幽体離脱
夢を見ていた
第1話
部活が終わり、そのまま風呂場へ直行。そういえば明日創作ダンスの発表だったなあ、とタイルの上でステップを踏む。
踏んで。
滑った体は、そのままの体勢を崩さずに見事頭から着地した。鈍い音が狭い風呂場に響き渡った。
「あ、死んだかも」
呟いて、こんなつまらんことで命を投げ出すのは、少々惜しい気がして――死に直面すると生にしがみ付くのと近いか――俺は何とか生きようとした。呼吸を意識した。こんなところで、と色々な感情を搾り出して、生に食らいついた。そっと目を開ける。
「おお……」
しっかり機能してくれた目に、思わず声が漏れる。そして、ふと視線を落とした。すぐに落とすんじゃなかった、と後悔した。
「信じられない」
俺の足が消え、体は宙にぶらぶらと浮いていた。所謂、あれだろ?
「幽体離脱」
何故今。なんとまあ、格好のつかない離脱なんだろう。俺は仕方なく、見苦しい自分の体を引っ張って、タオルを被せて、合掌した。
「――よく考えたら、なんで俺、俺に触れたんだ?」
一人称ってやつは、ややこしい。
幽体離脱
「お兄、大丈夫?恐ろしい音したけど、転んだの」
「お、おうよ」
弟が、ノックもなしに扉から顔を出した。そして、そのまま立ち止まる。機能停止、というところだろうか。
それも仕方ないだろう。現在俺は重力のない体になってしまい、天井の存在によってその場に留まることが出来た。天井がなかったら、俺はヘリウムガスの入った風船のように空へ旅立っていたことになる。忍者のように張りつく俺の下にはもう一人の俺――これはやめよう、ややこしい。俺を心として、もう一人の俺を体、と呼ぼうか――がタオル一枚で身を隠し、横たわっている。ちなみに開眼中。その様子が推理小説に出てくるような死体のように不気味なので、どうにかして目を閉ざそうと足掻いている最中だった。さらにもう一つ付け加えると、離脱しても生きてることには変わらないらしく、目が乾燥して涙がぼろぼろと溢している。
「きもちわる!」
そう言い捨てて逃げようとする弟を必死で呼び止める。感覚がリンクしてて、目が痛いんだよ。涙こそ出ないが。お兄も大変なんです、助けて下さい。
「どうしたらこうなるの? 原因として挙げられるものを簡潔に述べなさい」
手厳しい弟は、扉からこちらを窺っている。だから涙を止めて下さい。ぜひとも女の子に言ってもらいたい台詞を自分で言ってしまった兄のショックを感じろ。
「……一、頭を打ったから。ニ、神様の気まぐれ。三、ステップを踏んだから」
「何してんだよ、お兄……」
ため息混じりに言われた。そんな心底呆れなくても。
「一と三は結果と原因を表します、で正解?」
「さすが学年五位!」
「三十五人中ね」
ようやく警戒を解いてくれた弟は、やっと体の方の目を閉ざしてくれた。お陰でこちらの目の痛みが消えた。いや、人間は凄いな。
次は自分だと、俺は弟に手を伸ばした。壁のラブアタックに耐え切れなくなったからである。すると弟の方は、もの凄く汚いものに触れたかのような、女々しい悲鳴とともに俺の手をはたいた。
「そりゃないよ」
「ごめん、つい」
触れるの?と恐る恐る伸びた手を掴み、天井から離れる。弟の様子からして、あまり重さを感じないようだった。もしや成分がヘリウム、とか冗談ないよな。なんて一人で考え込んでいると、弟がそのまま風呂場を抜け出した。母を呼びながら、とても楽しそうに駆けていく。
「ちょっと、待って! 痛い、いたい!」
弟の手を握りながら進んでいくので、中途半端な高さで飛行することになり、当然扉や天井などが俺へ戦いを挑んでいく。勿論戦う術の無い俺は、ただひたすらに攻撃を受け止めた。無機物になることをこれほど望んだことは無い。
「お兄が幽霊になった!」
そう言えば通り抜けたりしないんだなあ、と思った。これはこれで不便だぞ。
限られた人にしか見えない、浮く、通り抜ける、が幽霊の持つ特性ではないのか。思わずクレームをつけたくなった。話が違うじゃないか。――しかしだ、弟がその限られた人というだけであって、他の家族には見えないだろう。そう思ってリビングの中に入ると、中にいた人間皆、こちらに釘づけになった。
弟が大声で笑い始めた。笑うのに必死になった弟は、俺の存在を消してしまった。手がぱっと離されてしまい、再び天井と仲良しこよしになった。背中がひどく痛かった。
「お兄、なんかひらひらした服着てるんだ! な、可笑しいだろ、凛!」
「学兄ちゃんどうしたの、思春期? 思いつめると空も飛べちゃうんでしょう? いいなあ、凛も飛びたい!」
「あんた……何が起こったの、そんなに悩んでたのかい……。ちょっとお父さんと相談してくる」
ちょっと待て。例外なく皆に見えてるって、いいのか? というか、俺いつの間にこんな白い服を着てるんだ? そもそもこの状況は一体? 果たしてこれはアリス的落としな展開でいくのか?
