第2話 新しい視点
俺は胸に手を入れて“自分の刀”を取り出した、そして目を閉じて頭の中で家の”空間”を想像し、型抜きみたいに周りを斬る。
「無転」と口ずさみ空間を回転させた、中を見ると少女が大きな皿を持ってお風呂場に駆け込んでいた。後を追うように俺はゆっくり進む、弱った獲物を追い詰めるみたいに。そして窓枠を越えた瞬間に体を包むような悪寒が走った、そこにはシミのようなとても小さな“穴”があった、ミミズがやっと通れるくらいの小さな穴だ。
「ん?」
何か怖い、念には念。一瞬“焔”と唱えて穴を挟むように空間を切った斬撃は線から面に変わり穴を挟んで焼き消した。
お風呂場に入るとそこには先ほどの小さな女は居なくてその変わりに鏡のような大きな皿と美しい女が居た。
「逃げたか」
女は動じる事もなく俺に向かって来る、俺の見間違いでなければその女には”尻尾”が生えているように見えた。
「いざ参る!!」
あの時完全に焼き切ったと思った”黒い穴”をまだ消しきれていなかった事に気づくにはそんなに時間がかからなかった。
彼女は的確に俺の太刀筋に対応してきた、貫通力を上げても、打撃力を上げても的確に弱点を突いてくる、が反撃するほどの余裕は無く、ただただ弱点を狙って破壊してくるだけだった。そもそも彼女は今回の狙いではないのでさっさと終わらせて、あの子供を追うことにしよう。
「ここまでか!」
既に建物は原型をとどめてはいなくて、あたりには砂埃が舞っていた。すると突然、停電したみたいに暗くなって、目の前が真っ暗になる。俺は手に持っていた焔に辺りを照らしてもらい、先ほどの美しい女性を探すが見つかりはしなかった。
「参番!」
その声を聞くと、その刀は俺の手に吸い付いてくる。
そして、壱番と心刃は鞘に収めた。
「あの女はなんだ、とても強くて美しかった、どう思う風?」
見た事のない美しさだった。
「やはりあの時見えた尾は本物だったのだな!」
掴めない空気を掴んだようなそんな感覚がする。
「はい、確証はありませんが」
「では行くか」
「畏まりました」
そう言うと風で丁寧に空間をなぞらせた、空間が割れて砂地が現れ、そして下には大きな川が流れていて、それに沿う様に家屋が連なっている、
「刀の国か、すまないが少女を捕まえる為だ」
風を一度鞘に収めて、先ほどの空間よりさらに大きくイメージした、地面の凹凸、建物の高さ、人の数、深く息を吸い身体中に命一杯空気を貯めて強く吐き出す、そして風でしなやかに空間をなぞる。
「無転」
空間が傾きだしてゆっくりと地面と空が入れ替わり始める。そして奥の方で砂が真二つに割れていた。
「あそこか」
建物から建物へと飛び移り、落ちそうになっていた人を助けながら切られた砂に向かった
******
「怪我はしてないですか?」
あの後、私たちは家屋に隠れ身を潜めていた。
「はい、大丈夫です」
いつ見つかってもおかしくない、今は空が地面だ、この人とはぐれたらどうなるかわからなし、手に持っている鏡も使い方がわからない。
「怖いですよね」
知らぬ間に私は震えていた。でもそれと同時に久しぶりの純粋な感情を感じられて嬉しくもあった。
「あの、お名前聞いても、」
「はっ!私は妲己(だっき)と申します、そしてこの刀は」
そう言うと刀が人の姿に変わった
「私は“紫狐雷轟”(しこんらいごう)と申します」
今日は驚かされる事ばかりだな、あれっ今日っていつだっけ。
「よ、よろしくお願いします」
年齢は妲己さんと変わらないくらいか、蛇のように美しい紫の髪、身長は145㎝くらいで小柄だ。
「むっ!今身長見ました?」
知らず知らずの内に、彼女のおでこより上を見ていた。だが何故か私に恨むような視線は送らない....なるほど。
「ここからはあなたのことをこの子に任せようと思います」
何か手があるのだろうと私は思った
「私なしで心刃(しんば)をだしたら、、」
紫狐さんはそれ以上言わなかった、心の刃?
