第9話
けずりこ屋には少年がいた。庭には看板の手足が山積みにされている。私の想像は当たった。少年は看板を作っていた。
「こんにちは。なんの看板を作っているんですか?」
結構思い切って私は少年に話しかけたのに、少年はなにも言わなかった。
「あの、こんにちは」
なんの反応もなかった。
これは後から知ったことだが、看板を作るにはまず、彫りたい文書を拡大コピーした紙を用意する。その紙の裏から、透けて見える文字を鉛筆で強くなぞる。紙を板に押し付けて、今度は表から文字をなぞる。そうすると鉛筆の粉が板にうつり、文字の下書きが出来上がる。下書きにそって文字を彫り、塗料を塗る。看板の足はあおり止めという金具で止める。持ち運ぶときは外してたたむ。
少年に再度声をかけようか迷っていると、
「看板に興味があるの?」
と、後ろから丸山さんに話しかけられた。丸山さんは記憶の中の「けずりこ屋のおじいさん」から少しも変わらず、にこにこしたおじいさんだった。
「はい」
と私は応える。
「これはなんの看板を作っているんですか?」と、今度は丸山さんに向かって尋ねた。
「今度新しい看板を建てに行こうと思ってるんだけど、君も来る?」
それが丸山さんの返事だった。
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