疑問で頭が一杯になる。その内爆発するのではないだろうか。頭痛がしそうだ。
凛ちゃんが行儀悪く机に上り、俺の手を取りこちらへ引き寄せた。
「学兄ちゃん、男の子にはね、スカートなんて似合わないんだよ? 男の子は、ズボン穿くの。スーツ着るの。女の子は、ドレス着るの。きゃっ」
「きゃっ、じゃないんだよねえ、凛ちゃん」
小学校三年生の大橋凛ちゃんは、年が離れているせいか、甘やかしてしまうのが常だった。弟は甘々だ、とかなりうんざりしている様子だった。
凛ちゃんは片手で鞄からスケッチブックを取り出し、休み時間に描いている絵を見せてくれた。そこには顔のバランスが少し残念な人間が描かれていた。片方は青いスカートかワンピースかを着用しており、隣の子も同じようなものを着ていた。
「これが、凛なの。それで、こっちがお友達の絵」
丁寧に指差し示してくれた。
「分かった、実子ちゃんが書いたんだ」
「正解! さすがお兄! ね、実子ちゃんより、凛のが上手でしょう?」
「うん。ばりばり」
「きゃあ! お兄のばか!」
ばか、というのは凛ちゃんの褒め言葉だ。ありがとう、嬉しい、最高の上を越えていく言葉だと教えてもらった。顔を緩めて頭を掻くと、弟がうげえ、と不味いものを吐き出すような真似をした。別にいいじゃないか、妹が可愛くて何が悪い。
「学、まずここに座りなさい」
急に母の声が聞こえた。それも底冷えした、悪い成績を見た時と同じ恐いろだ。今までの和んだ空気もどこへやら、俺はすっかり緊張していた。これからあの稲妻のような恐ろしいものが落ちてくるとなれば、人間誰しも身構え、域がし辛くなるはずだ。
優しい凛ちゃんは、母に俺以上に恐れを抱いている弟が逃げていても、ちゃんと手を握っていてくれた。お陰で母とぎりぎり視線を同じ高さで合わせることが出来た。体を並行に置くことで、無理なく凛ちゃんと手を繋いでいられた。
「そのひらひらを何とかして来なさい、まず!」
となるとまず、自分の部屋へと戻らなければならなかった。頑張って階段を上ってもらい――凛ちゃんは下の階に自分の部屋がある。理由はここの階段は急で長いからだった――、天使が着てるような真っ白な服を掴み、脱ごうと引っ張って見るが、全く動かない。しばらく格闘する。その姿を見ていて居たたまれなくなったのか、厘ちゃんは尋ねてくれた。
「凛も手伝ってあげようか?」
自室に鍵を掛けて、現在進行形で篭る役立たずの弟の代わりに、可愛い妹が俺の着替えを心配そうに見つめている。俺は必死に片手で着替えてみせようと努力する。
出来るのならば。これから大人の階段をのぼって行く彼女にはあまり見せたくないのだが、天井と磁石の如く触れ合っていると、かなりの自由を奪われてしまう。まだ子どもなのに、可哀想なことをした、と深く反省。同時に弟への憤りを感じる。どうした、そんなに母殿に怒られるのが恐いか。俺は日常茶飯事だぞ。
「お兄、まだあ?」
「……どうしよう、凛」
ん、と首を傾げる可愛らしい姿を見ると、とても将来が楽しみになる。悪い虫がつかないように、お兄、頑張る。――などと考えてる時間ではない。
この白いひらひらした、ドレスのような服がぴっちりと俺の体に張りついて離れないのだ。まるで肌と服が一枚の布になったかのように離れない。幽霊たちは好んで、このいった白装束をしていると思っていたが、事実嫌々身につけていたということなのか、どうなんだ。
