夢刀物語

大空 殻捨

第1話 夢刀物語

 いつも通り私は学校から帰って来て家族と食事をし、親に好きでもないことで怒られ、愚痴を言いながら風呂に入り、歯を磨き布団に横になった。そして目を閉じて、、、。

 次に意識があったのは、既視感のある部屋の中で、体は中に浮いている感覚だった、そして部屋を見回してもいないのに手に取るように部屋の図面がわかる、私は”夢の中”だと悟った。その時だ、急に部屋自体がルービーックキューブのように動き出し、すりガラスの窓の外には黒い靄(もや)が見えた、私は訳も分からず棚の上に飾ってあった大きなお皿を手に取ってお風呂場に走る。

「皿なんて何に使うんだろう」

 お風呂場に入る頃には、もうすでにかなり傾いていて床を壁と錯覚する程だった。すると急にお皿が光りだし中から一本の白鮮やかな刀が出てきた、鞘の先には紫の紐に結ばれた鈴が、雀のように小さく音を立てていた。そしてそれを掴み取るように長い髪の女性が出てくる。キッリとした顔のラインに雫のようなクリアな瞳、その目尻には小さなほくろ、長い髪を背後で束ねていて胸は私があこがれるくらい大きく、首には細長い切り傷がある。

 彼女は急に出てきたやいなや「鏡の中に入って!」と私をその刀で斬りかかろうと言わんばかりの形相で、中に浮かんだまま私をかばうよう前に立った。状況をつかみたいのは山々だが、急いで今も光続けているお皿の中に入り、光りに飲み込まれる。背後から刀と刀が激しくぶつかり合う音だけが聞こえた。


        *****


「熱!」

 という刺激で私は目を覚ました、頭をこすりながら立ちあがると、そこは異変の塊で、砂漠のはずなのに大きな川が流れていたり、瓦屋根の風情のある建物が並んでいた。

「なにこれ!」

 とても怖かったが、不思議と体は動く、まるで私が体を動かしていないみたいで、地面に落ちていたお皿を持って坂を下り始めた、街の中を見渡すと私みたいな容姿の人もいたが、みたことのない容姿をした生き物もいる。あれ私って誰だっけ?.....

「足熱いなー」

 とそれをかき消すように素直な痛みが足裏を刺激する。私はそれに気怠さを感じながらも素足で歩き続けた。火傷するかしないかくらい熱い、ふと何か目標地点を見つけたくて熱いのを我慢しながら立ち止まる。視線を少し上げてよく見ると200メートル位先に透明な大きな木が見える。

「まだ醒めないのかな...」

 熱に耐えきれなくなった足が地面に弾き飛ばされるように動き出す。


             *****


「シュン!」

 もうそれは刀の打ち合いと言うよりは斬撃の撃ち合いだった、弾きあった斬撃は建物を切り刻み原型を留めてはいなかった、ボロボロのコートにフードを被っていて顔はよく見えないが、なぜか殺気が感じられない。そのせいか私の五感も危険信号を出している。そして右手にはマグマのように紅い刀、左の手には夜空のような青黒い刀が帯刀されていて、その両方とも私は見たことがないような色をしていた。しかもまだ腰にはかなり多くの刀が帯刀されている。背中には更に大きな大太刀を装備していた。「まずい」私はそう思った、だが相手の斬撃に反応するのが精一杯で逃げる事なんて考えられなかった。

 とうとう建物が完全に壊れきったと思ったらなんとそこは真っ暗な空間だった、あるのは二人と鏡だけ残りは永遠の闇で、私が私と認められる自信が無くなりそうなくらいに真っ暗だった。

「ここまでとは!」

 相手が隙を見せたと思う前に体が動いて、私は鏡の中に吸い込まれていた。


           *****


 私はなんで今ここにいるのだろうと今更ながら思った、あの綺麗な女の人は誰だ、影は何だったんだ。そう思いながら顎に手を当てながら歩く、すると抱えていたお皿が急に揺れ始めた、最初は小さかったが次第に大きくなって行く。まるで地震の前触れみたいだった。

「カタッカタッ」

 私は驚いて砂の上に落としてしまった、そして光とともにさっき助けてくれた綺麗な女性が飛び出てきて。「走って!」と呆気にとられている私の手を掴んで走り出した。名前を聞く間も無く私も走り出した、後ろではそこには誰もいないはずの空中に紫色の斬撃が素早い音とともになぞられていく、その斬撃はみるみるうちに普通の人が入れるドアくらい大きくなって、そこから全身黒色の175センチくらいの男が現れた。

 その男の手には美しい緑色の刃をした刀が握られている。

「綺麗.....、、」

 一生懸命走った、すると空間が傾きだし、川は滝に変わり、私たちは空に投げ出され、空からはあたりまえに大きな砂の塊が落ちてきた綺麗な女の人はもう既に何かを唱えながら刀を強く握っている。

「紫電!」

 それとともに“チンッ”という音と一瞬黄色の雷が見えた、私は空に違和感を感じて思わず上を見上げる、すると砂が形を持ったかのように半分に綺麗に切れている。開いた口を閉じることのできない私の腕を彼女は何も言わず掴んで再び飛び出した。そして私はその時やっと空中にいる事に気づいた。


         ********


 俺は刀を集める事が好きで今まで色んな刀を集めてきた、そして今日も刀を探して道を歩いていた、“カタカタカタ”刀がだんだん強く揺れ始める

「ここか」

 そこは普通の家だった二階建て木造建築、窓は一階に五つ、二階には四つ、今まで見たことのない時間の経ち方の建物になんだか違和感を感じる。

「二階」刀と俺の直感が言っている。

「一番!」

 腰に帯刀していた刀が磁石のように俺の手に吸い付く。軽く地面を蹴って二階の大きな窓から中を覗いた。

「!?」

 刀とはこの子の事か。


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