#49 って、ことで文句をいいに来ました。
深大寺で撮った写真などを見ながらワイワイガヤガヤと賑わっていると、部室のドアがノックされた。
三ノ輪がどうぞと声をかけると、ドアが開かれ一人の女子が姿を現す。
「こんにちは~!」
中学生で心温の先輩に当たる人物。桃内桃夏が制服姿でキャピッとした声で挨拶しながら中に入ってきた。
「あ、ももちゃんハロッピーッ!」
「桃夏ちゃんこんにちわ~」
挨拶をしながら中に入ってくる桃内に対し、頭の悪そうな挨拶で返す美浜と野矢先輩のあざとさたっぷりの挨拶で桃内を迎え入れる。
「こんにちは桃夏さん。今日はどうしたのかしら?」
「はい。ちょっとそこせんぱいに用事がありましてぇ~」
挨拶をしながら用件を聞き出す三ノ輪に甘ったるい声を出しながら俺を指差し名指しで用事があると答える桃内。
おいこら。人に指を指しちゃいけませって習わなかったのか?
そんなことしてると先輩怒っちゃうぞ?
「……何だよ。朝の件は今度って時間があればことになっただろ」
「はい。そうでしたね」
「じゃぁ何しに来たの?」
「はい。せんぱいに文句言いに来ましたっ☆」
いやその語尾に☆マークを付けて言われても……
つか、俺が何したってんだよ? お前にクレームを言われるようなことはしてねぇぞ?
桃内のクレーム宣言を耳にした三人はジト目を俺の方に向けてきた。
そんな目でこっち見るなよ。俺は何もしてねぇよ。
無罪だし冤罪だ。
「シーマンまた何かしでかしたんだ?」
「またって何だよ。俺は何もしてねぇぞ」
「塩屋くん、自主するなら今のうちよ?」
「人の話聞いてた? 俺はまだ何もしてねぇ!」
「
「何で先輩はその部分だけを抜き取って拾ったんですか!? これからもなにもしませんって!」
「せんぱぁ~い。さっきからうるさいですよ?」
「一体誰のせいでこんなことになってると思ってんだよ!?」
俺が必死に抗議の声を上げるなか、三ノ輪は席を立ち上がって来客用のパイプ椅子を取りだし、桃内に手渡して好きなところに座るよう促した。
椅子を渡された桃内は言われた通り座りたいところに椅子を広げ腰を落ち着かせる。
うん。確かにどこでもいいって三ノ輪に言われてたけどさ……。
何で俺の隣なわけ?
桃内が選んだ場所が俺の隣だということに気づいた三ノ輪は「危ないからそっちじゃない方がいいわ。また被害に遭うわよ?」と声をかける。
あ、俺は加害者確定なんですね。
その一方で、桃内が俺の隣を座るのを見てむくれる二人の人物。
美浜と野矢先輩が少しムッとさせながら俺を睨んできた。
何でお前らはむくれてんだよ。これは俺悪くないよね?
俺を睨むなよ……
あまりにも二人の視線が怖いので、席を立って少し離れたところに移動しようとしたら全員に『動くな!』と命じられ、やむ無くその場に留まることにした。
何でこいつらこんなにご機嫌が斜めなの? 女子特有のあの日なの?
なんかとんでもない嵐に巻き込まれそうだから、一刻も早く撤退したいんですけど。
ダメ? さいですか……
「それで、この男にクレームを言いに来たってさっき言っていたけれど、今度は何をされたのかしら? 学校の一部が溶かされたとか?」
なんか錆びるって表現じゃなくて溶けるって表現に聞こえたのは俺の耳がおかしくなったのか?
それとも気のせいか? 気のせいではないな。
俺は化学性劇薬か何かかよ。
そんな風に思っていると桃内が今朝あったことを話始めた。
「いえ、今朝学校の前でせんぱいと話をしている光景を他の生徒に見られて、せんぱいと付き合っているって噂になっているんですよぉ~」
『はっ?』
桃内から思いもよらぬ話が飛び出しこの場にいる全員が一瞬固まった。
「私は否定してるんですけど、一部の子がそれを信じてくれないんですよねぇ~。せんぱ~い、どうしてくれるんですか~?」
「えぇー……俺が悪いのかよ……」
こいつのこの言い草だと俺に原因があるとでも言いたげな感じだよね?
あれは俺が悪いのか? いや、あれは俺は悪くない。
そもそも、人の自転車を掴んで思いっきり揺さぶってきたのは君だよね?
あれは俺悪くないよね?
