第5話

 看板は校門のすぐそばの道に建てられていたのに、学校ではだれもそのことを気にしている様子がなくて私は少し安心した記憶がある。あの看板は私にとって恐怖だった。私はその恐怖を忘れようとしていた。

 阿部さんのお父さんに看板のことを言われたときは、また心臓が飛び出すかと思った。

 看板を建てたのはだれか。思いついたことがあったら連絡すると約束してしまった。思いつくことなんてあるわけがない。そのときはそう思っていた。

 しかし約束というのは呪いのようなものだ。私はその日から看板を意識して暮らすようになる。新しい漢字を覚えると、とたんにその漢字をよく目にするようになるときがある。そんな感じで、一度気がついてしまうといろんな看板が目につくようになる。

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