第4話

 それからまた二、三日して、阿部さんのお父さんから家に電話がかかってきた。

 阿部さんのお父さんから電話がかかってきたと、母親から呼ばれたときは心臓が飛び出すかと思った。なにを言われるか想像もつかなかった。阿部さんのお父さんは言った。

「お世話になっております。阿部です。未華子の父です」「はじめまして」「先日は丁寧なお手紙を頂戴し、ありがとうございました」「荻原さんはとても聡明な方だと聞いております」「ひとつお聞きしたいことがあるのです」「公園通りに木の看板が建っているのをご存知でしょうか」「そうです。その看板です」「あの看板の字は、萩原さんの字じゃないですか」「なるほど」「そうでしたか」「そうですか。ではあの看板はだれが建てたのでしょうか」「だれが建てたのか、ちょっと考えてみてもらえませんでしょうか」「荻原さんはとても聡明な方だと聞いております」「知恵を貸してほしいのです」「いえ、そんなに深刻に捉えていただく必要はありません。ただアイデアをお聞きしたいのです」「そうですか」「わかりました。不躾なお願いで申し訳ございません」「そうしていただけると助かります」「そうですね。なにか思いついたことがあったら気が向いたときにでもご連絡いただければ」「いえ、突然妙なこと尋ねて申し訳ございません」「ありがとうございました」「失礼いたします」

 申し遅れましたが私の本名は荻原という。みんなにはときどき「おぎちゃん」と呼ばれる。

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