この危機的状況に凛は微力ながらも手助けしてくれた。優しい。しかし、一向に脱げない。合体しすぎだろうお前ら。俺はもう両手を下に、彼女の方に投げ出し、思い切り引っ張ってもらったが、肌が突っ張る感覚しか残らない。
しばらくして、一生懸命になりすぎた凛ちゃんが、床に散らばっていた参考書に足をとられ尻もちをついてしまった。綺麗な転び方でよかった、と安心するのもつかの間、あまりの痛さに涙が零れてしまっていた。
「お兄ちゃあん」
「おお、どうしよう、落ち着け、大丈夫だよ凛ちゃん。お兄みたいに頭で着地したらこんな風になってたかもしれないし……。よしよし」
「何泣かしてるの?」
一瞬弟の声かと思った。が、女性にしては少し声が低めの母上のお声だった。凛はすぐさま母の下へと向かった。その際、握った手を解いて駆けて行ったので、定位置に戻る。もう、ここで生活しようかなと思ってしまった。戻った時の衝撃が痛い。
汚い部屋ねえ、掃除しなさい、と小言を呟かれ、それから母と見つめあうこととなる。何が楽しいものか。気分はどん底だ。
「どうしてこうなった」
「こちらが問いたい」
「貴方、やっぱり日頃の行いが悪いと、母さん思うよ」
「なあ、母さん、俺どうしよう。この服脱げないんだけど」
「あのさ私ね、脱いだら駄目な気がしてきたよ。やっぱり神様がこれ、って決めたことに抵抗するの、駄目だと思う」
「いや、母さんの提案だったじゃん」
母はこれ以上何も言わず、父の帰りを待った。母の怒りが収まったのを感じ取った弟は、母が退出した数秒後に俺で遊びに来た。凛ちゃんもその頃にはすっかり復活していた。
下の子に遊ばれること数時間、ようやく父が帰宅した。電話で聞いたのか、俺の姿を見ると
「なるほど」
と一言だけ漏らして、家族会議を始めた。今日の夕食はハンバーグだった。
俺は水の中へ潜るように手足で空気をかき、下へ行ったり来たりを繰り返していた。
下へいってすぐに、持っていた箸で肉を摘んで食べようとして口元に近づけた瞬間、すっと食欲が失せて箸を置いた。置いてすぐにまた腹が減り、口に運んでまた食べたくなくなる。不思議なものだ。もどかしい。
「どうしたんだ、お兄? 食べないの?」
「食べたくても食べられないみたいな」
「へえ、幽霊ってそんなもの?」
「あ、やっぱり俺って死んだことになってる?」
「俺の中では八割死んでる」
「なんて野郎だ」
テーブルの上をケチャップだらけにする父を一瞥して、話を切り出す。
「やっぱり俺、死んだのかな」
「……その可能性は否定出来ない」
「……やっぱり?」
「やり残したこと、あるんじゃないのか? よくある話だし。ほら、父さんたちに話したいこととかは? 彼女に告白してないとかさ。……それにしても、家族全員に姿が確認される幽霊っていうのも、間抜けだよなあ。実は皆して同じ夢を見ているとか」
「父さん、それ気持ちが悪いよ」
「じゃあ、何だろう。――まあ、何にしてもしばらくはこのまま、生活することになるってことになるはずだ」
大橋春くんが笑った。憎たらしい笑顔だこと。
「今日一日限定だったらいいのにね」
「おお、それもあるな。よし、学、まだ望みを捨てるな?」
捨てるなって、まだ捨ててないんですよ。俺は絶対生きてる。
――と思い込むと、死んでたりするわけだ。
人間、難しいなあ。
*
仕方が無いので、学校は欠席することになった。つまりは、お試しキャンペーンではなかったということである。俺としては落胆どころの騒ぎではない。もう二度と風呂で踊るものか、と強く決意した。
