#26 捜索
昨日は塩屋くんに生徒会のことを色々と手伝ってもらったし、今日はどうしようかな~♪
校内放送を使って生徒会室に呼ぶっていう手もあるけど、それだとさすがに可哀想すぎるし……
教室に迎えに行くって手もあるけど教室知らないし……
まぁ、後で生徒指導の児玉先生に聞けばいいっか♪
「望羽、何かご機嫌だね。何かいいことあったの?」
今日の昼休みの計画を頭の中で考えていると、隣の席に座る遠藤絵理奈ちゃんが話しかけてきた。
身長は155センチと少し小柄で、癖のないサラサラな赤毛のショートヘア。パッチリとした大きな目とそれを引き立たせる二重の瞼。
誰が見ても可愛い部類に入る私の友達だ。
「ちょっと興味がある子がいてね~」
「そうなんだ。今度は誰なの?」
「名前は塩屋省吾くんだよ」
「聞いたことないなぁ……三年生なの?」
「一年生だよ」
「一年生っ!? 虐めちゃダメだよ?」
「人聞きが悪いなぁ。私、生徒会長なんだよ? そんなことするわけないじゃん」
まぁ、授業に集中しないで他の考えている時点でアウトだけどね~。
そんな会話をしていると授業終了を知らせるチャイムが鳴り響き、日直の号令で午前の授業は終了。昼食の時間になった。
絵理奈が隣で弁当を取り出していると、遠くの席に座っている私の友人、飛鳥山あすかが一緒にご飯を食べようと弁当を持ってこちらに近づいてきた。
彼女は私の癒し系の子で、黒髪で背中まで延びた三つ編みロングヘアーを二つに分けて、丸メガネをかけている真面目そうなイメージの子。
見た目通り真面目な性格だけど、どこか天然も少し入っていてポワンとした感じのオーラを放っている。そんなあすかも私にとっての大事な友人である。
そうだ。今日はあいつをこのグループの中に混ぜて、一緒にご飯を食べることにしよう。
ちょうど色々と聞きたいこともあったし。よし、そうしよう。
じゃあまずは児玉先生のとこ行って塩屋くんの教室を聞かなきゃね~♪
「望羽ちゃんどこ行くの?」
自分の中での計画が完全に確定し実行に移そうと席を立つと、あすかがキョトンとした顔で訊ねてきた。
「ちょっと用事を済ませてくる。すぐに戻るから先に食べてていいよー」
私はそれだけを告げて教室を後にした。
# # #
午前の授業が終わって色んな人の口からお腹すいたーのワードが耳に入ってくる昼休み。
僕の隣に座る友人、塩屋省吾くんとはあまり喋ったことがない。
周りの噂では『少年院から出てきたばっかりのやつ』とか『性犯罪とか起こしていそう』とか、明らかに不穏な噂が飛び交っているし直接言われたこともある。
けど、彼は皆が言うような悪い子じゃない。
見た感じでは近寄りがたいオーラを発しているし、誰とも関わろうともしないから孤立状態にあるけど、根はものすごくいい人だと思う。
昨日だって僕のことを名前で呼んでくれたし、僕も名前で呼んでいいってことになった。
今日はそんな省吾と一緒にご飯を食べようと声をかけてみることにした。
「省吾」
「どうした?」
「今日、一緒にごはん食べない?」
「……急にどうした?」
やっぱそう聞かれるよね。
今まで誘ったこともないのにいきなり誘われても困るよね。
「ごめん……ダメだよね」
一緒にごはんが食べれることで頭がいっぱいになっていて、省吾のことを何にも考えてなかった。
考えてみれば、彼は今まで誰かと一緒に食事をしている姿どころか、一緒に帰っている姿を見たことがなかった。
教室でも誰とも話さないでずっと机に伏せている彼だから基本一人でいるのが好きなのかもしれない。
正直断られるのはちょっと辛いけど、諦めるしかないよね。
「いや……ダメじゃない。ただ、ちょっとビックリしただけだ」
そっか。よかった。
僕と一緒にご飯を食べるのが嫌とかじゃなかったんだ。
「今日、弁当持ってきてないから購買に行って何か買ってくる。開南は先に食っててくれ」
「いいよ。大丈夫。待ってるから行ってきなよ」
「わかった」
そう言って省吾を購買に行かせた僕は、鞄の中から自分の分の弁当を取り出して省吾が戻ってくるのを待つことにした。
「あれ? かえちゃん一人なの?」
僕にそう声をかけてきたのは同じクラスの美浜美奈さん。その隣には校内でトップレベルの成績で入学した言われている三ノ輪みのりさんも一緒だった。
「ううん。省吾と一緒に食べよう思ってね。今購買に行っているから戻ってくるのを待っているとこなんだ」
「そうなんだね! 私たちも一緒に食べていい?」
「美浜さん、私は―――」
「いいじゃん! 一緒に食べようよー」
「わかったから抱きつかないで……」
駄々をこねる子供のように腕に抱きつく美浜さんと、溜め息を吐きながら降参する三ノ輪さん。
楽しそうだな……省吾もこんな姿を毎日見てるのかな。
そんな風に考えながら省吾が戻ってくるのを待っていると、この教室では聞き慣れない人物の声が突然耳に入ってきた。
「こんにちは~塩屋くんいますか~?」
声のした方向に視線を向けると、我が校の生徒会長―――野矢先輩が僕たちの教室に顔を覗かせていた。
しかも、探している人物は省吾らしい。
生徒会長から直々の呼び出し? 省吾、いったい何をしたのさ?
