第4話 成果
一ヶ月後.....
あの日から一月と一週間か、私はいつものように散歩のルートを歩いた、最近は生きている物全てに念で意思疎通できるようになっていた、軽々木から木へと飛び移り。
「おはよう!」
大声叫んだ、なるべく遠くに聞こえるように、妲己さんにも聞こえているかな.....。それに応えるかのように森と動物が鳴いて、揺れてくれる。
「今までありがとう!」
そう、今日でこことはお別れだ。
「挨拶は済んだか」
その声とともに強い風で吹き飛ばされそうになる。
「おはようございます、風さん」
雰囲気が違う。
「おはよう」
刀を見るとなんだか形が変わっていて腰骨の後ろに刀があり、かなり短くなっている、そして刃の幅が広くなっていて、柄の先は緑色の紐に結ばれた鈴が付いていた。
「昔より綺麗になりましたね」
昔って言えるほど付き合っていないとは私には思えなかった。
「ありがとう」
その時地面と平行に雷が走った。
「遅れてしまいました!」
周りにはまだ静電気らしきものがパチパチと音を立てていた。
「紫狐さんおはようございます」
この人も変わっている。
「おはようございます神酒さん」
「紫狐殿、“伸びましたな”」
「はい」
彼女の刀は腰に帯刀するのではなく、背に背負っていた。“太刀”だ、かなり身長も伸びている。鞘は白い色に紫色が波打つように塗られている、そして柄の先には紫色の紐に結ばれた鈴をつけている。「低いからできることだってある」
もう私は身長なんて気にしない。
「少しだけなら分けてあげてもいいですよ」
と微笑みながら言っている、大丈夫。
「神酒殿」
「神酒さん」
二人一斉に声を出した。
「何でしょうか」
驚きつつも名前で呼ばれるとやっぱり緊張する。
「私たちもうさん付けはやめませんか」
でも私はさんをつけていたいし。
「戦闘時だけではどうですか?」
「わかりました」
「わかった」
仲間だからこそお互いの主張を理解したいからこそ、妥協し要求する。
「戻りますか」
私たちは今まで来た道を一緒に歩いて帰った。
******
私は何をしているんだ、一番新しい記憶は、心刃を出したところだ、そして私は自我を失った。心からあの子を守りたかったんだ。
刀がぶつかり合う音が聞こえる、だんだんと鮮明にそれは現実味を帯びていく。
「はっ!」
それと同時に強力な攻撃が飛んでくる、私は地面に叩きつけられた、苦しかったでも辛くはなかった、私は全力で戦いを楽しんでいたと気づいた。戦いとは残酷である、だが私は戦いが好きだ、自分の大切な時間を使って日々技を磨いて努力し、その努力した時間を惜しみなく使えるのがこの時間だ、そう思うとなんだか体が軽くなってきて、私は自分を抑えつけることではなく理解した。今までこの気持ちを隠していたのだ、怖くて隠していた、人を傷つけそうで壊しそうで、私は起き上がった。
「えっ」体にはもう獣の痕跡は無かった、そして手に心刃ともう一本手に刀が握られていた、その刀は形を変え、大狐(きつね)に変わった。
「よろしくお願いします」
美しい毛並みは雲よりも白く空よりも透明だった。
「はい」
この子は何だ。
「受け入れてくれましたね」
私の感情?
