#33 場所探し
生徒会長である野矢先輩が乗合研究部に加わることによって更に賑やかになったこの部室では、一台しかないパソコンに四人が画面を眺めていた。
何故か俺を中心として。
何で俺が真ん中なんだよ。俺は別に端っこの方でいいんですけど?
何なら隙を見て逃亡できるし。
こうなったのには数分前に遡る。
「……合宿に最適な場所を探してくれって頼まれたのはいいんだけどさー、どこがいいんだろうね? みのりんどこか知ってる?」
「自分で何も考えようともしないでいきなり私に振るのは止めなさい。私に聞かれたって知らないわよ」
何も考えずに質問を投げ掛ける美浜に呆れながら否定的な答えを出す三ノ輪。その答えを聞いた美浜は眉毛をハの字にしてゴメンと静かに謝罪をした。
運動部に所属していない俺らにとってどんな動きがしたいのかなんて知るわけがない。
ましてはバスケとか卓球とかの室内運動とは違って野球は完全なる野外だ。
さっきの話し合いで部活の監督とか顧問と相談しろと言ったんだが、『お前たちで勝手に決めていいぞー』で片付けられてしまったらしい。
……何サボってんだよ。ちゃんと働けよ。
部活管理の仕事もしないでそれなりの給料を貰うとかおかしいだろ。
サボっている先生の事は一旦置いといて、合宿先の候補探しに集中するとしよう。
「やきゅうって外でやるやつだよね? しかも広い場所で」
「そうだな」
「んーこっから近い方がいいだろうから水道橋駅の近くにある東京ドームとかでよくない?」
おい、そこの天然記念物。東京ドームをレンタルするのにいくらの金が飛ぶと思ってんだよ。
恐らくこいつの頭の中は『合宿に行った帰りに遊べるじゃん』とか考えてそうだよな。
「美浜さん、さすがにそれは無理があるんじゃないかしら。それにそのレンタル料金の予算はどうするのよ?」
「うーん……。足んない分はシーマンが出す?」
「いや何でだよ……」
何で俺が他の部活のために金を出さなきゃならんのだ。
そもそもこの部活にも金を出す気なんて無いのに。
「ねぇ三人とも。考えるだけじゃ限界があるからネットで探した方がいいんじゃない?」
野矢先輩のその提案がきっかけで今現在に至る。
野球部の要望は練習とかもでき泊まれる最適なところ。
そうなると、東京都内だと行ける場所が限られているので関東圏内で検索することにした。
その方がいろんな情報が入ってくるからだ。
……最もの理由が近場だとつまんないと言う野矢先輩のわがままから来てるわけだが……
「ここなんてどうかな? 近くにビーチもあるしバイキングレストランとかもあるよっ!?」
もはや、話のノリが旅行計画を練っているような感じになっている。
やや興奮気味に話す美浜に三ノ輪が冷静に釘を刺すことになる。
「……美浜さん? まさかだと思うけど検索目的を忘れているわけじゃないわよね?」
「うっ……だ、大丈夫! ちゃんとわかってるからっ!」
図星だったらしく、美浜は焦ったようにパタパタと手を振った。
まぁ、都内だと行く場所も大方決まっちゃうし、スペース自体が空いているかどうかもわかんねぇもんな。
合宿に行く日時も夏休み期間中みたいだし、都内だと他校の部活とかだけじゃなくて、他県から来た探検チームとか山登り大好きな人間も集まってどこもいっぱいになる可能性もある。
予約に苦労するくらいなら、最初から少し離れた場所にするのがベストだと考えたんだろう。
「千葉とかもいいけど神奈川とかもよさそうだね~」
「両方とも範囲が広いから探すのが大変そうですけどね」
「んー箱根とかはどう?」
「……先輩。何を考えて箱根って場所が出てきたんですか?」
「ん? 温泉だけど?」
あんたが行きたいだけだろ。
温泉施設もある運動公園とかここでは聞いたことねぇぞ。
つか、そんなもんがあったら確実に練習サボって女湯とか覗きに行くやつが続出するだろ。
「……どうぞ。先輩お一人で」
「何で私だけ除け者なのっ!?」
ギャーギャー騒いでいる先輩を放置して、グランドがある運動公園を再び探すことにした。
条件はグランド付きの運動公園、朝食付きの宿泊施設、ミーティングとかもやるだろうからちょっとした会議室みたいなやつも設置されていて……
つか、宿泊先とグランドは一緒じゃないとダメなのか? 別に宿泊先とグランドは別でもよくね?