結論。俺は無罪である。
自分の脳内で無罪判決を下していると、別方向から何やら鋭い視線を感じ取った。
「しょーくんってほっっと、節操ないよね~!」
「シーマンキモいッ! だからタラシーマンって呼ばれるんだよっ!」
「さぁタラシーマンくん? 私たちが納得できるような説明をしなさい? さもないと、ここをタップして耳に当てるわよ?」
そう言って俺にスマホ画面を見せてくる三ノ輪は、通話画面が開かれていて“110”が入力されており、通話ボタンに指が添えられていた。
「ちょっとまて。お前らは何か誤解をしている。ちゃんと説明するから、まずはその画面を消して机に置いてくれ」
必死に話だけでも聞いてもらうよう説得するしかなかった。
# # #
三ノ輪に警察への通報を阻止することに無事成功し、今朝あったことを話した。
すると、三ノ輪は呆れたように溜め息を吐きジト目であなたが原因じゃないとでも言いたげな視線で桃内を睨む。
近くで聞いていた美浜は「たはは……」と苦笑いを浮かべ、野矢先輩は中学生の年下に先を越されるなんてと、わけの分からないことをブツブツと独り言を溢しながら悔しそうな表情を浮かべていた。
野矢先輩は何と競ってんだよ。
下手に関わると面倒くさそうだからここはノータッチといこう。
一方の桃内は自分自身に原因があることに気づくも、特に悪いことをしたって感じでもないようで、子首を傾げ舌を出し、自分の頭を軽くコツンとげんこつをしてキャピッて聞こえてきそうなあざとく誤魔化した。
何こいつ。すげぇ腹立つんだけど。
またタバスコミートドリアでも食わしてやろうか。
「とまぁそんなわけで、せんぱいにはこの……その写真なんですか~?」
今の現状をどうにかしようと、俺に責任を擦り付けようとした桃内。
だが、机に広がる写真に気がつき、そっちに話がそれ始めた。
桃内の質問に美浜が深大寺に行ったときの写真だと教えると、興味が湧いたのか机から数枚ほど写真を手に取って眺め始めた。
「せんぱいも行ったんですか? 写真に蕎麦を食べている光景とか、他にもせんぱいが写っている写真が色々ありますけど」
えっ? マジで?
蕎麦屋の写真とバスから外を眺めてるやつだけじゃねぇの?
桃内の証言を確認すべく写真を奪い取って何枚か確認してみた。
すると、深大寺構内にある線香のところで俺が煙を美浜の頭に振りかけようと頭に手を置いていている写真と、野矢先輩と三ノ輪に両頬を左右に引っ張られている写真がそこにはあった。
この美浜の写真なんて、俺が美浜の頭を撫でているようにしか見えねぇじゃん。美浜も顔を真っ赤にして驚きと恥ずかしさで何とも言いきれない表情になってるし。
あの時の俺、何してるんだよ。
三ノ輪と先輩の写真なんて暴行事件の決定的瞬間になってるし。
……俺が悪いから何も言えねぇけど。
つか、こんな写真誰が撮ったんだよ。俺が直近で一番見られたくないシーントップのやつじゃねぇか。こんなもん消せよ。
そんなことを考えていると『あ゛ーーーっ!』と美浜たちが悲鳴を上げ、俺からその写真だけを奪い取りすぐに鞄などにしまった。
あー。これは焼却処分決定だな。それかシュレッター行き。
大丈夫だ。こんなことになるのは最初から知ってた。
だから俺は何も悲しくないぞ。うん。
俺から写真を奪われた桃内は顔を俯かせながら静かに座ったままだ。
何でこいつは急に静かになったの? そんなに写真奪われたのが嫌だったの?
「せんぱーい」
「……なんだ」
呼ばれたのはいいが声がものすごく低い。
あのあざとい声なんて一切感じさせないような低い声で呼ばれた。
「何でせんぱいだけ美味しいもの食べてるんですか? おかしくないですか?」
はい?
この子は何を言ってんだ?
「私、深大寺そばとかまだ食べたことないんですよっ!? それなのに何でせんぱいだけ先に食べちゃってるんですか!? と言うか、何で私も連れて行かなかったんですか? これおかしくないですか!?」
おかしいのはお前の頭だ!
そもそも、これは元々銀バスの本社から帰りに寄ったわけで、遊びに行ってたわけじゃない。この写真のいくつかに野矢先輩が一緒にいるのは勝手についてきたおまけみたいなもんだ。
そうハッキリ言えればいいんだが、それを言っちゃうと先輩がまた泣き出しちゃうし、三ノ輪達に攻められるんだよな……
「いやこれは部活の一貫で動いてたわけだし……」
「だったら、今度は私も一緒に行きます!」
見学という形で桃内も一緒についてくるとか言い始めた。
見学で一緒に行くって言われてもなぁ。第一こんな許可出るわけないだろ。
俺に決定権なんて無いし、児玉先生も生徒指導って立場から安易に許可なんてもん出さないはずだ。
第一、こいつは親御さんに何て言って出てくるつもりなんだよ。受験生だろ? 勉強してろよ……
「んなもん無理に決まってるだろ……それに、お前がこの部活の見学をしたところでつまらないだけだぞ」
この部活は乗合研究部であってお出掛け倶楽部ではない。
外に行くほとんどの理由がバスの撮影でしかない。
ただバスが来るのを待って、来たバスの写真を記録するだけの行動は、流行りに敏感そうなこいつにとっては退屈になるに決まっている。
「そんなの見学してみないとわからないじゃないですか!」
何を意地になっているのか俺の助言に食い下がり引こうとしない桃内。
すると、このやり取りを聞いてた三ノ輪が「いいわ」と見学の許可を出した。
ただし条件があるらしく、俺らの部活の行動を邪魔しないことが条件と出された。
桃内はその条件付きを了承し、部活関係で外に出るようであれば桃内も一緒に連れていくことが確定した。
「いろいろ教えてくださいね? せーんぱいっ♪」
こいつを連れていくとか色々と引っ掻き回されそうで面倒臭い未来しか見えねぇんだけど大丈夫なのかよ。
そんな疑念を抱きながらキャッキャとはしゃぐ桃内を見て溜め息を吐くしかなかった。
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