「ではよろしくお願いします」
さっきの綺麗な顔ではなくて何か覚悟を決めた顔をしていた。
「わかったわ」
私の腕を優しく掴んだ、そう感じる前に私たちは隠れていた家から飛び出した。「妲己さん!」
彼女は自分の胸に手を当てた、すると胸のあたりが波打ち始め、次第に水のようになっていた。そこに手を入れて黒紫色の刀を取り出した。そして彼女は私たちを見て柔らかく笑っていた。彼女は再び正面を向いて、刀を両手で丁寧に握ったと思ったら急に空間が止まって今度は逆回転し始めた。
「“逆転”ね、空間を切ったのよ」
まさかそんな、私が見たのは刀を握っていた妲己さんだ、まだ刃すら見えなかった。
「急ぐわよ」
私たちは、腕がちぎれるくらい早く遠くに逃げた
「逃がすか!」
そう聞こえた瞬間四角い空間に閉じ込められた、
「捕まえた」
女の人がそこに立っていた
「主人、刀刃族捕えました」
小さな四角い面に話かけていた、緑色の衣を纏っていた手には見覚えのある緑の刀が握られていた。
「なるほど」
「何がなるほどよ!ピンチよ、ピンチ」
紫狐さんは空間を切り破ろうと自分の刀で空間の壁を切っていた、
「紫狐さん、空間を切るではなくて、押してください」
紫狐さんは四角い空間の中でさらに空間を切った小さな三角錐が八箇所の角にはまってお互いを線で結び一斉に大きくなり始めたそれに耐えられなくなった空間の面と面の間に隙間が出来た。
「紫狐さんここです!」
紫狐さんは隙間に力一杯空間をねじ込んだ、すると激しい破裂音と共に空間が砕けた。そして立て続けに紫狐さんは長く空間を切った。
「紫狐さんすごいですね!」
「ふふん」
紫狐さんは嬉しそうに笑っていた、次の瞬間“ドンッ”と心に突き刺さるような強い圧を感じた、息をするだけで胸が締め付けられる。それは憎悪で痛みで苦しさだった。
「紫狐さん大丈夫ですか?」
思わず下を向いていた私は少し先にいた紫狐さんの方を見る。
「すいません、戻ります空間は維持しておくので!」
そう言って刀に戻ってしまった、私が刀と鞘を握って空間の中を逃げようとした時にはもう遅かった、空間が弾けたと思ったらさっきの緑の人がぶつかってきて私と緑の人は地面に叩きつけられた、私は口から血を吐き出し、再び息をすることができなかった
「早すぎる、刀技が間に合わない」
辛うじて緑色の人が立ち上がった
「刀刃族のもの大丈夫か?」
声が出せなかった、必死に念じた
「そうかわかった」
通じたの?私は朦朧とする意識の中、紫狐さんにもたれる様に立った、膝がガクガクして今にも死んでしまいそうだった。
「私を使え」
すると緑色の美しい刀が手に来てくれた
「私の名前は鎌翠風(れんろくふう)、其方を守ろう」
握ったと同時に風さんの記憶が入ってきた。
「はい、わかりました」
初めての感覚、紫狐さんではならなかったのに。
「そういえば其方の持っていた“鏡”はどこにやったのだ」
空間が回転した時、空に落としてしまった事を思い出した。
「落としました」
何か大事な物なのかな?
「そうか、ではわたしを使え」
「はい」
自分の頭上を切った、すると空間が裂け中から皿が落ちてきた。
「ありがとうございます」
それと同時に何かに見られた、獣の様な何かに、その時後ろにフードの男が立っていた。私は上手く動かせない脚を懸命に動かして方向転換した、フード男の方に向いた時後ろに妲己さんと思わしき気配がしたからだ。
「動くな!」
風さんの容赦ない信号に私は驚いて腰を抜かしてしまった、その瞬間、フードの男と妲己さんと思われる怪物が斬り合っていた。
「妲己さん?」
八つの尾、顔は狐に近いだろうか
「妲己!」
風さんからもひしひしと伝わってくる恐怖に怯えるしかなかった
「風!その子と一緒に遠くに逃げろ!」
「はい」
私はもう歩けなかった
「風さん私歩けないです」
つま先と踵どちらに向いているのか区別がつかないくらい感覚が無かった。
「なんとむごい」
意識も朦朧としている。
「さっき巻き込まれたみたいです」
紫狐さんがいないと意識を失ってしまう、そう思った。
「名前はなんと申す」
だけど、このまま死にたいとは何故か思えなかった。
「藤意神酒(くらいみき)です」
風さんは人に変身して私を抱きかかえ、紫狐さんを握り自分の刀で空間を裂き、私はそこで糸が途切れるように意識を失った。
「主人ご武運を」
「またな風」
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