移動距離が長かったら体力的にもキツいだろうが、移動距離が短かったらいつもの学校に登校するノリで通えるだろ。
それに、あいつもその辺は何も指定してこなかったしそれでいいってことだよな?
決めた後になってクレームを言ってきても一切受け付けないがな。
そんなことを考えながら一応三人に提案してみると予想外の早さで同意を得ることができた。
特に三ノ輪からの提案即決は以外だった。てっきり俺の提案なんて即却下されると思っていたがそうでもないようだ。
これで検索方法の視野が広まったことだし、すぐに合宿場所も決まるだろう。早いとこ終わらせて俺は自分の世界に引きこもるとしますかね。
# # #
―――それから時間が経つこと約20分後。
「こことかいいんじゃないかな~? グランドとか広そうだよ?」
「野矢先輩、ここ会議室とか無いっぽいですよ? そこよりこことかいいんじゃん? イロイロとありそーだよ?」
「美浜さん、何でスマホの画面に表示しているのが“富士サファリパーク”なのかしら? その公園にはグランドは無いわよ?」
「えっ、無いのっ!?」
―――何にも決まんなかった。つか、話が全く進んでない。
あと、富士サファリパークは動物園であって公園じゃないからな?
何で場所決めだけでこうも揉めるのかな。パパッて決めちゃえばいいだろうに。解せぬ。
「そもそも、交通費のことを考えなきゃいけないじゃない。あとは移動するときの所要時間とか」
「そこは大丈夫じゃないかな~? 学校のバスがあるんだから時間とかお金の事までは考えなくてもいいと思うよ~?」
呑気にそう答える野矢先輩に俺たちの話し合いに、黙って見守っていた児玉先生がようやく口を開いた。
「悪いが、学校の送迎バスは空いてない」
「……嘘ですよね? え、一台も?」
「そうだ」
「えぇ……」
児玉先生の話によると、この学校には11台のマイクロバスがあるらしい。だが、11台のうち3台が定期点検と修理、残りの6台は他の部活に先に長期予約されているため、野球部が合宿をつい最近決めていざ借りようと思ったときには、使える車両は一台も残っていなかったんだとか。
……何やってるんだよ野球部顧問。お前がちゃんと仕事しないからこっちに変な仕事が舞い込んできたじゃねぇか。
とまぁ、そんな理由で俺たちに合宿先とそこまでの移動手段を教えてくれと頼み込んできたってことなんだが……よく考えたら野球部が何人いるのか知らんが、普通の公共交通機関なんか使ったら迷惑じゃね?
ただえさえバッグとかでかいのに、それに追加で他の部活道具と合宿用の物も用意するんだろ?
明らかに他の一般に客に迷惑だろ。
もう合宿は中止でいいんじゃね?