まずは、自分のことを知ることが大切だ、と父は言った。ということで、自分が何を触れられるのか、から始めてみることにした。これだと害は少ないし、非常に楽である。
アイドルのポスターが貼られた天井を蹴って、そのまま潜る。そして手始めに文房具を手に取ってみる。――さっそく、問題が発生した。
「信じられない……」
通り抜けた。焦った俺は、辺りにある教科書やら、机や椅子などに手を伸ばしてみる。すると、するりと通り抜けた。文字通り、通って抜けたのだ。
これが本来の幽霊の体。なのに違和感があり過ぎて、動揺してしまう。
ベッドの上に寝かされた俺の体へ近づいてみる。服もきちんと着せてもらった。それに指先が触れた。今度はちゃんと触れた。
「どうして物によって、触れたりするんだ、区別か?」
一体何の為に、わざわざ分けたりしたんだ。神の考えることは分からん。
*
学校が終わったらしい同級生が、尋ねてきた。一人、信頼出来る友人がいたので、春に頼んで家の中へ入れてもらうようにした。
「見えてる?」
友人は驚いた。そして笑い始めた。彼もまた、俺の姿を確認出来る一人だったようだ。
「おめでとう、選ばれし者」
「ありがとう、神様」
「いや、神様とかじゃないんだよな」
「女装? なあ、どうやったらそんなうまいこと浮けるの? 俺もやってみたいんですけど」
「俺は地面を歩きたいんですけど。そうだ、交換しません?」
「拒否権、発動」
やはりか、と項垂れた俺を、まあ落ち込むなと肩を叩いた。そして、一人で感激する。彼は見えるし、触れた。俺はまたもや謎と向き合いかけて、止める。散々考えた後なのだ。普段使わない頭は、とっくの昔に悲鳴を上げ続けている。
「思ったんだけどさ」
友人は俺の話した言葉を丸ごと信じてくれた。こういう奴が、幽霊に好かれるのだろうな、と思った。単純に面白いからっていう理由だけだろうけれど。
片付ける術がないので、汚い部屋にあがってもらう。本来見栄を張る俺は、友人をあがらせる時は、完璧に清掃してから入ってもらう。だから、この部屋を見た友人はかなり驚いていた。珍しいこともあるなあ、と笑っていたが、これが普段の姿だったりするのだ。面白いなあ。
「無機物は触れないんじゃね?」
「……いや、でもタオル触れる。あと天井も」
「……変なの。お前、何かやり残したこととかあるわけ」
「特には。それ、親父にも言われたんだ。考えることは皆一緒だなあ」
とりあえず、遺言を残してみたが、何の効果も現れなかった。
「気持ちが込められてないよ。何だ、お前と友達楽しかった、とか。もうちょっと考えろよ。こっちは真面目だぞ」
「始終楽しそうにしてるやつのどこが真面目だ」
結局大したことも分からず、無駄話をして帰ってもらった。けれど、それだけでも充分気分がよくなったし、全くの無意味というわけではなかった。やはり感謝すべきだったのかな、と思ってみたが、まあ本人に直接は恥ずかしいから口には出ないだろう。自己完結。あと、楽しみな話も聞けた。
「栗原亜美にお前の家、訊かれたから、教えたから。いやあ、その時までに綺麗にしとけよ?」
栗原は俺が今最も気になる女子である。前に一度アドレスを訊かれてから、たまにメールを交換したりしている相手。あちらも俺に気があるから仲良くしてくれてるんじゃないか、と勝手に膨らむ妄想。いや、妄想ではないかもしれない。嫌な奴とは一言も話したくないのが女子の常識的考え方だろう?
