#22 自称生徒会長
さて。目の前の女子をどう対処したものか。
犬の首輪の如く人の襟袖を掴んで引き留めたこの女子にはそれなりのペナルティーを課す必要があると俺は思う。
だが、ここで俺が下手に手を下せば桃内のような警察沙汰になる可能性は否めない。それだけは避けなければならない。
と言うか、起こしたくない。
あんな面倒な経験二度とごめんだ。
そうやって思考を巡らせていると、先に口を開いたのは彼女の方だった。
「もうっ! さっきから呼んでるのに何で無視するのっ!?」
「いや……俺以外の人間を呼んでいるのだと思ってたんですよ」
「この道路に君以外誰もいないじゃん!」
そう指摘され周りを見渡してみると確かに誰一人もこの道路を歩いている姿を見つけ出すことができなかった。
くそっ。何でもないときにはうじゃうじゃとバカップルがいるくせに、こう言うときにだけ誰一人いないとかあり得んだろ。
「そんなことより、さっきの話。君は本当に私が誰なのか知らないの?」
「はぁ……さっきも言ったじゃないですか。“知らない”って。大体、俺とは初対面でしょうよ」
「はぁっ!? そんなわけないっ! 君、ちゃんと学校には登校してるの?」
「いや何であんたにそ―――」
「いいから答えてっ!!」
なぜにそんなに俺が学校に出ているのかを聞きたがるんだろうか。
ここに来てまさかのお説教タイムか?
勘弁してくれよ。俺はこの後ブラック企業の我が部室に足を運んで未成果を報告して罵倒されなきゃならんのだ。
こんなところで時間を費やして時間に遅れると罵倒の内容がディープになってしまう。
「学校にはちゃんと行ってますよ」
「全体朝礼にもちゃんと出席してるの?」
「いやだからな―――」
「答えてっ!!」
「……ちゃんと出てます」
この人怖い。何でこんなにお怒りモードなの?
呼んでるのが俺だと思わなくて気づかなかったのと、初対面だってことを正直に話してるじゃん。
俺何も怒られるようなことしてないよね?
理不尽すぎる……。
「ちゃんと出てるんだね。それで、壇上に上がっている人の話はちゃんと聞いてる?」
「……眠くなるので寝てます」
「なっ……!?」
俺がそう答えると、目の前の女子は顔を真っ赤にしてプルプルと震え始めた。
そろそろ季節的には夏だのに寒いの?
夏風邪ですか?
それともインフル?
いややめてください。移さないでください。
「ム……」
「ム?」
「ムッキイィィィィーーー!!」
「うおっ!? ビックリした……」
急に静かになったかと思えば、顔を真っ赤にして奇声を発し始めた。
腕を上下にブンブンと振り、その場で地団駄を踏み始める。
突然奇声を発するのマジで止めてください。心臓に悪いです。
「何で寝てるのよっ!! 人の話をちゃんと聞かないとかおかしいでしょっ!!」
「えぇ……」
猿の奇声のような甲高い発狂をしたかと思えば、涙を浮かべながら俺を睨み付け、もう抗議をしてくる彼女。
何で俺はこの人に怒られてるんだろうか。
いや、人の話をちゃんと聞かない辺りは悪いんだろうけど。
それでも、部外者のあんたには関係ないじゃん……
「つまらない校長先生とかの無駄話はどうでもいいけど、生徒会長の話を聞かずに寝るとはどう言うことなのっ!?」
うわぁ……。校長の話を無駄話の一言で片付けたよこの人。
それと、地面を思いっきり踏み固めながら抗議してくるの止めてください。地面がかわいそうです。
「今すぐ謝罪して!」
「誰に―――あぁ……会長にですか?」
「そうだよ! 今すぐ謝って」
「今すぐって……ここに会長は居ないじゃないですか」
「だぁぁもうっ! ここにいるでしょっ!」
「いや、周りに誰も居ないじゃないですか。それとも、見えない存在の人のことを言ってるんですか? もしそうだとすれ―――」
「わ・た・しっ! 私が生徒会長なの!」
「はぁ……」
またとんでもない虚言を吐き出したな。会長のなりすましなんてしてたら怒られるぞ?