余程の事がない限り生徒会長が呼びに来るなんてことあり得ないよ?
そう思いつつ美浜さんと三ノ輪さんに視線を向けると二人とも唖然として固まってしまっている。
それどころか、教室内に残っていた生徒全員が固まり凍った空気に包まれていた。
「え、えっと……、省吾なら購買にいきましたよ?」
誰も答える気配なんてものがなかったので僕が代わりに野矢先輩に返事をした。
……って言っても、省吾の出先を知ってるのは僕だけなんだけどね。
「購買ねっ? ありがとう!」
彼女は簡単にそう返事をして教室の前から立ち去っていった。
『おい、聞いたか? 生徒会長からの呼び出しだぞ』
『あいつなにしたんだろうな』
彼女が立ち去ってから流れ始める時間は困惑とひそひそ話。あまり好きになれない空気が流れ始めた。
『どうせあいつが何かやらかしたんだろう。ストーカーとか。そんな顔してんじゃん』
『だとしても、被害者があの可愛い会長だろ? そんな会長がリスクを負ってまで探しに来るか?』
『多分囮だろ。会長が誘き寄せれば自然な感じで生徒会室に連れていくことができる。そこで、あいつの全てが終わるってことだろ』
……何でそうやって省吾を悪く言うんだろう。僕には全く理解ができない。
省吾が君たちに何かしたの?
省吾のことを何も知らないし話したこともないくせによくそんなことを……
どうしよう。すごく悔しいのに僕には何もできない。どうすれば見返すことができるんだろうか。
そんな風に内心悶々としていると、突然両肩にポンポンっと小さな衝撃が走った。
多分、三ノ輪さんと美浜さんに肩を叩かれたのかな。
何だろうと振り返ると、僕の肩を叩いた張本人達は優しく微笑んでいた。
「あの男なら大丈夫よ。あまり悪い方向に考えなくても問題ないわ」
「そうそう。大体シーマンなにもしてないもん。私はそう思うよ?」
なんだ……ちゃんと心強い見方がいるじゃん。
僕なんかと違って頼れる仲間がいるじゃん。
信じてくれる仲間がいるじゃん。
……ほんと、それだけでかなり羨ましいよ。
今まで僕にはそんな仲間がいなかった。
だから省吾達がすごく羨ましく見えたんだ。僕も仲間に入りたい。そう思うようになった。
だから、今回の省吾のこのグループに僕も乱入させてもらうね? 色んな事で学ばされることも多そうだし、本当の意味でいい人間関係が作れそうな気がする。
「あのさ、二人とも。今後、僕も一緒にお昼食べていいかな……?」
省吾が不在のまま聞くのは正直忍びないけど、聞くには絶好のチャンスだと思った。
「……なぜ私たちにその許可を得ようとしているのかはわからないけど、問題ないわよ? あの男には私たちから言い聞かせるわ」
「そうだよっ! かえちゃんも一緒に食べよ?」
「言い聞かせるって……でも、ありがとう!」
僕に新しく仲間が増えた瞬間だった。
些細なことだけど、こんなにまで嬉しい気持ちになったのは久々だった。
早く省吾戻ってこないかな。省吾にもメンバー入りしたことを宣言しなきゃ。
# # #
名前は知らないけど
ほとんどの子がお昼をゲットできたようで、購買の前には数えることができる程度の人数しかいない。
これなら探しやすいね。さて、どの辺りにいるのかなっと……
購買付近を探してみたけど塩屋くんの姿がどこにもない。
もう買って教室にでも戻ったのかな?
