第8話 ☆☆イメルダ☆☆
「イメルダ。木でなんか作れ」
「雑じゃありませんこと!?」
ワタクシを訪ねていらしたのはミリィさんにノーマさん、そしてデリアさんでした。
応接間に通して間もなく、デリアさんが腕組みをしたままぶっきらぼうに言い放った言葉が、先ほどのアレですわ。
なんでも、「いろんなヤツに説明し過ぎて、もう飽きた」だとか……
ワタクシの知ったことではありませんわ、それは。なんたる横暴。
「ヤシロさんに認められる仕事関連の物を手作りで……となりますと、少々難しいですわね」
「ぁの、なんか内容がちょこっと変わっちゃって……なぃ、かな?」
手作りの物をヤシロさんに認めさせる。
それはかなりハードルが高いように思えましたわ。
ですが!
「よろしいでしょう! このイメルダ・ハビエルに不可能はございませんわ!」
「夜中に一人でトイレに行けない女が、なに言ってんさね……」
「ノーマさんのお宅のお手洗いは殊更怖いので仕方のないことですわ!」
我が家のトイレであれば、一人でも行けますわ! ……その気になれば。
まぁ、いまだその気になったことがないので、夜間は給仕に共をさせておりますけれども。
ほら、婦女子が夜道を一人で歩くなど、危険ですし。それがたとえ室内であったとしても!
「ちょうどよろしいですわ。ワタクシ、最近、手芸を趣味にしておりますの。その作品をプレゼントといたしますわ」
「イメルダが手芸……ホントさね?」
「ワタクシは、嘘など吐きませんわ」
「え、でも、この前河原でくしゃみした時、鼻から鼻水『びゅーん!』って飛び出したのに『天使の涙ですわ』って嘘吐いてたよな?」
「アレは嘘ではなく慎みですわ!」
まったく、デリアさんには女子としての慎みが少々不足しておりますわ。
「めっちゃ飛んだなぁ!」じゃありませんのよ!
そういう時は見て見ぬふりをして肌触りの優しい布をそっと差し出すのがマナーですわ!
「いめるださん。手芸って、どんなの作ってる、の?」
「手斧ですわ」
「て……ぉの?」
「えぇ。最近は精度が上がって、そろそろ実用に耐え得る手斧が作れそうですのよ」
「ぇ……っと、…………手芸?」
「手先で物を作っているのですから、これも立派な手芸ですわ」
ミリィさんが困ったような顔をされていますが、誰がなんと言おうと手斧製作は手芸ですわ。
「まったく。そんな武骨なもんを女子っぽい趣味みたいな呼び名で呼ぶんじゃないさよ……」
「ぃや、だから、のーまさんの編み物も…………ぅぅん、なんでも、なぃ」
ノーマさんへの苦言を途中で飲み込んでしまったミリィさん。
言って差し上げればよろしいのに。ノーマさん、ご自分の残念さを理解出来てない節が所々で見受けられますもの。
自覚というのは大切ですわよ。
「ご自分の残念さ加減をご自覚なさいまし」
「あんたにだけは言われたくないさよ。あんたとナタリアとレジーナだけには」
割とおられるではないですか。
……というか、その二人と同じくくりで語られるのは心外ですわ。
「分かりましたわ。女の子らしい手斧にいたしますわ」
「ぁの、いめるださん…………ぅぅん、なんでも、なぃ」
ミリィさんが何かを言いかけてやめました。
取るに足らないことだったのでしょう。
「完成を心待ちにしていてくださいまし」
「ぅん……じゃあ、出来たら連絡して、ね?」
三人を見送り、ワタクシはさっそく設計にかかりました。
いかにエレガントで、いかに可愛く、そしていかに殺傷力を持たせるか……腕の見せ所ですわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます