Aigo(愛語)

「やあやあやあ!二人とも、愛し合ってるかい!?」

「ふふっ」

「お、笑ったなー!?」


 けれども、やっぱり声だけだ。


 僕らと別の中学に通うサナ先輩は獅子舞仲間の囃子はやし手だ。横笛の名手でやっぱり女子ひとり大の男たちに混じって対等に凄まじい笛を吹く。


「サナ先輩。それってなんなんですか」

「ん?『愛し合ってるかーい!?』『愛してまーす!』ってのはねえ、すっごいカッコいいロックバンドのヴォーカルがいつもライブで言ってたんだよぉ」

「わたしは知ってます」

「お。さすが紫華シハナ馬頭バズはもっと勉強しな」


 会うたびに紫華をなんとか笑わせようとしてくれる。ほんとはこういうキャラじゃないはずなのに、男の僕が見習いたいぐらいに男らしい女性だ。


「お笑いライブでも観に行くかい?」

「いえ、いいです」

「なんだよー。紫華はそういうの嫌いかい?」

「いいえ・・・だって客席にひとり笑わないお客がいたらやってる人に悪いから」

「そっか・・・コラ!馬頭も考えろ!」

「じゃあ、落語」

「お笑いライブと変わんないじゃないか。却下!」

「漫談」

「ふざけてんの!?却下!」

「じゃあ・・・映画は?」


 僕がそうつぶやくとサナ先輩は腕組みして考えた。


「映画なら気を遣う必要ないもんな。なんか、笑える映画ってやってたっけ?」

「冬休み用のアニメ。あとホラーかな」


 僕がスマホで調べるとこの時期は意外とジャンルが限定されていた。なんかないかなんかないかとサナ先輩がせっつく中で、覗きこんで意思を示したのは紫華だった。


「これが観たい」


 恋愛映画だった。


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