今さっき行ったのにまた一年生の教室に行くのもさすがに変な感じに思われるかもしれない。
今日は素直に諦めて教室に戻ってごはん食べよう。時間もあまりないし。
明日こそは見つけて連れ出すから覚悟しておいてね。
そう意気込んで自分の教室に私は戻った。
# # #
野矢先輩が購買に向かってからしばらくして、省吾がやっと戻ってきた。
「シーマン遅いっ!」
「一体どこを徘徊していたのかしら?」
省吾が戻ってきたと同時に理不尽なクレームを飛ばす二人。
戻ってきて早々クレームを受けた省吾はゲンナリとした表情で教室に入ってきた。
「……お前らと食うって約束した覚えないんだが」
「かえちゃんと約束したから問題ないし」
「はぁ……そっすか」
疲れきった声を溢しつつ、僕が座る席の向かい側に腰を下ろした省吾は、購買で買ってきたクリームパンを食べ始めた。
「そう言えば塩屋くん。さっき生徒会長があなたを探していたわよ?」
三ノ輪さんの言葉を聞いた瞬間ピクリと反応し嫌そうな顔をする。
うん。これは何かあったやつだね。
「……いつ来たんだ?」
「あなたが購買に出てすぐよ」
「マジか……」
省吾も野矢先輩が来るとは全く考えてなかったらしく、一瞬驚くもすぐに迷惑そうな顔に変わった。
「あなた、相当狙われているわね。私たちが隔離してあげるわよ?」
「隔離ってなんだ隔離って。俺は花粉か何かかよ」
「PM2.5よ」
「よりたち悪いじゃねぇか……」
「ふふっ……冗談よ」
そう楽しそうに微笑む三ノ輪さんの冗談はキツすぎてあまり笑えない部分がよくある。
僕が言われたら絶対泣くな……省吾って心が強いよね。
「それで、一番有効な対策としてあそこを使うのがいいと思うの」
そう言って三ノ輪さんが指を指す方向に視線を向けると、教室の片隅に設置されている縦長の箱―――アルミ製の掃除用具入れだった。
え? 三ノ輪さん本気で言ってるの? さっき冗談だって言ってたよね?
あそこに省吾を入れるとか僕は反対だよ?
もうこれって虐めと同じレベルなんだもん。
「何でお前は本気で俺のことを隔離させようとしてるんだよ」
「隔離じゃないわ。隠れ場所よ」
省吾の反発にそうきっぱりと断言する三ノ輪さん。何を思ってそう断言しているんだろう。
「他に隠れることができそうな場所とかあるの?」
「あるだろ。体育館とか」
「お昼になる度に体育館へと足を運ぶつもり?」
うん。一日はそれでもいいかもしれないけど、毎日となると無理がありそう。
この教室から体育館まで移動するのも多少の時間はかかる。それを往復となるとその時間も二倍になる。
往復する分の食事時間が思いっきり削られるだけな気がする。
「それに、この教室内のあの箱に入っていれば、私たちの誰かが合図を出すこともできるわ」
あぁ。なるほど。真の目的はそれが狙いだったんだ。それで清掃用具を提案したんだね。
他に隠れるところも無いし確かに一番ベストなのかもしれない。
「それで、その合図を出すのは―――」
「それ、あたしがやるっ!」
三ノ輪さんの説明を遮って自ら合図担当者を名乗り出る美浜さん。
けど、省吾は美浜さんの立候補を却下して僕に合図者になることを提案した。
ちなみに。美浜さんが却下された理由は―――
「このポンコツ天然記念物に合図者なんてもんさせたら、俺が変なタイミングで出て残念生徒会長に捕獲されっちまう」
―――らしい。
なかなかひどい理由だった。もっと仲間は大事にしなきゃダメだよ?
ここまで協力的な仲間なんてなかなかいないよ? 多分……
「とりあえず、明日から外で飯は買ってから登校することにする。昼飯になったらあそこに隠れるから、開南はあの会長がまた現れたら俺はどっか行ったと伝えてくれ」
「うん。わかった」
僕のことを頼ってくれるのは嬉しいんだけど、何で名字呼びになってるのかな?
やっぱ名前で呼びたくないのかな。嫌だったのかな。
でも……昨日はちゃんと呼んでくれたし、僕も省吾には遠慮するつもりはない。
せっかく友達になったんだもん。このチャンスは生かさないと損だよね。
「省吾?」
「なんだ?」
「ちゃんと名前で呼んでね?」
「……おう」
僕がそうお願いすると省吾は困ったように返事を返すだけだった。
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