第7話 ☆☆パウラ☆☆
「え~! ヤシロにクリスマスプレゼント? やるやる! あたしも参加する!」
お昼過ぎ。
ちょうどお客さんが減って一段落した時間帯に、ミリィたちがやって来た。
あたしの友達には妙に甘々な父ちゃんがフレッシュジュースを無料でサービスする。
父ちゃんのサービスには「今後とも、娘と仲良くしてやってください」ってニュアンスが多分に含まれている。
まったく。
娘離れ出来ない父親なんだから。
「けど、そっかぁ。仕事に関係する物で手作り限定ねぇ……」
「別に、限定ってわけじゃ、なぃ、ょ?」
「そうさね。『パウラだけ』既製品でもかまわないさよ」
「むぅ! ……作るもん」
なんでかノーマはあたしにちょいちょい意地悪をする。
「ちょっかいかけると面白んさよ、あんたは」って前に言ってたけど……別に面白い反応なんかしてないんだけどなぁ……
「くふふ。尻尾が膨らんでるさね」
ノーマがあたしの尻尾を見てくつくつと笑う。
……えっち。
尻尾をさっと動かしてノーマとは反対側へ隠す。
そんな様もノーマには面白いらしく、一層可笑しそうに笑う。……もう。
「けど、ウチで手作り出来る物っていえば、ソーセージくらいしか……」
「あたいの鮭と勝負だ!」
「どこでも勝負を吹っかけるんじゃないさね!」
「ぁの、でりあさん? プレゼントする物、忘れてない……ょね?」
ん?
デリアは鮭をプレゼントするんでしょ?
それ以外に考えられないし。
「ん」
父ちゃんがあたしの前にもカップを置く。
けど、中身は入っていない。
「あれ? あたしのジュースは?」
「はぁ……」
ため息つかれたんだけど!?
え、なに?
なんなの、そのダメな娘を見るような眼は?
「パウラが自分で提案したことだろう? ウチのオリジナルでこういう物を作りたいって。その第一号を彼にプレゼントすれば喜んでもらえるんじゃないのか? ……お前も、これなら気持ちを込めて作れるだろう」
『これ』と差し出されたのはさっきの空のカップ。
「あ、そっか」
これは、昨日あたしが提案したカンタルチカオリジナルカップだ。
今お店で使っているカップは樽型のジョッキと、金属製のカップがメイン。
あたしが欲しいって言ってるのは陶器のカップだ。それも、カンタルチカの紋章入りのオリジナルカップ。
セロンさんに聞いたら、焼き印の容量で金型を作っておけばすべてのカップに紋章を入れるのは簡単だって。
そっか。
そのオリジナルカップを先にあたしが一つ手作りして、それをヤシロに……
「うん、それいいね! さすがあたしの父ちゃんだね!」
「ふふふん」
のっしのっしと、ちょっと太り過ぎな体を揺らしてカウンターへ戻っていく。
尻尾は嬉しそうにパタパタ揺れている。
父ちゃんの尻尾は、あたしのより小さくてぴるぴるしてて、ちょっと可愛いと思う。
……って。
「どうしたの、みんな? 黙っちゃって」
「いや……あんなに長くしゃべったマスター、初めて見たさね」
「しゃべれるんだな、お前の父ちゃん」
「当たり前じゃない!」
デリアはウチの父ちゃんをなんだと思ってるの。もう。
ノーマも驚き過ぎ。
そういうこと言わないのはみりぃだけだよね。
……と、ミリィに視線を向けると。
「…………」
目を真ん丸にして父ちゃんの後ろ姿を見つめてた。
……ミリィ。あんたもなの?
父ちゃん、女の子と話するの苦手だからなぁ……
ウーマロさんも、きっと将来あぁなるんだろうなぁ。
そんなことを考えつつ、この後セロンさんのところに行って焼き物を教えてもらおうって、あたしは考えていた。
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