第21話 ミス

 戦いは激しさを増しているが、もはやホテルの屋上では戦うにも狭すぎた。蒼汰とスーパーゾンビは周辺ビルの屋上を飛び移りながら殴り合いを続け、今は首都高近くのビル屋上で衝突している。



日が沈む前に勝負を決めねば……再び決着は有耶無耶になってしまうだろう。

 



「死ねぇ!クソガキがぁ」



 赤髪ジャックの拳がマトモに顔面を捉えた。泣きたくなるほどの激痛が蒼汰の顔中に広がってくるが、こんな痛い思いを彩奈にさせたのだと思うと、さらに頭に血が上ってくる。殴られた勢いで屋上から転落しそうになるのを、死にものぐるいで堪えてみせた。



「痛えなぁ、このボケ」


──こ……このゴミ野郎……。踏みとどまりやがったっ!



 想像よりずっと早く蒼汰が体勢を立て直してしまったことに怯む赤髪。この隙を見逃さず蒼汰は一瞬で敵の懐に入り、全力で鳩尾を殴りつけた。

 


「痛かっただろうがぁ!彩奈がよ!」


「ぐぎぃぃぃっ」

  


 回転しながら水平にふっ飛んだ赤髪は、正面建物の塔屋看板に突っ込み、それを突き破って路上に落下。衝撃で道路に亀裂が走る。



そのまま赤髪ジャックは大の字になって倒れてしまった。


 

──勝負あった!



 しかし敵はすぐに起き上がった。体をコンクリートに激しく打ちつけられているにも関わらず、ダメージらしいダメージがないのはもちろん、痛みすら感じていないようだ。ゾンビというだけのことはある。



これでは長期戦になれば、蒼汰の方が不利になっていくだろう。



 だが精神的には別だった。



──ど……どうなってやがる!こいつは口だけのゴミカス野郎だったはずだ。たった2週間で何があったんだ。



 ジャックはついに怒りを爆発させる。



「くそぉぉぉぉぉ!餌の分際でぇぇぇぇ」



 八つ当たり気味に近くの街灯に蹴りを入れると、高さ10メートルはあるだろう鉄柱を根本から折ってしまった。それを両手で持つと、ジャイアントスイングの要領でふり回しはじめる。そして追いかけてビルから飛び降りてきた蒼汰に投げつけた。



「寄るんじゃねえぇぇ!クソガキ」


「うおっ」



 間一髪、頭を下げてかわすと鉄柱は背後の雑居ビルに激突。建物は大きく損傷し、窓ガラスの破片や窓枠が一斉に飛び散る。


 蒼汰の着地と同時に、赤髪ジャックは後方に大きく跳躍して案内標識柱に飛び乗った。一瞬で標識だけを剥ぎ取ると、それを手裏剣のように投げ飛ばす。



「死ねやぁぁっ!」



1平方メートルの巨大な鉄板が、猛列に回転しながら蒼汰に接近している。



──こんなん食らったら胴体が切断されちまう!



 とっさに鉄板を蹴り上げてかわす。

 


「危ねぇだろっ!」



 標識は首都高の橋桁に激突して突き刺さった。振り返った蒼汰はその威力に驚く。



──ふうっ……あのゾンビ野郎め。ただでさえ強いのに、凶器を使わせると本格的にヤベェな。



 だが気を抜いたこの隙を突かれた。目の前には飛び蹴りの態勢に入った赤髪がいる。



「オラァッ!よそ見してんじゃねえ」


「ちっ」



 だが彼はこの攻撃すら跳躍してかわしてしまった。赤髪ゾンビはそのまま隣のビルに突っ込み柱を砕く。──白煙とともにビルは少し傾いた。



「どこを蹴ってんだよボケゾンビ!」



 お返しとばかりにゾンビの頭に回し蹴りを決めると、路上に倒れ、そのまま50メートルは転がっていく。だが倒立するとあさっさり起き上がってしまう。



 やはり体そのものを完全に破壊してしまわない限り勝利はありえないようだ。



──まるで効いてないな。だからゾンビは危ないんだよ……。



 一方の赤髪のジャックも動揺している。



「おいおい……冗談だろこのガキ!今のを全部かわしやがったぞ……」



 その肩はワナワナと震えていた。



「こ……この凄まじい動きは海王クラス……いやそれ以上だ。下手すりゃ竜巻女のレベルだぞ……」



 その奇妙な言葉を蒼汰は無視できなかった。

  


「な……なんだそりゃ?竜巻女?」



 おそらく彩奈のことではなく、スーパーゾンビの事を指していると思われる。ここにいる赤髪のジャックと、地震を起こしたジョーカーの他に、3体のスーパーゾンビがまだ東京に君臨している。



──女ってことは……。



 蒼汰には目星がついた。



「そうか!竜巻女ってのはクイーンのことか。お前、相当ビビってんなソイツに」



 少しずつ余裕を見せはじめた蒼汰に、赤髪は苛立つ。



「へへ……ふざけやがって。もう俺様に勝った気でいやがるのかよ、このガキ」


「まあな。頭が半壊してるゾンビなんかには負けねえよ」



 一瞬赤髪の目が血走る。そのまま頭に血を登らせてくれれば助かったのだが、すぐに冷静さを取り戻した。



「ふひひ……。こんなハエみてえなすばしっこい野郎と広い場所でやんのは得策じゃねえよなぁ〜」



 口元の血を腕で拭いながら、憎たらしい笑みを浮かべてみせる。



──クッ。何かロクでもないことを考えてやがるぞ。



 もう赤髪の性格は分かってる故に、蒼汰には嫌な予感しかしなかった。



「そろそろアイツらが心配になってきただろぉ〜?僕ちゃんよ」


「はぁ?なんのことを言ってやがる……あっ……!」



 すぐに「アイツら」が彩奈達のことだと悟る。



──し……しまった!俺のバカ。いくらなんでも熱くなりすぎていた。



 やむを得なかったとは言え、蒼汰は勢いにまかせて致命的なミスをおかしていた。赤髪と彩奈を引き離す必要があったとは言え、未だゾンビだらけのホテルに彼女たちは置き去りにされているのだ。



「あの雑魚ゾンビどもはよ〜。生きた女を食べたくて仕方がない奴らなんだよねぇ〜。俺様がいねえとすぐ勝手に動き出しちゃうかもなぁ。サービスで俺が戻ってやろうか?」



 今のゾンビ達には確かに赤髪ジャックによる制御が効いている。かと言って放置しておくにはあまりにも危険すぎる。



 そもそも赤髪があの場所に戻るとなれば、それこそ何をしだすか分からない。



「バカなお前でも意味が分かったらしいなぁ。最初からお前なんかに勝ち目はねえんだよ!ちょっと腕をあげたぐらいで勘違いしやがってよ〜」



「くそっ!」



 4人の命の方がずっと大事である。蒼汰はここで決着をつけるのを諦め、彩奈達のいるホテルの屋上へと移動をはじめた。



「待てやぁ〜!うはははは」



 赤髪が蒼汰を追ってくる……。おそらく先に蒼汰が到着するだろう。だがその後は!?

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