俺には関係ないけど。
「その微妙な反応が気になるけどまいいや。とにかく謝って」
ジト目で睨んでくる彼女は俺の微妙な反応を一先ず気にしないことにして謝罪することを再要求してきた。
何がなんでも俺に謝罪をさせたいらしい。
うん。普通に考えて嫌なんだけど。何で俺がこんな
むしろ、さっきまで妨害していたことを謝ってほしいぐらいだ。
とは思ったんだが……このまま謝らなければ余計引き留められるしうるさくなりそうだ。
ここはさっさと謝ってこの人とはさよならするとしよう。
「……どうもすみませんでした?」
「何で疑問系の謝罪なの?」
んなもん俺が納得してないからに決まってんだろうが。
謝れと言われて“はいすみませんでした”とすぐに頭を下げる人間じゃねぇんだよ。
「……君、名前は?」
「塩屋です」
「下の名前は?」
「……それも言わなきゃダメですか?」
「当たり前でしょ? 君は自己紹介もできないの?」
この人に自己紹介も出来ないクズヤロウと思われるのはさすがに癪に障る。
それに、俺は何を言われようとどうでもいいが、俺とと関わっているあいつらに悪影響が出かねない。
「……省吾。塩屋省吾です」
「塩屋省吾君ね。私は
「わかりました。俺、これから部活なのでもう行っていいですか?」
「これから部活なの? 頑張ってね~。応援するよっ!」
応援するなら俺の作業の妨害をまず止めていただきたい。
俺の時間を返してくれ。
「では
「うん。頑張ってね~っ!」
よし。これで話は片付いた。
後は俺の言葉に気づいた彼女に捕まる前に早いところ逃亡することにしよう。
自称生徒会長に校門前で大きく手を振って見送られながら、足早にその場を立ち去った。
# # #
うーん……
何だろう、この妙な違和感。
校舎に向かって足早に立ち去る彼を見送りながら違和感について考えてみることにした。
まずこの時間から部活? 今の時間は8時を少し過ぎたところ。果たしてこんな時間から部活なんてあるんだろうか。
いや、運動部なら可能性はあるかもしれない。バスケとかサッカー部、野球部なんて毎日朝練をやっているくらいだ。
彼が嘘を言っている可能性はこれで消えた。
残る違和感は……
生徒会長失礼します。いや違うそこじゃない。
自称生徒会長―――自称!?
「ムッキイィィィィ!」
彼の言葉を思い出して何ですぐに気づかなかったのか、自分をここまで恨むことはかつて無いだろう。
ムカつくムカつくムカつくムカつくー!
何なのあいつ! 私が自称生徒会長だって!?
この会長である私をここまで
どういう意味で言っているのか問い詰めてやろうと塩屋くんの方向に視線を向けると、彼は既に校舎の玄関にまで辿り着いていて追いかけるには不可能な距離だった。
それに、何か私のことを女としても見ていないみたいだし。
……面白い性格してるね。
こうなったら私のことしか考えられないようにするまでだ。どんな手段も使うから覚悟しておくようにっ!
……それにしても。
「だぁぁぁあもうっ! ほんっとムカつくーっ!!」
学校の正門前で大声をあげて叫んでいるせいで学校に入ろうとしている生徒や通行人からの怪奇的な視線を送り込まれているけど、そんなことは私には無関係だ。
だってムカつくんだもん! 仕方がないじゃんっ!
鬱憤を晴らすかのようにジタバタと暴れ叫びまくっていると、不意に肩を叩かれた。
後ろを振り返ると警察官二名が訝しげにこちらを睨んでいた。
どうやら110番通報されたらしい。
ひどいよ。こんな可愛い女の子が怒っているだけで警察に通報だなんてあんまりだよっ!
「君、ここで何してるのかな?」
「へっ……? 私ですか?」
「そうだよ。他に誰がいるの?」
確かに。直接肩まで叩かれているんだから私しかいないよね。
とぼけてみたらうまく行くかなと思ったけどダメでした。てへっ☆
「何って……何も?」
「いやいや、今さっきまで暴れてたよね?」
うわぁ……見られちゃってたか。
冷静になって思い返してみるととても人には見せられない行為と奇声を発していた気がする。
嫌だもう。お嫁に行けない……
「君、危ないことしてないよね?
ねぇお巡りさんさぁ、もう少しオブラートに包めないのかな?
年頃の女の子に“
そして、変な方向性で私のことを疑わないでっ。
私はそういったことには手を出してない。『ダメ、ぜったい』が言えるちゃんとした女の子だもん。
「ここで話すのもあれだから一先ず交番に行こうか」
えっ? まさかの連行されるパターン? さすがにそれはマズいよ!
「交番は嫌です! 話ならここでもいいじゃないですか!」
「ここだと人の目もあるから言ってるんだよ? それとも、狭い交番より広々とした警察署がいいかい? 今ならパトカーでの送迎付きだよ?」
「……それはもっと嫌です」
警察署行きとかもっと嫌だ。しかもパトカーでの送迎付きとか全然嬉しくない。
大人しく従った方が方が無難そうだね。
「わかりました。交番に行きます」
「そうか。付いてきてくれるか。君みたいに素直に協力してくれる子がいるとこっちも助かるよ」
これは協力とは言わないです。半強制です。警察署と言う名の大きなカゴに入りたくないだけです。
何でこんなことになっんだろう……。これも全部塩屋くんが原因だね。
この借りは大きいよ? 長期に渡ってこの仮を返すから覚悟していてね?
この後、近くの交番に移動してどうしてあんな状態になった経緯を話すと、交番内にいた警察官に思いっきり笑われて恥をかく羽目になった。
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