「すいません時間がかかってしまって」
怖くて進みたくなくても、自分で選んで進む道を選べる、
「いいえ、ここまであなたはたくさんの失敗をしてきましたね」
そうだ、辛かったし苦しかった
「はい、とても辛かったです、でも無駄にはしませんでした」
私は一つそれ以上でもそれ以下でもない
「たくさんの事を学べましたか?」
うん
「はい」
でもやってからわかることも事もある
「分かりました、私の名前は“九尾鬼空”(きゅうびきくう)」
そう言って再び刀に戻って私の手に来てくれる
「いきますよ!」
刀を触ると自分の未来を切り開けるそんな気がする。
******
俺は刀に育てられた、勉強も戦い方の手取り足取りも全て刀に教えてもらった、だから刀達のことは尊敬している、俺はどんな刀にも尊敬することを決めていた。数日後、初めて刀以外の族種にあった、刀達が無意識に避けている場所に気付いて、興味半分で行った。そこには人間がいて俺と同じくらいの人間もその二倍くらいある人間もいた、怖さもあったがとても気になった、まるで空に飛んでいる鳥を橋の上で見ているような気分だった。それから数日後、それは日課になっていた、いつものものように見ようとしたその時だ。
「う、うわー!」
死を感じた人の喉の奥から出る声だった、声に近づくにつれて逃げ出したくなった、でも助けたかった。俺を助けてくれた刀達のように、ついた時にはもう遅くそこは血の海だった、立っていたのはどす黒い血の色をした刀を持っている男一人だった俺は怯えながらも怒った。
「お前は死を知っているのか?」
と男が言いながら近づいてきた、道端には怪我をして骨まで見えている人や、まだ息のある人もいた、冷静にこいつには勝てないと俺は悟った、来た道を全力で戻った、そして林に入り自分の気配を消した。そうすると気配を察して刀達が助けに来てくれた。
「大丈夫か?」
落ち着いて話した、
「それはまずいな、そいつは妖刀だ」
妖刀、それは人の血肉を食って生きる言わば“死神”妖刀をコントロールできると言う噂もあるがあくまで噂、今はそんな事を試している余地は無い。
「俺が行く」
俺はあいつが何をしたいのか知りたかった。
「駄目だ、それなら俺たちも行く」
妖刀の事も勉強していたし戦い方もイメージできる、大丈夫。
「わかった」
それを待っていたかのように“あいつ”が来た、太陽は雲に隠れ、地面の草を枯らし日光を浴びていた花は窓を閉めるように花弁を閉じた、何も言わずみんなは刀に戻り腰に吸い付いてきた、気持ちと記憶が流れ込んでくる、俺を育ててくれた時の悩み、怪我した時に心配してくれた優しさ、心の底からちゃんと考えていたのか......。
「準備はできたか?」
嬉しくて涙が出た。
「うん」
その時だった、隠れていた林が全部切り払われた、“バキッ”素早く防いで一命は取り留めたものの、俺の体には力が入らなかった。
「!」
刀達が何かを叫んだ頃には意識を保つ事で精一杯だった、人の姿に戻り駆け寄ってきてくれているものもいればあいつと戦って怪我を負っているものもいた、俺には何がおきたかなんとなくわかった、心を叩き切られたのだ。息をするだけで涙が出る。
「なんで俺だけ」
家族を守る事ができないなんて、その時頭の中にある考えが浮かんだ
「心刃.....」
そう口ずさんで少し考えた、もしも心刃が出せなかった場合、出た場合の事を「一番マシだ」
そう言って自分の心に手を入れた、ゆっくり抜いていって、俺は絶句した
「俺には力が無いのか」
そこには刀を納める鞘しかなかった。
「くそっ」
力強く地面を叩いた、みんなはもうボロボロになっていて残りは俺だけだった、「お前を守る刀達はもういない」
とあいつが言った、確かにそうだだが俺はすでに心刃の使い方を知っていた
「お前は欲しいものを求めすぎている」
そう口ずさんで俺は鞘にあたかも刀があるかのような姿勢をとった「まさか」あいつは何かを悟って突っ込んでくる、一瞬だった
「“空斬”」
空気を刀にして切ったのだ。
