れる、それが俺にできることだ」

妖刀って本当は私達と関わりたいんじゃないかと思う、人の輪から拒絶されて関わることを諦めているんじゃないかそう思うんだ、

「神酒殿、決まったか?」

風さんと紫狐さんはあの人と互角に戦っている、だがやはり強い、相手の技も間合いも洗練されていて隙がない

「神酒さん私達は蝕月さんから話を聞いています」

そ言うと私の鞘から蝕月が出てきて人の姿になり、刀を握りながら相手に向かって走り出した、

「手荒いが許してくれ」

紫狐が相手の大きな太刀を受けて風さんが羽交い締めにした、その隙に蝕月が二歩まで詰め寄り刀を引き抜いて“呪縛“と口ずさみ相手の全身を縛った、私はすでに走り出していて触れようとした、

「なるほど、命を懸けているからな少しの乱暴は許そう」

とおもむろに蝕月の術を自分の術で縛り返し、抜け出した

「そして私にもそれは許される、死ね」

私に向けて太刀を振りかざしてきた、死ぬのは嫌、鋭い音と共に目の前には三人の刀が相手の刀を防いでいた、私は感謝よりも先に相手の刀に手を伸ばした

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