「ああ……」
でも栗原と会ったら困る人物が一人いる。
*
「お兄、ただいま」
弟が友達の家から帰ってきた。気だるく返事をしてやると、ノックもなしにドアノブを捻った。文句でも言ってやろうと口を開いたが、思っていたものと違うものを発音してしまった。
「何それ」
「クッション。中に石詰めてみた」
そう言うなり俺の手を引っ張り、自分の高さに合わせて俺の背中にそのクッションを乗せた。すると、急に重力が働き出したかのように、地面にひれ伏すことになる。何だか先程と真逆だ、と思うと、弟は俺の服を引っ張り始めた。
「無理だって。引っ付いてるもん」
ふて腐れたように呟くと、弟はなるほど、と笑って俺の脱ぎ捨ててあった服を着させ始めた。勿論、白い服は脱げないので、上に着せたのだ。
「うわあ、不恰好」
「ほら、早く立って。待ってるよ」
なんと手際の良い弟だろうか。どこからか持って来た紐でクッションを括りつけ、石の数を減らして重さを調節し、手を差し伸べてきた。
「栗原さんだよ。男が女の人待たせてどうするわけ」
「……ありがとう弟よ」
「気持ち悪いよ」
俺は久しぶりの地面を踏みしめて、階段を降りる。初めからこうすればよかったんだ。まだ調節が甘いのか、足が少し浮いてしまうが、靴を履くと何とか二足歩行らしくなった。俺は急いで扉の鍵を開けて、外へ飛び出す。
「栗原さん」
呼びかけてみても、何も反応がなかった。
「えっと、栗原さん?」
完璧なる無視。しかも視線が少しこちらからずれている。どこを見ているんだ、俺はここだぞ。
丁度通りがかった近所の人が、こちらに会釈してきたので、こちらも挨拶し返した。それでも全く動かない栗原さんは、今度は空を仰ぎ始めた。空の色は冬ということもあり、すぐに日が暮れてしまう。もうすぐ月の舞台が出来る頃だろう。俺も一緒になって空を見つめていると、栗原さんはぽつり、と呟いた。
「扉、開けっ放し……」
「あ」
俺がすぐに閉めた瞬間、栗原さんはひどく驚いたような表情を浮かべた。おかしい。まるで俺がここにいないような反応。そして、扉へと近づいた時に気になったことがある。
俺は静かに歩み寄り、栗原さんへと手を伸ばした。様子が何も変化しない。俺はそのまま彼女の肩に触れてみた。
「嘘だろ」
俺の手は、彼女の肩を通り越したその先の空中に投げ出された。そう、これが一般的、正しい幽霊の性質だ。そのはずだ。けれど。
「お兄! ただいま!」
学校から友達の家へと直行するのが日常の凛ちゃんが帰宅した。両手を振って笑みを浮かべた妹に、俺は何も返せなかった。それを不思議がった凛ちゃんは、目前にいる栗原さんへと視線を移した。その顔が引きつったのは、こちら側でも確認出来た。
「……えっと、橋本の妹さん?」
「――栗原、さん」
「覚えててくれたんだ、良かった! ね、橋本呼んで来てくれないかな、さっき弟君に頼んだんだけれど、出て来てくれなくて……」
凛ちゃんは固まっている。助けを求めるように俺を見つめてくる、縋ってくる。人懐っこい妹には、唯一苦手、とする人物が存在するのだ。それが栗原さん。何も返答しない凛ちゃんに、栗原さんは戸惑ったように話しかけた。
「どうしたの……? もしかしていない、かな?」
「ごめん、凛ちゃんさ、ちょっと人見知りする、というか」
幽体離脱 夢を見ていた @orangebbk
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