第3話

 私は阿部さんの命日を覚えていなかった。クラスの友達から言われて、阿部さんが亡くなってからもうすぐちょうど一年たつことに気がついた。命日にみんなでお墓参りに行こうと思ってるんだ、と聞かされた。お墓がどこにあるかは、小学校のときの担任の先生も知らなかったらしい。私は友人たちを代表して、阿部さんのうちに手紙を書くことになった。


「拝啓 まだまだ暑い日が続きます。

お健やかにお過ごしでいらっしゃいますでしょうか。お見舞申し上げます。


以前にお母様に大変ていねいにご対応頂き、その節は誠にありがとうございました。

未華子さんが亡くなられてから一年が経とうとしています。

今でも彼女の笑顔が思い出されてなりません。


我々も一周忌にご仏前にお参りさせていただきたく存じます。

ご都合はいかがでしょうか。


敬具」


 みんなに見せて、これで失礼じゃないかな、大丈夫かなと確認してもらって、封筒に入れてあて名も書いたけど、郵便局にいくより阿部さんの家に行く方が近いので、阿部さんの家のポストに直接届けた。手紙を書いたのに自分で配達するなんてなんか変だなと思った。

 

 返事は二週間くらいしてから返って来た。差出人は阿部さんのお父さんだった。ちゃんと切手が貼ってあり、消印も押されていた。


「前略 お返事遅くなって申し訳ございません。

貴方のことは妻から聞いておりました。以前我が家にお線香をあげに来てくれたそうで、ありがとうございます。

私達の人生はもう半分終わったようなものですが、貴方の人生は始まったばかりです。

未華子のことはときどき思い出すだけにしてあげてください。


草々」


 私はみんなにその手紙を読んでもらい。お墓参りに行く話は結局立ち消えになった。

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