第12話

 車に乗ってしまってから、私はどこに連れて行かれるんだろうとすごく不安になった。

「あの、どこに行くんですか?」

「緑川の橋の下だよ」

 うちの近所だ。そこからなら歩いて帰れる。私は少しほっとする。

「うん、いい質問だったね。場所はとても大事だね。君の学校には七不思議とかあるの?」

「ないと思います」

「そうか、いやだいたいどこの学校にも七つ不思議があるんだけどね。裏を返して言うとね、学校じゃない場所にあまり不思議はない。記憶は配置とストーリーを対応させることで成り立つから、しきりのない空間では七つもお話を覚えておけないから」

「はい」

「つまりね、場所とストーリーがある限り、死んだ人も平気で生者とともにある。物語は単語より先にある。食事中に大便の話をされたらいやな気分になるだろう? 一個の単語に触れるたびに、脳の中では物語の総力戦が行われる」

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