第3話 ☆☆デリア☆☆

 金がないからノーマに飯を食わせてもらおうと思ったら、ミリィにお願いをされた。

 あたいとしては、親友の頼みを無視するつもりはない。

 なんだって聞いてやるぞ。


「なんでも言っていいぞ。ミリィは親友だからな。なんだって聞いてやるよ」

「アタシも親友さね!」

「……なにムキになってんだよ、ノーマ?」

「………………なってないさね」


 ぷいっとそっぽを向くノーマ。

 ミリィがあたいとノーマの間で困った顔を右往左往させている。


「みりぃ、のーまさんもでりあさんも同じくらい好き、だょ?」

「へ? あたいの方が好きだよな?」

「ぅへぃ? ぁ、ぁの……ぉ、ぉなじ、くらい」

「え~? だって、ノーマ説教くさくないかぁ?」

「それはあんたが怒られるようなことばっかりしてるからさね!」

「この前家に行ったら留守でさ、勝手に上がって昼寝してたんだよ。そしたら怒るんだぜぇ?」

「当たり前さね! びっくりしたさよ、家に帰ったらでっかい女が土間に倒れててピクリとも動かないんだからさぁ!」

「あたい、寝相いいんだよなぁ。だから動かなかったんだと思うぞ」

「寝相がいい人間は居間から土間まで転がっていったりしないさね!」

「でりあさん……風邪、ひぃちゃう、ょ?」


 そうだなぁ。

 母ちゃんが生きてた時もよく言われたっけ、『毎朝お前を探すのが大変だ』って。

 けど、『死んだようによく眠ってる』とかも言われんだよなぁ…………え? もしかして死人って歩くのか?

 うわ、怖ぇ。


「ノーマ……怖くね?」

「怖いのはあんたさよ……」


 額を押さえてため息を吐くノーマ。

 ノーマはよくこういう顔をする。眉間のしわ、そのうち取れなくなるんじゃないかなぁ。


「で、あたいにお願いってなんだ?」

「ぅん。ぁのね――」


 ミリィのお願いってのは、ヤシロに何かプレゼントをあげてほしいってことだった。

 もうすぐクリスマスだから、ミリィがナントカって爺さんの真似してプレゼントを渡したいんだって。

 そのプレゼントの中にあたいのプレゼントも混ぜたいんだとか。


「そりゃあいいけど……その『ナントカ・ナントカ』って、誰だ?」

「一文字も覚えられなかったんかぃね……」

「サンタクロース、だょ」

「さん……ご、苦労、さん?」

「労われたさね」

「あぁ、それで『ご苦労さん!』ってプレゼント渡すのか」

「ぁのね、そんなルールはなぃ、……はず、だょ?」


 よく分からないけど、ミリィもノーマもヤシロにプレゼントを渡すらしい。

 じゃあ、あたいも何かいい物を買って…………


「あぁっ!?」

「ど、どうしたんさね、急にデカい声を出して」

「あたい、お金ない!」

「なんだ、そんなことかぃね……」


 そんなことって言うけどさぁ、お金がなきゃ何も買えねぇじゃねぇかよぉ。


「どーすっかなぁ……あ、そうだ! ヤシロに頼んで陽だまり亭でバイトしよう!」

「ちょいと待ちな!」

「んだよぉ?」

「なんて言ってバイトさせてもらうつもりさね?」

「ん? 『ヤシロにプレゼント買うからお金が欲しいんだ』って」

「ぁ、ぁの、ね、でりあさん。このプレゼントのことは、当日までてんとうむしさんにはナイショ、ね?」

「なんだ、内緒なのか。分かった。じゃあ『ヤシロに内緒のプレゼント買うからお金が欲しいんだ』って言って頼む!」

「アホかぃ!?」

「アホじゃない!」

「その自信満々感がアホっぽいさよ!」


 ノーマが怒るぅ。

 なんなんだよぉ。ちゃんと『内緒の』って付けたのになぁ。


「ぉ金がないなら、手作りしてみたらどう、かな? みりぃものーまさんも、手作りするつもりだし。ね? でりあさんもそうしよぅよ」

「手作りかぁ……う~ん」

「デリア。あんたが一番得意なものは何さね?」

「鮭だ!」

「……『手作り出来そうな物で』さよ」


 手作り出来そうな物かぁ……


「……足漕ぎ水車?」

「あんたにゃ絶対作れないさよ」

「作れても、てんとうむしさん、欲しくない、かも……?」


 プレゼントって難しいなぁ……


「ノーマは何作るんだ?」

「アタシは編み物をする予定さね」

「ぇっと……編み物、かな、あれ?」


 編み物かぁ。

 たま~に店長がやってるのを見るけど……


「簡単そうだよな、あれ」

「デリアには絶対出来ないさね」


 なんでだよぉ?

 出来るかもしれないだろう?


「よし! あたいもノーマと一緒に編み物する! ノーマに教わりながら!」

「えぇ……物凄く大変そうさね……」

「編み物をするなら、何を編みたぃ、でりあさん?」


 何を?

 そうだなぁ……


「鮭?」

「手編みの鮭は編んだことないから教えられそうもないさね」


 そっかぁ……


「てんとうむしさんが喜びそうな物にしてみたら、どう、かな?」

「ヤシロが……」


 自然と、視線が胸に向く。


「自分の職業に関係する物に限定するさね! そうさね、それがいいさね!」


 急にデカい声を出した後で「はぁ……」とため息を吐くノーマ。

 なんか、「しょうのない娘だねぇ」みたいな目で見られている。


 けど、そうか、仕事に関係する物か。


「じゃあ、釣竿をと魚籠を作るかな。それならあたい得意だし」

「そうさね。竿があれば、ヤシロも釣りに出かけるかもしれないしねぇ」

「そうか! じゃあ、あたいが穴場を教えてやるよ!」


 それで、一緒に釣りするんだ!

 うん! それはいい案だ!

 そうしよう!


「それじゃあ、みりぃは他の人のところにお願いしに行ってくる、ね」

「待てミリィ。一人じゃ不安だから、あたいがついてってやるよ」

「あんたがついていくことで一気に不安が増したさね……アタシも同行するさよ」

「ノーマ」

「なんさね?」

「親友同士だけで大丈夫だぞ?」

「アタシもおんなじくらい仲いいんさよ!」


 寂しがりのノーマがついてくるって言い張って、あたいらは三人で街へと繰り出した。





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