「湯本たちは公共交通機関を使うとは言ってたが、大荷物を抱えた部活動生をそのまま電車とかバスに乗せるのはさすがに考えものだからな。こればかりは私の方でも
それの考えを読み取ったのか、もしくは先生も同じ考えだったのか分からんが、それなりの対策は取っているらしい。
そうなれば時間もお金もあまり深く考える必要な無さそうだな。
先生の言葉を聞いた他の三人も時間や予算などの縛りに気にすることなくいろいろとネットで探っては『あれはダメだよ』とか『ここはこれが足りない』などと議論を加熱させていた。
女子三人があーだこーだと喚いている間で、俺はパソコンを使って別のことを考えながら調べものをしていた。
もし俺が合宿に行くとすれば……俺の場合は合宿じゃなくて旅行になるな。それはともかく、もし行くとなればバスの写真を撮ったり、海鮮系のうまい飯とかを食いたい。
ここから行けるとしたら……
神奈川なら三崎か小田原。
千葉なら千葉市。
あとは伊豆とか辺りになるな。
最初のエリア設定で関東圏内に絞ってるから東海になる静岡の伊豆は今回は除外だな。
……今度一人で静岡市の清水漁港に行って生しらす丼でも食ってこよう。
千葉の房総半島は海産物が色々とありそうだがそこに行くまでに時間がかかるし、電車とかの本数も少ない。かと言って
さすがに日帰りで行って帰ってくるような距離ではないな。活動時間にも限界があるし。
……日帰りじゃなきゃいいのか。外泊して時間に余裕をもって行動すれば問題なくね? むしろ一泊した方が安全に動ける気がする。色んな意味で。
そうなると行く場所の範囲ももう少しだけ広げることができそうだな。
例えば……茨城。
水戸で納豆でも食ってそれから路線バスに乗って
ネットで大洗周辺を見る限りだと夜に外食するよりも、朝市とかに行って色々見て廻った方が海鮮物が色々と食えそうだ。もちろんその地域を走るバスの撮影もする。
おぉ……我ながら最高のプランだな。
「せんせ~い。大体は決まりました~。これです」
「ほう。どれ、見てみるとしよう」
俺がネットを見ながら仮定のルートと計画を練っている傍らで、女子三人は議論しまくってようやく出た結果を児玉先生に見せていた。
話にはほぼ参加していないが、会話の流れで実際に現地に足を運んで視察し、問題がなければ完全確定にするらしい。
現地視察とか生徒会長も大変だな。本来なら教員の仕事のはずなのによくやるよ。
お疲れさまです。
「―――そんなわけで塩屋、茨城までの予約の方は頼んだぞ」
「……は?」
いやいや意味がわからん。急に何の話だよ。突然話を振られても内容が全く掴めないんですけど?
「話を聞いてなかったのかね。銀バスに電話してバス一台を確保してくれと言ってるんだ」
「何で俺が……」
そういうのって普通に考えてその部活がやるもんじゃね? 別に俺がやる必要性無いよね?
つか野球部に入っている湯本に予約させろよ。
そもそも、俺らが頼まれたのって場所
そんな余分なオプションを付け加えるなよ……
「バス関係の予約はこの部活の部長である君の仕事のはずだが?」
なにそれ。初耳なんですけど。
いつの間にその余分な役割分担まで決めたんだよ。
……余計な仕事を増やしやがって。
「宿関係は私が予約しておくんだから問題ないだろ。それともまさか、私一人に全部させようって考えじゃあるまいな?」
俺の仕事でもないけど、あんたの仕事でもないだろうよ……
そして面倒くさいからといって半分俺に擦り付けるの止めてくれませんかね?
結局、先生の凄みに負かされて渋々ながらも観光部に電話をいれてバスの予約することにした。
# # #
バスの予約が完了して余計な仕事が終わり、静かになる予定だった部室は先ほどと変わらず騒がしかった。
主に騒いでるのは三人の女子たち。
話している内容は茨城までの移動手段である。
……何でその話をしているのか全くわからん。さっき電話でバスの予約をしたじゃねぇか。
そう言えば、さっき児玉先生との話の流れで現地視察して最終確定をさせるとか言ってたっけ。
なるほど、どうりで茨城までの行き方を話し合っているわけか。
「こんな感じでいいかな~。二人ともどう思う?」
「いいと思います」
「いいと思います」
野矢先輩の質問に二人揃って同じ返事を同時にして声をハモらせた。
何故に俺に質問してこなかったのか疑問を一瞬抱いたが、俺に聞かない理由はそんなことは最初からわかっていた。
連れていかないやつの意見を聞いたところで何にも情報は得られない。
まぁ、そんなもんだろう。
大丈夫だ。悲しくなんかないぞ。グスン……
「しょ~く~ん」
「……何ですかね」
「7月23日から時間空けておいてね」
「それって何時からのことを言ってるんですかね?」
「0時からだよ♪」
0時って日付変更線が通過してすぐですよね?
しかも23日ってちょうど三連休じゃねぇか。
あぁ……さよなら。俺の平和なダラダラライフ。
「……もし却下したら」
「その時はどうなるか覚悟した方がいいよ?」
「……へい」
満面の笑みですんげぇこと言ってるんですけどこの生徒会長。
下手に逆らうと何されるかわからないので俺は仕方なく黙って従うことにした。
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