「やはり、お前の刀は空間か」
と言って地面に倒れた。
「なぜ生かす」
あいつはそういった。
「お前は俺と一緒に来てもらう」
もう一つ俺には考えがあった
「嫌だ、俺は一人でしか生きられない」
男は泣きながら言った。
「呪いか?」
妖刀は生まれつき何かしらの呪いがある。
「そうだ、他の生物の命を吸ってしまう」
あいつは歯を食いしばっていた。
「一度お前を握ってもいいか?」
俺はこいつを助けたい。
「耐えてみろ」
そう言いながらあいつは、刀に戻り地面に刺さった。
「我の名前は妖刀“阿修羅(あしゅら)”」
そうか、そんな名前だったんだな。
「俺の名は“閻魔心(えんましん)”」
俺は力強く刀を握った、その瞬間目の前が真っ暗になった、たくさんの感情が濁流のように流れてきた、それはけっして良い感情ではなかった、みんなと一緒にいたいのに呪いのせいで自分から離れて一人で村を襲ったり人を殺したり、その度に俺の心は刀で刺された、だがその刀はとてもしなやかで強かった、俺は全て受け止め、そしてそのまま意識を失った。
目覚めた頃にはみんな元気に生活していた、その中には勿論あいつもいたが、周りから優しくはされていなかった、飯も一切出されていなかった、でもあいつは耐えていた、俺は決めた。
「阿修羅話がある」
そういって場所を変える。
「どうした、心」
これがもう一つの作戦。
「お前を俺の心刃にしたい」
阿修羅は戸惑っていたが嬉しそうでもあった。
「良いのか?」
お前は強い、一本の刀として。
「お前に砕かれたからな」
そういって二人で約束した。その日から少しずつ刀に触れる練習を始めた、飯も二人で手に入れた、時には意識を失うこともあったがだんだんとお互いでコントロールできるようになっていた、そしていつも通り練習を始めようと、いつもの場所に行った時だった「待っていたぞ」そこにはボロボロになった刀だけが落ちていた
「なにがあった!」
お前も分かっていただろ。
「心の仲間に戦いを挑まれた、でも俺は戦わなかった」
この時俺は心底阿修羅が好きになった。
「そうか」
俺はみんなを集めた。
「阿修羅をやったのは誰だ」
誰も出てこなかった。
「そうか誰もやってないか、阿修羅来てくれないか」
「うむ」
俺の手にボロボロになった阿修羅が来た、その時初めてちゃんと触れた、
「今までありがとう俺はここを出てこいつと、旅をする」
少し悲しいがいろんな世界がこの世にある事を俺は知っていた、みんなも戸惑っている。
「ついてきてくれる者はいるか?」
三人だけでてきてくれた。
「僕も世界を見たい」
少し小柄で気弱そうだが、心には強い意志がある男の子だ
「名前はなんだ」
形を変えながら答えた
「“真打滅(しんうちめつ)”です」
どこに刀があるかわからないくらい透明な刀身、柄は白色で少し寒く感じた
「よろしく頼む」
「はい!」
その後ろには礼儀正しく並んでいる女性がいた
「名をなんと言う」
美しい赤色の髪の毛をした女性だった
「“紫炎焔(しえんほむら)”です」
刀に戻るとそこに落ちていた木の葉を燃やし空気を熱し始めた、空気を吸うと喉がカラカラになった、刀身はまるで炎のように深みのある赤から青のグラデーションで、柄は灰色で刀は炎そのものだった。
「よろしく」
阿修羅も少し暑がっていた。
「こちらこそよろしく」
最後は。
「名をなんと申す」
髪は濃い緑色をしいて後ろでまとめている、目は鋭くキリッとしていてまさに”風”そのものだった。
「鎌翠風と申します」
刀に戻った瞬間にその場に風が起きた小さな竜巻が刀を包みその風は地面をえぐった、そして周の根が動き出し大地をえぐり虫はいつもより激しく鳴いていた、それは自然からの威嚇とも解釈できた。
「よろしく」
他の刀とは何か違う、そう思った。
「はい主君」
その日に俺達は里を出た、それからの長い旅に不安と喜びを感じながら。
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